告白

 告白はとても勇気のいることだ。

 それはアタシ自身が身を持って知ったばかり。

 その勇気を、コウはアタシのために出してくれた。

 うれしくてうれしくて涙が止まらない。

 だからその想いに応えたいんだ。


 アタシも勇気を出さないと。





 人のいない屋上で、なじみが静かに話しはじめた。


「ねえコウ、覚えてる。初めてここに来たときのこと」


「ああ、覚えてるよ。こっそり窓から忍び込もうとして足を滑らせたんだよな」


「コウが手を伸ばして助けてくれたんだよね」


「あのときはマジ焦ったな。人生で一番早く走った自信があるよ」


「ふふ。そんなに慌ててアタシのこと助けてくれたんだよね。ありがとう」


「なんだよいまさら。そのお礼なら何度も聞かされてるぞ」


「アタシを助けてくれたんだもん。何度でもいうよ。それに、少し勇気がほしかったから」


「勇気?」


「……きっかけはね。本当はもっと前なんだと思う」


 そう告げるなじみは、どこか遠くを見ているようでもあった。


「いつからってのはなくて、気がついたらそうだった。でも、それでもやっぱり、助けてくれたあのときが一番うれしかったかったから、思い出すと勇気がわいてくるの。

 コウはいつだってそうだったよね。アタシのために勇気を出してくれる。それを当たり前に思ってたけど、それは本当はとても、とても特別なことだったんだよね」


 そういって、なじみは一度だけ深呼吸をすると、まっすぐに俺の目を見つめた。

 その瞳は涙に濡れていたけど、うれしそうにほほえむ。



「ありがとう。好きだっていってくれて。アタシもコウが大好きだよ」



 その言葉は予想していたはずだった。

 それでも、じわじわと胸の中が温かくなっていく。


「そっか……。うん。そっか。なんというか、あれだな。すっげー恥ずかしいなこれ」


「ちょっと、そんなに照れないでよ。こっちまで恥ずかしくなってくるじゃない」


「そうはいってもな。すっげー心臓がバクバクいってるし」


「わかる。アタシも今すっごいバクバクいってるよ。さわって確かめてみる?」


「で、できるわけないだろ!」


「ええー、コウの意気地なし」


 そういう問題じゃないだろ。

 ……意気地がないのは否定できないが。


「こういうのって思ってたよりもうれしいんだな」


「これからはアタシ達恋人同士だね」


「改まっていわれるとなんだか恥ずかしいな」


「でも、今までとあまり変わらないかな?」


「そんなことないだろ」


「でもほとんど毎日一緒だったし、しょっちゅうデートもしてたでしょ」


「そうかもしれないけど。でも、友達と遊ぶのと、彼女と遊ぶのでは、きっと全然違うだろ」


「……うん、そうだね。きっとそうだと思う」


 なじみが一度、二度と静かにうなずいた。

 大切なものをゆっくりとかみしめるように。


「それでひとつお願いがあるんだがいいか」


「もちろん、コウのお願いならなんでもいいよ」


「……なんでもいいの?」


「え? ……あっ!」


 なにかに気づいて顔色を変える。


「い、今のはなしっ。エッチなのはダメなんだから!」


 わたわたと慌てて腕を振り回した。


「まだなにもいってないけど」


「と、とにかく今はまだダメなの!」


「今はまだ?」


「~~~~~ッッ!! とにかくなんでもはダメっ! アタシにできることなら、なんでもいいよってこと!」


 顔を真っ赤にして怒る。

 普段は俺がからかわれることが多いからこういうのも楽しいんだが、今日はこの辺にしておこう。


「頼みというのは、なじみに俺の家へ来てほしいんだ」


 それが親父との条件だからな。


 とはいえまあ断られることもないだろう。

 だから簡単に頼んでしまったんだが、なぜかなじみは耳まで真っ赤にしてもじもじとうつむいてしまった。


「俺の家に来いって、それはつまり……結婚しよう、って意味だよね……?」


「あ、ああ……。まあ、そういうことになるな……」


「………………」


 かろうじてうなずく俺に、なじみは無言のままだった。

 髪のあいだから真っ赤な耳がのぞいている。

 一応告白の時にも「結婚しよう」と言ってはいるんだが……。


「……」


「……」


 ……今さらながらに冷静になってきた。

 いきなり結婚しようだなんて、急すぎるにもほどがある。

 ひょっとして俺はものすごい恥ずかしいことを言ったんじゃないのか?

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