第9話 チート来た……のか!?



 しかし異世界に来て早々、逃亡生活突入とか俺の人生ハードモード過ぎませんかね。


 ――何か虚しいよ、お母さん……。


 い、いや別にマザコンって訳じゃないんですよ!? そこんとこ誤解の無いようにお願いしますっ。ダメージが大きすぎるから、マジでっ。


 たださ、こうゆう突発的な出来事に対処するのが、親父よりよっぽど上手かったってのがあってさ。

 異常気象の時とか、ドンッと身構えてて頼もしかったなぁ。どこでも生きてけそうなその度胸というか強さは、子供の頃の自分には憧れとして映ったものなんだよ、うん。




 ま、まあ、そんなことはともかく、せっかく社畜から解放された訳だし、聖獣に導かれて世界までをも渡っちゃった訳だし?


 のんびりまったり暮らしたかったなぁとか思う訳ですよ。ラノベにあるような、異世界でスローライフをっていうやつをさ。


 精霊樹は人跡未踏の自然豊かな場所にあるって言うから、ある意味希望は叶っているのか?


 ……でも、そんな野趣あふれる場所ならすっげえサバイバルしなくちゃいけない予感がするし、全然スローライフになりそうもないんだけど。

 精霊樹が魔物を寄せ付けない特性があるとはいえ、そこに辿り着くまでの道のりも大変そうだし。


 のんびりゆったり……とは絶対いかないだろうけど、街中にいるよりは人的な危険が少なそうなとこだけが救い、か?




 ――よしっ、まずはどっちの方向に進むか早く決めよう。


 周辺の地図とか、見せて貰えないかな。この世界の地理って何にも知らないから、なるべく詳しいやつで神官さん達の解説付きとかだと尚ありがたいが、そこまでだと甘えすぎか?


 そもそもこの神殿に地図とかあるのかな。聞いてみようか?


 それを言い出す前に、神官さんが一つ、いい提案をしてくれたんだ。


「あのですね。やはり、ケイイチの場合、エルフの国に保護されるのが一番いいと思うんです。ちょうどいいことに今、この国を視察……ではなくて、えっと……神殿に巡礼で訪れられたエルフの神殿騎士の方がですね、いらっしゃるんですよ。いやぁ、本当、いいタイミングでしたよね!」


「おおっ、それは助かります」


 ――ほうほう、それはそれは。偶然とはいえナイスなタイミングですね! 


 まあ、神官さんが言いよどむあたり、時期的に精霊樹の調査をしに来たんだと察したけどさ。そこは言わないのが大人の対応ってもんだよな、うん。


 エルフなら精霊樹の場所も人間よりもよく知っているし、丁度いいんじゃないかとのこと。

 そりゃあ、一緒に連れていってもらえるならありがたいけど、そのエルフさんは異世界人の同行を許してくれるだろうか……。


 騎士っていうくらいだから強いだろうし心強いけど。


 僻地に向かうのに無力で土地勘のない男と魔力食いの卵だけじゃ、本当に不安で心細かったから俺としては是非お願いしたいです!



 ――散々ついてない一日だったけど、やっと運が向いてきた……のかもしれない。まだ油断は出来ないけどな!?



「夕方になればその方が戻って来られます。紹介はその時にしましょうね」


「ええ、是非! よろしくお願いします!」


 ――エルフの神殿騎士かぁ。


 なんかファンタジーぽくってワクワクするよなっ。


 あれかな……やっぱり耳が尖ってて金髪碧眼で細身の美形揃いなんだろうか?


 好奇心を抑えきれなくて神官さん達に聞いてみたところ、どうやらその認識であっているらしい。




「しかし、ケイイチの世界には人間族以外はいないんだろ? なのによくエルフの名前とか特徴とかを知ってたな?」


「いやまあ、俺のいた世界では妖精と同じく実在しない空想上の生き物だったんですけど。でも、何か、不思議ですよね……」


「なにがです?」


「僕の国には、妖精やエルフ、ドワーフなんかの伝承があるんですよ。その伝承の中の姿が、こちらの世界の住民たちの特徴とよく一致しているんです。何故なんだろうって思いまして……」


 偶然にしては、あまりにも似すぎてやしないかと考えていると……。


「ああ、成る程。確かにそう思われるのも無理はありません。でもそれは多分、こちらの住民があなたの世界に異界渡りしたんじゃないかと考えられるんですよ。今回のケイイチのようにね」


「やっぱり、そうですか」


 神官さんの推察を聞いて、納得してしまった。


 まあ、なんとなくそんな気はしてたけどさ。思った以上に世界が驚きで満ち溢れ過ぎてる。




 あ、そういえばもう一つ、気になってたことがあったんだった。ついでに聞いておこう。


「他にも疑問に思うことがあって……。初めてアルフレッドに会った時、何で日本語が通じるんだろうって不思議だったんですよね」


 この短期間で色々あったから、すっかり忘れそうになっていたけどなっ。


「あぁ、それはおそらく、聖獣の魔法で自動翻訳されているからでしょうね」


「自動翻訳……ですか?」


「ええ。落とし人は最初、言葉で不自由されると聞いていますから。こうして言葉が通じるのはその魔法のおかげでしょう。聖獣との魔道回路が繋がったことによって、意志疎通に不自由しないために自動的に翻訳されるようになったんだと思われます」


「成る程……」



 ――それは便利だ。



 チート……とは言い切れないかもれないけど、この世界で暮らしていく上で 絶対必要な能力だから、あって嬉しい特典かもっ。


「ちなみにですが、この世界の文字も読めると思います」


「本当ですか!」


「ええ、文字も自動翻訳に含まれますから」


「おおっ、わざわざ一から文字を覚えなくていいのか……何か羨ましいぞ。これは得したんじゃないか? 良かったな、ケイイチ!」


「ええ、確かに文字までとはっ。これはかなりうれしいです!」


「まあ、悪いことばかりではないってことですよ」


「はい、神官さん。そうですねっ」


 ――なんか元気が出てきたっ。この世界でやっていけるかもしれない!







「では、神殿騎士の方が帰られるまでに、周辺地図の勉強とか、ケイイチの魔力測定などをしておきましょうか?」


「はい、よろしくお願いします!」


「あっと……じゃあ俺は切りがないし、一旦、ここらで帰るわ」


「あ、そうですよね。アルフレッド、仕事途中だったのに……長い時間ありがとうございました」


「随分とお引き留めしてしまって……ご苦労様でした」


「いいってことよ。じゃあな、ケイイチも元気で」


「はい、アルフレッドも」



 ――そうして、異世界で初めて出来た友人は帰って行ったのだった。







「では早速ですが、これが周辺の地図です」


 アルフレッドが帰ってすぐ、神官さんが一枚の地図を持ってきてくれて、机の上に広げてくれた。


「拝見します。……ああ、結構近くまで森が迫ってきてるんですね?」


「そうなんですよ。先程、精霊樹の近くは魔物が嫌がり近寄らない、安全な領域だと申し上げましたでしょう。そうなるとやはりこのような場所に街を作るのが一番、自然に恩恵を受けられますから……」


 例えば王都などが、精霊樹から離れた土地に建設できるのは、魔物避けのために高価な魔道具を使って、周辺を覆う大結界を築き上げているおかげだという。

 その結界があると魔物が入って来れないみたいだが、維持するには莫大な資金と魔道具を扱える人材が必要になるため、実用的ではないのだとか。




「へえ。精霊樹の恩恵ってすごいんですね」


「ええ、そうなんですよ。それで詳しいルートについてですが、こちらは同行予定の神殿騎士の方が詳しいので後で聞いていただくとして……この街から一番近いエルフの国は、南側の大森林の中にありますね」


 え、それだけ? 随分とアバウトな……。


「……もしかして、国の場所とか距離なんかの情報って、無かったりします?」


「はい、残念ながら。エルフ族は他民族からの干渉を極端に嫌うんですよ。美しい容貌が災いして、色々な災難が降りかかったということもあり排他的でして。国の周辺には種族結界が張ってあり、同族以外は招かれた者しか入ることができないのです」


「なるほど、そう言うことなら仕方がないですね」




 もともと大森林には、磁場が狂っている場所や人の五感がおかしくなり易い魔素溜まりの影響もあって、迷いやすいところなんだとか。


 そんな厄介な森の中にある為、普通の人は案内人なしにはエルフの国へと辿り着けず、森をさまよう事になるのだが、それがなければ何週間もかかるという事は無いはずですと苦笑しながら教えてくれた。


 こうなると益々、エルフ族の神殿騎士さんに同行を認めてもらわないと俺の異世界人生が初日で詰むなぁ……。


 異世界に来たからには、何か大きな使命を背負っているのではとか、秘められた力があるのではないかとかいってテンションが上がるのは、ピチピチの若者だけだと思う。

 仕事に疲れた社畜である俺は、そんな波乱万丈な展開は欠片も求めてないというのに……どうよ、この厄介事に巻き込まれました感は……。



 ――ライトで楽な感じのイージーモードを希望なのになぁ……残念ながら現実は、異世界だろうと変わらず厳しいらしい。





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