第6話 俺を保護した餓鬼って、大丈夫なのか?

SIDE ???


 体全体がずきずきと痛む。あの、森でモンスターにたかられたせいだ。逃亡の末、意識を失ったのか。

 俺は心の中でクソッと叫ぶ。何せ、熱があるのか声が出ないのだ。しかし、目は開けられる。自力で重いまぶたをかっ開く。音も微かに聞こえるのか、食器のぶつかる音やら誰かの足音が聞こえた。


「······っう」


 体を起こそうとして失敗する。痛くて起こせなかった。仲間たちが逃げるための餌にされて、この様とは愉快なもんだ。

 しかし、ここはどこだ?

 小さな家のようだが、あの森の近くなのだろうか。


「あ、起きたんですね。良かったぁ、目覚めないかと思ったんですよ」


 誰かが俺の顔を覗きこむ。きれいな顔の、たぶん男だ。白い肌で、目がきれいな色彩をしている。たれ目で、女みたいだ。

 そして、物騒なことを言いやがった。


「おい」

 

 俺はそいつを呼ぶ。

 そいつは思ったより驚いて、怯えるような顔をした。


「ふぁ、ひゃい!」


 元気な返事ですねとは褒めれない。女みたいな返事だ。俺は眉を寄せた。すると、そいつは首をかしげた。

 

「傷は痛みますか?

 回復魔法とやらを使おうと思ったんですけど、初使用で」


 あたふたと、戸惑ったように俺に問いかける。魔法が使えるのか。そりゃあ、便利なこって。俺は舌打ちをした。


「痛ぇんだ。魔法使うなら早くしろ」


 睨むと、ソイツは頷いた。黒いローブのフードを脱いで、完全にそいつの顔が露になる。白い肌と対称となるような黒い髪の毛。本当に女みたいな造作のやつだ。ソイツは俺の目の前に手をかざして、目を閉じた。細ぇ手だな。

 それから、数秒後に体の痛みが引いていく。わりと楽になるもんだな。仲間は俺みたいな昼行灯に、そんな手当ては施すことがなかったから。俺はやっと、楽に呼吸できるようになる。

 すると、腹辺りに衝撃が走った。


「オイ!」


 俺は叫んでいた。奴が倒れたのだ。

 

「チッ、魔力消費の反動かよ」


 すうすうと安らかな寝息をたてる餓鬼を見る。ステータス表示をシークレットにしてないのか。俺は興味本意でやつのステータスを開く。

 この国じゃ、どいつもステータスを非表示にしてるってのに、間抜けだな。



「あ"?」


 可笑しくないか。このステータス。幻のLv.0じゃねえか。俺は唖然として、ステータスを読み進めていく。読めないのもあるが、アビリティは全部SかAだ。国でもまれな、異常値だ。魔力値は見たことのない四桁。


「マジで、何でこんな山奥に住めてるんだ?」


 俺は呟いた。こんなイカれたステータスなら貴族や商人、稀少なら王族にすら売り飛ばされるぞ。

 すると、奴が小さくうめいた。まぶたが震え、目覚めを理解した。こいつに、ステータス見たのバレねぇよな?


「ふぁっ、ご、ごめんなさい!

 魔法使ったら、急に眠気がして。

 いつもはこんなことないから、油断してました!」


 土下座しそうな勢いで、やつは頭を下げる。なんか、ムカつくな。女みたいな顔の癖に、いっちょまえにステータスがイカれてやがるし。


◇◆◇◆◇◆◇◆

SIDE ハル


「ザックさん。スープとパンがあるので気が向いたら食べてくださいね」


 テーブルの上に熱々のスープと、育てた小麦で作ったパンを置く。あの鎧のお兄さんはアイザックといって、ザックさんだ。年齢は22歳と言っていた。強面というか、不良みたいに怖い。

 

「野菜があるのか」


「え、はい」


 ザックさんが呟いた質問にうなずく。なんなら、俺が作りましたって、写真を貼ったビニル袋に入れてやろうか。と、心のなかだけで思う。いったら後の祭りだなんて思えもしない。というか、血祭りになりそうだ。


「そうか。どこで育ててるんだ?」


「えーと、ここの表の畑ですけど」


 質問の意図が全くわからない。俺は首をかしげるが、ザックさんは気にせずスープを食べている。

 そう言えば、エルが部屋から出てこないな。ザックさんが来てからずっとだ。


「どれくらいで育つ」


 ザックさんの質問は続く。どういうことだ、野菜なら大きな街で暮らしているザックさんも口にするだろう。それに、魔法で育つのだから。


「どれくらいって、

 魔法で水やりしたら直ぐに食べられるようになりましたよ?」


「あ"?」


 質問に答えただけなのに、ザックさんは俺を睨む。怖いよ。マジで。

 それに、俺のスープのジャガイモとるのやめて。育ち盛りの高校生なんだよ。今は異世界で農業とエルのお世話しかしてないけど。たまに、キノコ狩りもするけど。友達いないけど。


「本当なんですよぅ。本の通りに育てただけなんです!

 本には何日で育つかなんて記されていないし、それが当たり前だろうと······」


 本にはいくらで育つかとは書かれていなかった。

 方法しか書かれていないから、秒で育つのが当たり前だと思うじゃん!


「それは、お前の魔力値がイカれてるからだよ!

 魔力水で水をやったんだ、お前の魔力の大きさ分、早く育つさ!」


 当たり前だろうと、ザックさんは怒る。魔力が大きいのか?

 俺が?

 だって、Lv.0よ?


「でも、レベルが」


「だー、うるせえな。それは上限知らずのステータスなんだよ!

 最初っから、完璧な幻のステータスなんだよ!」


「え、まぼろし?」


 聞き間違いだろうか。俺みたいなやつに、そんなものを与えて、俺が使うとでも思うのか。ビビりだぞ。俺。

 すると、ザックさんが俺をあり得ないものを見るような視線を向けてきた。


「知らねぇのかよ?」


 ザックさんの片手で頬を挟まれる。痛い。

 今ご飯中なのに!


「知りまふぇん。ひゃって、おりぇ、

 ここに来たのついしゃいきんなんでひゅもん」


 頬をつかまれて、ちゃんと言えない。何て恥ずかしい。穴があったら、掘って埋まりたい。俺の精神はズタボロだ。


「何処の閉鎖された里の餓鬼だ?」


「ひょこの、きにょこの森のそりゃから」


「空からだぁ?

 ふざけんな!」


 怒られた。素直にいったのに、嘘をついて殴られたならわかるけど、素直にいって怒られるなんて。鬼か蛇か、みたいなロシアンルーレットは嫌だよ。すると、ザックさんははっとしたような顔になって、椅子にストンと座る。

 

「御神託の奴か······」


 ザックさんはなにか呟いた。俺は聞き取れず、戸惑う。なにか、嫌な予感がしたのだ。そう。

 俺の部屋からエルが何事かと思うほど暴れはじめてから。

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