第8-1話 もっと気持ち悪いやつ―晶斗


ミーシャに本当に偉そうにアドバイスなんかしたけど、自分も次からはいよいよ油断していられない。たぶんシュウはゲームオーバーになってセーブポイントに戻っているんだろうけど、僕はそれをあえて迎えに行くことをせず、ミーシャと二人で話をしながら闘技場に向かった。


ミーシャはいつも通り明るく話をしてくれたし、僕も多分それなりの受け答えは出来ていたと思うけど、その間何の話をしたか分からないくらいには緊張しているみたいだった。



「じゃ、行ってくるね。」

「頑張って。」



先に試合が行われることになっていた僕は少し早いけど控室に行くことにして、緊張していることを出来るだけ隠してクールにミーシャにあいさつをした。


何回戦ってもやっぱり試合の前って緊張する。だから部活なんかしたくないって避けてきた人生だったのに、結局ゲームでこうやって戦うことになるんであれば、私生活でもっと慣れておけばよかった。



よく意味の分からない後悔を抱えつつも控室に行って、試合までの時間少しでも集中力を高めるべく椅子に座って静かに目を閉じた。



たくさん準備してきた上位者闘争マスターズバトルが、もうすぐ終わろうとしている。

現実でも今年は球技大会で運営委員なんかになって、最近本当に忙しかった。その影響もあって毎日大変で寝不足で辛かったけど、どちらも同時に終わってしまうって思ったら、それはそれでなんだか悲しい。



あ、でも岩里さんに借りた本読まなきゃ。



借りたのはいいものの、まだ1ページ目も読めていない本のことを漠然と考えた。


別に本が嫌いなわけではなかったけど好きでもなかったから触れようともしてこなかったけど、今回はそういうわけにはいかない。あの本を読んでどんな感想を言うのかが、これからの岩里さんとの関係を進める上でとても大切な事な気がしていたから、これが終わったら一文字一文字丁寧に読もうって決めていた。



それにしても、かわいかったな。



その本から連想されて、球技大会の前にキレイな姿勢で本を読んでいた岩里さんのことを思い出した。



これじゃ、全然精神統一できないじゃん。



集中しようとしたはずなのに思いっきり関係のないことを考えて心を乱している自分に気づいて、僕は急いで目を開けた。その時ちょうど闘技場に向かうよう促すアナウンスが鳴ったから、僕は自分の両手で両頬を思いっきりたたいて、気合を入れて会場へと向かった。



「さぁ~みなさんっ!

おぉまたせしましぃた~!

僕、ザックですよぉ~!」



準々決勝からは大げさな選手入場みたいなのがあって、またここからはヘンテコが司会や実況を務めるみたいだった。みんなが待ってたみたいな言い方で登場するもんだから、ヘンテコは会場から「待ってねぇよ!」というブーイングを一斉に受けていた。



「もぉ~皆さん照屋さんでぇすねぇ~!

ささっ、そんなことはさておいてぇ~。

早速選手入場と参りまぁす~っ!」



ヘンテコは昨日と変わらないヘンテコダンスを踊りながら会場を盛り上げた。僕としても観衆が盛り上がっていてくれた方がやる気が出るから、もっと頑張ってくれと初めてアイツのことを応援した。



「最初に登場するのはぁ~~~~

初戦では15位と苦戦するもぉ

ヒーローらしいかっこいい活躍で注目を集めたぁ~

アレックスさんでぇす!」



その言葉を合図に、僕は勢いよく会場に出て観衆に向けて手を振った。すると四方八方から女の子の黄色い声援が聞こえてきて、そのボリュームは去年よりも大きいように感じた。



うっっわ。

マジで気持ちいい、これ。

一生やりたい。

ずっとやってたい。

もはやスマホに入れて聞きたい。

サブスクで配信したい。



みんなに聞こえないのをいいことに心の中では絶対に口に出せないことを考えつつ、僕はみんなに手を振り続けた。さっきまでの会場からするとここは収容人数は4倍だから声援が大きいのは当たり前だけど、それにしても気持ちよくてたまらない。



あまり続けていても飽きられてしまうからほどほどにしなくては。

そう思いつつもしばらく歓声に浸っていると、たくさんの観客の中で大声で何かを叫んでいるミーシャと、横にぶっきらぼうな顔で座っているシュウの姿を見つけた。



お、戻ってきてる。



シュウが戻ってこれている事へひとまず安心した。

ミーシャはその間もずっと僕に向かって何かを叫んでくれているようだったけど、大きな歓声の中では何を言っているかはさっぱりわからなかった。

でも応援してくれてるってことだけはよく分かったから、二人のいる方に向けて指をさして答えると、また観衆がドッと沸いた。



「さすがの人気でぇすね~!

今年一番人気なだけありまぁす!」



よほど僕がしつこかったのか、ヘンテコに途中で止められてしまった。もう少し浸りたかったなという気持ちをおさえつつ、僕は定位置へとつくことにした。



「続きましてぇ~!

そんなヒーローと対戦するのぉは~

同じく人気爆発中のグレンさんでぇす!」

「「きゃあぁあぁぁあああ~!」」



グレンっていうのは僕と同じく5大ヒーローなんて呼ばれているヤツの一人で、見た目が男らしくてかっこいいってところでも大人気らしい。僕は去年軽く話したくらいでそんなに会う事もないけど、女性人気が圧倒的に高いってのだけはしっている。


その証拠に僕の時よりも高い声での声援や、声援っていうより悲鳴みたいな声が会場中に響いて、それは"黄色い声援"っていうより"ピンクの声援"って感じだった。



なんだよ、これ。

僕の声援より大きいじゃんか。


内心めちゃくちゃ不服に思っていたけど、態度に出すわけにもいかない。僕はなるべくにこやかな顔をつくって、グレンが入場してくるのを拍手で迎えた。



「グレン様ぁ~~~~っ!」

「かっこいいぃい~!」



僕を応援してくれる声の中にはところどころから男性の声も聞こえていたけど、こいつのファンは女の子ばっかりだった。それにも若干嫉妬しつつ、僕はグレンが位置に着くのをおとなしく待った。




「準決勝で人気ナンバーワンの対決に

なるんじゃないでしょぉか~っ!

注目でぇすね~!」



はぁ、緊張する。

さっきまでは歓声に酔いしれていてあまり意識していなかったけど、いざ対戦相手と向き合うと一気に緊張がよみがえってきた。冷静な気持ちを保つことに必死になっている僕の耳にはヘンテコの声も半分くらいしか入ってこなくて、観衆の声もフィルターがかかったみたいに曇って聞こえた。


でもきっとこれこそが集中している証拠だって自分に言い聞かせて、僕はもっと落ち着くためにも深呼吸を1回した。



「それではいきまぁす~!

準々決勝1回戦っ!

アレックスVSグレン、スタートでぇす!」



ヘンテコの声といっしょに、試合開始を告げるゴングがなった。

そしてその音と同時に、グレンは姿を消した。


消したというより素早すぎて周りには消えたように見えていたのだろうけど、僕には背後に回り込むやつの音が聞こえていた。



僕は咄嗟にその場で振り返って、炎耐性のある盾を出した。



「おお、さすが。

やるねぇ。」

「あんたもな。」



こいつの適正魔法が炎ってところまでは調査済みだ。

だから装備はしっかりと整えてきたけど、思ったよりも威力があることにひとまず驚いた。それでも僕は何とか攻撃を跳ね返して、僕たちは最初とはまったく真逆の位置でお互い見つめあった。



早すぎて一瞬何があったのかついて行けなかったらしい観客たちが、一気に盛り上がった。その歓声に浸る暇もなくグレンは炎で剣のようなものを作って向かってきたから、僕はそれに対抗して炎耐性の盾に氷の魔法をまとわせて防御を繰り返した。



「噂に聞いてた通り、だねっ!」

「はっ?!」

「自由自在に何の魔法でも使いこなすって。

それがアレックスだって聞いてるよ。」



多分周りには聞こえてないだろうけど、グレンは余裕の様子で僕にそう言った。戦いながらおしゃべりすんなよとおもいつつ、そんな風に言ってもらえてるのかって思ったら悪い気はしなかった。



「そうやって人の心も

自由自在に動かすのかな。」



何言ってんだこいつ。

防御しながらそう思うと、グレンはその人気があるという端正な見た目とは反対に、まるでヴァルみたいに気持ち悪く笑った。



「ミーシャちゃん、

君にぞっこんだもんね。」

「そういうんじゃ、ないから。」



なんだよこいつ、気持ち悪いな。

ヒーローだっていうから爽やかなやつだと思ってたのに、そんな顔をしてきたギャップに驚いた。



「へぇ、違うんだ。」



そう意味ありげに言ってグレンはまた気持ち悪く笑ったけど、たぶん僕たちが高速でやりあっているせいで顔は見えない。だれにでもそういう悪い顔ってあるのかなとのんきなことを考えていると、グレンはもっと悪い顔をして笑った。



「じゃあ、僕が手つけてもいいってことだよね?」



グレンはそう言って、今までで一番の力を込めて炎の剣を振り下ろしてきた。その衝撃で僕が持っていた盾は真っ二つに割れたから、僕は受け身を取ってその場に転がった。



「うぉおおっとぉ!

これはどぉなってるんでしょぉかぁ~?!

グレンがどんどんアレックスを押しているぅ?!」



はたから見たらそう見えるんだろう。

見えるっていうか僕はここまで防御しかしてないんだから、事実押されていた。でもそんなことより"手を付ける"ってどういう事なんだろうって考えの方が頭の中をめぐっていて、とてもじゃないけど集中できていない自分がいる事だけは分かった。



試合にはまったく関係のないことを考えていると、グレンは今度は遠隔攻撃で僕に爆弾みたいなものをぶつけてきた。



アイツの行動も言ってることもよくわからんが、そもそも炎の魔法って主人公っぽくて気に食わん。



僕は理不尽なことを考えつつ、その爆弾を氷のバットで打った。




「おお~ホームラン。」



炎の球は思ったよりも遠くまで飛んで、上空で破裂した。一気に会場が熱風で包まれて何人かが僕に怒ってる声が聞こえた。



「悪い悪い。」



聞こえないだろうけど僕が小声で言うと、それを見てグレンはとても爽やかな顔をして笑った。



なんだよこいつ今度は、余所行きの顔しやがって。



僕がむかついているのとは反対にグレンファンの女たちはキャーキャーと騒いでいて、シンプルに耳障りだなって思った。



「いいのかな、そんな余裕かましてて。」



するとグレンは爽やかな顔のまま、僕だけに届く声のボリュームでそう言った。やっぱ気持ち悪いなと思って身構えると、グレンはいくつか爆弾を僕の方に投げた。



そしてその後、僕とは逆方向に爆弾を一つ飛ばすのが見えた。




「おっっまえっ!」



僕から見たらどうみてもそれはわざとだった。

間違えたみたいにわざとらしく「あっ!」なんて言っていたけど、今まで正確に攻撃を仕掛けてきたやつがそんなミスするはずがない。

それにアイツが間違えて出した爆弾は、どう見てもミーシャの方に向かっていた。



なんでこんなにミーシャを狙う輩が多いんだって、彼女の人気を嘆いた。

っていうより僕がねたまれてるのか。



人気者だな、僕も。



心の中では最大級にのんきなことを考えていたけど、それとは反対に僕は必死で自分の方に飛んできた爆弾を風の魔法で一気に消した。

そして消したと同時くらいにスタートして、ミーシャ達一般客のいる席に飛んでいく爆弾を追った。




「まっっじでゆるさねぇ!」




そしてミーシャ達の方に向かっている爆弾も同じようにつぶそうとしたけど、こんなところで風の魔法を使ったらもっと被害が広がりそうで怖かった。手で握りつぶすのが一番かなと思ったけど、それには間に合わなくいそうもなかったから、僕は自分の体にぶつけることで爆弾を鎮火させた。



なんとか観客は守ることが出来たけど、防御はしていても結構なダメージを受けてしまった。そして体は黒焦げになっていて、どっからどう見てもかっこ悪いなと思った。



「おおっっと!危ない!

気を付けてくださいねぇ、みなさぁん。」



危ないってなんだよ。お前がなんとかしろよ、とヘンテコに思わないこともなかったけど、それよりあのグレンとかいうやつは何者なんだってことが一番気になった。


多分あのまま当たっても、戦闘中じゃない限りプレイヤーがダメージを受けることはない。それでも故意に観客を傷つけようとする行為に僕は本気で腹が立って、ヤツの方をにらんだ。




「ほんとごめんっ!

大丈夫だった?」




するとグレンは、今度は観客にも聞こえるようにわざとらしく言った。



まじでなんなんだよこいつは。



内心怒りに震えていたけど、真っ黒こげになっている時点でかっこ悪いって思っていた僕は、精いっぱいの笑顔を作って「危ないから気を付けてよ」と言った。



「今の攻撃、無効にしてもらおうか。

僕の事故でこうなっちゃったんだし…。」



そんなことおもってないくせに、心配そうな顔をしてグレンは言った。本当にそうしてくれと思いつつもこれ以上かっこ悪くなれない僕は、「大丈夫だよ」と笑顔で答えた。



「勝負は勝負だから。」

「さすが、かっこいいね。アレックス。」

「さ、遠慮せずおいでよ。」

「じゃあ、お言葉に甘えて。」



グレンはそう言って、さっきみたいに炎の剣をもって襲ってきた。おんなじ攻撃ばっかりすんなよと思いつつ、僕は今度は氷で盾を作ってそれに対抗した。



「ほんと、ヒーローだねぇ。君は。」

「まっじでいい加減にしろよ、お前。」



僕は思わず挑発に乗ってそう言った。そんな僕の言葉を鼻で笑ったグレンは、また気持ち悪い顔をして笑った。



「僕はねぇ本当は勝ちなんて

どーでもいいんだ。」

「は?」



グレンの攻撃は相変わらず単調で、攻撃をやめる気もないみたいだったけど、僕を倒す気もないように思えた。それを不審に思いつつのんきに聞き返す僕に、今度はすごく爽やかな顔をしてきたから、本気で鳥肌が立った。



「女の子とそれでいいんだぁ。」



どういう意味なんだよ、それ。

詳しくは追及しなかったけど、何か悪いことを考えているってのだけは確かだった。


爽やかな笑顔の裏に、こいつには何かある。

また僕のゲームマンシップに反する奴が出てきてしまったと僕が心底むかついていると、奴は炎の剣を盾に強くぶつけたまま、動かなくなった。



「邪魔なんだよね、君。

僕の人気がかすむし。

ミーシャちゃんだって君にぞっこんだしさ。」

「お前には取り巻きがいるじゃんか…っ!」



ミーシャミーシャ言ってるけど、こいつにだって十分女が寄ってきてるはずだ。攻撃を必死で止めながら言うと、ヤツはまた見えない様に悪い顔をした。



「寄ってくる女には、魅力感じないんだよねぇ。」

「クズだな、お前。」



表ではいい顔してヒーローなんて呼ばれて裏ではこんな顔があるなんて、セヴァルディよりもっとたちが悪い。僕がそう思ってにらむとやつは思いっきり爽やかな顔をして笑った。



その顔を見ていたら、気持ち悪くて吐き気すら感じた。



「君さえいなきゃすべてうまくいく。

だからここで死んで?」



僕の吐き気が収まらないままやつがそう言った後すぐに、炎の剣が爆発する前の

そしてその後すぐに炎は大きく膨れ上がって会場を包んで、さっきの数倍の威力の爆発が起こった。



僕は爆発の寸前に、その場所に空間の歪みを作った。

実はミーシャから、あの魔法のやり方を少し聞いていた。聞いてその場でちょっとやってみたくらいだったから出来るか分からなかったけど、しっかりと成功したみたいで炎が歪みに引き込まれていった。

そしてその歪みを、今度はヤツの体の中心に持ってきた。僕の周りには違う歪みを作って炎が入ってこない様に加工して、周りから見たら僕が完全に爆破されたみたいな爆発を演出した。



「何がおこったんだぁあああ~!」



そんなことも知らず爆発が起こったことで僕が負けたと思っている会場からは、またピンクの声援が起こっていた。防御なしで自分の攻撃を反対に食らってしまったグレンはさすがにもうゲームオーバーになっていて、僕は黒焦げになったそいつを思いっきり見下ろした。



「まじで乱すなよ、このゲームの規律を。」



僕は正々堂々とゲームがしたい。

だからこのゲームを不純な動機につかうのはやめてくれ。



もう動かなくなったそいつに声をかけたけど、返事が返ってくるはずがなかった。僕がそのままたたずんでいると爆発で舞い上がっていた砂ぼこりが収まってきて、僕たちのシルエットがやっと浮かび上がったようだった。



「おぉっと!

やぁっと姿が見えてきまぁしたぁ~~!」



「「グレンさまぁ~~~~!!」」




いや、僕だから。

湧き上がるピンクの声援に僕は今すぐにでも答えたかったけど、そのままそこで静止していた。




―――なんでかって、その方がかっこいいと思ったから。



この試合を通して、散々僕は攻められていたように見えたんだろう。ヤツのいいところもしっかりと演出してやったんだから、最後にかっこつけるくらい許してくれ。



そう思いつつ、砂ぼこりが晴れるまでずっと静止していた。しばらくするとシルエットがずいぶんはっきりと見えるようになってきたみたいで、どうやらグレンじゃないって気が付き始めた会場がざわざわし始めた。



「なぁんとぉ!

立っているのはぁーーーーー!





アレックスだぁああああああああああああ!!」



ようやく僕の姿を認識したヘンテコが、大声を上げた。僕はその声に合わせて、力強く片手を突き上げた。するとそれと同時に会場からは今度は僕を応援していた"黄色い声援"が飛び始めて、ようやくそこで僕が勝者だって告げるアナウンスが鳴った。



「なんてことだぁああ!

何が起こったのか全くわかりませぇん!

でも立っているのは確かに

アレックスだぁあああーーーー!」



「「うぉおおおおお~~~~!!」」



うっっわ。

気持ちいい、まじで。



何人いるかわからないけど、見たことがないくらいの人に声援を送られて、僕はアイドルにでもなったような気持ちでそこに立っていた。



もう一生聞いてたい。

ずっとそうしててくれ。



そう思いつつもかっこいい去り方がしたい僕は、余韻に浸りたい気持ちを必死に抑えて、鳴りやまない声援の中あっさり出口へと向かった。



そして出口に入る寸前で、僕は振り返って会場に頭を下げた。


試合後のスポーツ選手がやるみたいに、礼儀はしっかりとしておきたい。応援してくれた人たちとか試合をさせてくれたこの会場とか、僕はしっかりと気持ちを込めて深く礼をして、潔く会場を去った。



「なんてかっこいいんだぁ!

アレックスはヒーロー中のヒーローだぁああ!」



お前、たまにはいいこと言うな。



背後で嬉しいことを言ったザックを僕は心の中で褒めながら、しばらくはそのまま姿勢を崩すことなくヒーローらしく堂々と歩いた。



「よぉおおっしっっ!!!」



でもみんなから姿が見えなくなったところで僕はようやく大きくガッツポーズをして、一人で勝利をかみしめた。



こんなに気持ちいいのなら進路相談の第一候補、ヒーローって書こうかな。



そんなことしたらあのさえない担任ですらキレるだろうか。

本当は冴えない僕がそんなこと出来るはずはなかったけど、そんな妄想をしてしまうくらいに舞い上がっていた僕は、しばらく控室で勝利の余韻に浸り続けた。

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