第7話 最寄りのコンビニ、店員さんにどう思われているかって結構重要だよね。

「はぁ……」

 古瀬さんと話したあとの一人歩く帰り道。多摩モノレールと京王線を乗り継いで八王子の家へとトボトボと歩く。ついたため息が白くなり、コートのポケットに突っ込んだ手も少しかじかんでいる。

 わかっていても辛いものがある。

 島松について話す古瀬さんの表情が、僕にはとても活き活きしているように見えたから。

 ああ、これがよく聞くあれか、女性と一緒にいるときに他の女性の話をするなってやつか。うん、そうだね、こんな気持ちにさせるなら僕は絶対にしないようにしよう。……そんな日が来れば、の話だけど。

 世間は完全にクリスマスモード。どこを見渡しても緑色と赤色の電飾が目についてしまう。

 あー、なんかいたたまれないなあ。……そうだ、注文していた同人誌、コンビニに届いたってメールが来たから受け取りに行かないと……、ちょうど通り道だし、今日行くか。

 駅から徒歩十分のところにある僕の住んでいるアパート、そのすぐ目の前にコンビニが一軒ある。とても便利な立地ということもあり、手抜きご飯を用意するときや、家で受け取れないとき(実家にしばらく帰っているとか)通販の受け取り場所などとして重宝させてもらっている。

 「クリスマスまで、ファムチキ20円引き」の文字を見つけ、クリスマスのチキンはもうここのでいいかななんて思いつつコンビニに入る。

「いらっしゃいませー」

 もう自炊するのもしんどい気分なので、ここで一緒に夕飯も買っていこう。えっと……あー、もうレトルトのカレー買って、家でご飯炊いてそれで食べよ。土曜日カレーだったけどもうなんでもいいや。

 紙の箱に入ったレトルトのカレーを一個持って、レジに向かう。

「いらっしゃいませー」

 カレーを置き、

「すみません、あとこれの受け取りに来たんですけど……え?」

 店員さんに、スマホの画面を見せようとしたそのとき。

 なんか見覚えのある顔だなあと思った。

「本の受け取りですねっ、上川君っ」

「あ」

 ……ああ、神様どうかお願いします、どうか嘘だと言って下さい。どうして僕の最寄りのコンビニに。

 栗山さんがいるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉ。

 彼女は上機嫌そうに髪を跳ねさせながらバックヤードに下がっていく。少しして、僕が注文した同人誌を持ってきた。

「タイトル合っているか確認お願いしまーす」

 ……今度から、ここで18禁の本を受け取るのはやめておこう。危険が危ない。

 と、日本語が怪しくなるくらいに動揺していた僕はタイトルを確認する。

「……大丈夫です」

「会計別になりまーす。まず本が千二百円でーす」

 ……ものすごく嫌な予感がするんだけど。大丈夫かなあ……。

 財布から千円札一枚と百円玉二枚を取り出す。

「はい、ちょうどですねー。もうひとつが、百五十円でーす」

「そっちはIDで払います……」

「はーい、では光ったらタッチをお願いしまーす」

 端末にスマホをかざし、ピピッと音が鳴る。

「ありがとうございまーす。袋はお分けしますかー?」

「……一緒でいいです」

「はーい。……ところで、サンタコスしている女の子が出てくる本が好きなの? 上川君」

 ぁぁぁぁぁぁぁ、やっぱり突っ込まれたよぉぉぉ……。

 こんなことになるなら、十二月の頭に「どうせ今年もクリぼっちだから二次元の女の子のクリスマスっぽい気分になる本でも買おう」なんて思わなければよかったぁぁぁ。

 は、恥ずか死ぬ……っていうか栗山さんちょっとニヤニヤしているし。

「べ、別に僕の勝手じゃないですか……じゃあ、これで」

 僕は満面の笑みを浮かべている店員さんからレジ袋に入った本とカレーを受け取り、店を後にした。

「ありがとうございましたーまたのご来店お待ちしてまーす」

 ……ああ、本当に最悪だ。

 このときの僕はそう思っていた。しかし、ついていない日はとことんついていないもので。

 夕飯を簡単に済ませ、お風呂にも入りパソコンでゼミのレポートをカチャカチャ打っている夜の零時。

 ピンポーン。

「上川くーん、泊―めーてっ」

 僕の平穏をかき乱す悪魔の呼び声が玄関から聞こえてきた。

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