第45話 救日、休日、そして疾日へ


薄暗い部屋に、カーテンの隙間から明るい太陽の光が差し込む。部屋は全体的に薄暗く、窓から離すように部屋中心に置かれたベッド。そのベッドの上で布団に包まれたまま欠伸をする。

寝起きの欠伸につられ、ついよだれが出そうになり、慌てて塞ぐように手で口を覆う。


「まだ九時か……。」


携帯電話を開いて時間を確認する。


今日は土曜日、そう土曜日だ。宮島さんと西条さんに誘われたかの土曜日だ。だから本当だったらのんびりしていられる余裕などないんだけど……実は余裕なんだな、これが。


なせかというと、つまるところ、俺は両方の誘いを断ったってわけだ。もちろん、ちゃんと理由も添えてな。

いやぁ、あの理由ができた時といったらもう、嬉しくて仕方がなかった。痛かった頭も、一気に楽になった。


じゃあその理由が何なのかというとだな、別にそんなに特別な理由でもない。至ってシンプルだ。


リーダーを使ったのだ。正確に言えば、リーダーから言われていた報告しろという命令を。

俺は会議後、デスクに戻った後、即座に報告書の作成に取り掛かった。内容には、名前はあげずに友人二人から遊びに誘われていると書いた。片方を断れば、片方に悪いし、かといってもう片方にも同じことはできないし、と。そのことが悩みになって、頭が痛いです、と!


ものの五分程で書き上げ、そしてそのままリーダーにメールで送った。タイミングが良かったのかは知らないけど、送ってからすぐにリーダーは俺のデスクに来てくれて、いつも通り二人で喫煙室に向い、そこで俺の欲しかった言葉をくれた。


「メールの件だが、私は丁度明日客先との打合せがあるんだ。だから一君もそれについてくることにしたらいいんじゃないか?そうすればその二人も何も文句はないんじゃないか?」


名案だと思った。一気に頭が軽くなった。軽くなった気がしたんじゃなくて、本当にすとんて力が抜けていくように。


「まぁそれでも何か言ってくるようだったら、もうどうしようもないけどな。」


リーダーは保険をはるように、続けてそう言葉にした。けど宮島さんと西条さんに限って、そんなことはないと思っていた。あの二人がリーダーに、ましてや仕事という名目に、反論できないはずだ。同じ会社なのだから。


早速俺はその理由を、それぞれに告げた。

西条さんは理解しました言わんばかりに頷いて、簡単に諦めてくれた。宮島さんも喰い下がりはしたが、やはり理由がリーダーとの仕事では何も言えず、しぶしぶではあったが諦めてくれた。


そうして俺は、誰に縛られることもない、安息の土曜日を出に入れたっていうわけだ。

本当、リーダーさまさまだ。こんな素晴らし切り抜けかた、俺には思いつかなかった。年上は伊達じゃないな。


「休日さいこぅ………。」


少しづつ重なっていく瞼。

折角の一日休みだ。二度寝したって誰にも責められないし、もう少しだけ寝るとしよう。


そうして俺は、再び顔に布団をかぶせ眠りについた。






徐々に陽を落としはじめる世界。しかしこの部屋は、相も変わらずあれからずっと同じ暗さだ。ベッドの上の布団は動く事は無く、この空間だけ時間が止まっているかのような錯覚すら覚える。


そんな空間で響く携帯のバイブ音。一定のリズムを刻みながら鳴り続けるその音も、時間を動かす要因にはなり得ない。


一雪はまだ起きない。






陽の光もあと数時間で沈みきるその頃、世界の土曜日は夜へと向かって動き始める。


けどそれでも一雪は起きない。






もぞもぞと、布団から上手に出ないようにして起き上がる体。そうしてそのまま携帯を手に取る。


「………十九時……よく寝たな。」


寝過ぎと言えるレベルの時間を、寝た。正直、頭が痛いレベルだ。

額に手をあてながら、そのまま携帯の通知に目を向ける。


「……電話?……ってまじかよ。」


通知の正体は宮島さん。それも一件二件じゃない。数十件だ。

ちょっと軽く恐怖なんだけど……というか、誘いは断ったのになんで電話なんか……。


どうするべきだ?無視か?かけ直すか?

無視した場合だと、間違いなく月曜日は問い詰められるだろう。いやもしかしたら明日家に来るなんて事もあるかもしれない。

じゃあかけ直したら大丈夫かって言われたら、答えは否だろう。綺麗に間隔を空けてかけてきてあるから、なんで出ないのと怒られそうだ。


結論、どっちを選んでも同じこと。無理ゲーすぎんだろ。

何もない休日なんて寝て過ごして当たり前だろ。まぁそんなこと、宮島さんは知ったこっちゃないのかもしれないけどさ。


最悪の寝起きだな。せっかくいい気持ちで寝て起きたのに………。


と肩を落としてると………


リズムを刻む携帯のバイブ音。


はいはい、もう見なくても誰か分かってますから。宮島さんでしょ?どうせ宮島さんでしょ?それ以外ないでしょ、逆に。


予想通り、着信名に表示される宮島の二文字。


ほらやっぱり、宮島さんだった。分かってるから、俺の思い通りにいかない人だってことはさ。

俺ももう、いい加減諦めたよ…………。


そのまま、携帯電話を耳にあてた。

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