第二章 3 描写の本

 バレンタインデーとは、人が死んだ日である。


 ――なんて言うと、まるでモテない男子がチョコをもらっている男子を僻んでいると思われるかもしれないが、そういうわけではない。

 だって、はチョコをあげる側の人間だから。

 そんな聖ヴァレンティヌスとかいう知らないおじさんの命日というわけではなく、単純な話、


 2月14日はわたしが好きな人の両親の命日なのである。


 先輩は一学年上の生徒会の先輩だった。

 わたしの家は餅搗家という日本じゃ知らない人がいないような有名な家で、家は事業経営の他に大きな米農家もやっていた。

 そのおかげというか、せいでというか、学校で変なちょっかいを受けることはなかったけれど、その一方でトモダチは皆わたしの顔色を伺ってて、ツマンナイナーって感じだった。

 別にあんたらが何言おうがそんな不機嫌にならないし、親の力を借りてどうこうしようなんて思わないのに。

 先輩に会ったのは中学一年生の頃。部活の書類を生徒会室に提出しに行ったときだった。

 先輩はそのときは二年生で、生徒会の会計をしていて、あー確かに、会計っぽい顔してるなーって思った。まあ会計っぽい顔ってよくわかんないし、なんなら先輩が書記だったとしても同じような感想を抱いたと思う。

 つまりは先輩の顔なんて割とどうでもよくて、生徒会やってそうな真面目な感じだけど、会長とか目立つタイプじゃなかったのだ。

 いやね? よく見てみなよ、中一のわたし。先輩の顔だって実は結構整ってるし、むしろそれぐらいが落ち着くんだよ?

「ん……? 君……」

 あ、もしかしてわたしのこと知ってる? まあ有名人だからなー、それにわたし可愛いしなー。

「この書類の訂正してるところ、訂正印も必要だよ」

「゛え……」

 あー、マジかー。うわ、じゃあ出直しじゃん。面倒くさっ。

 その気持ちが顔に出ていたのか、不穏な雰囲気を感じたのだろう、生徒会室にいた他の女子生徒(たぶん副会長)がガタンと椅子から立ち上がって先輩に耳打ちをする。

「ちょっと穂高君! この子、餅搗さんだよ! 逆らったら最後、餅と一緒に搗かれて市場に卸されちゃうっていう噂の!」

 ちょっとぉ、聞こえてますよぉ?

 一体、上級生の間ではわたしはどんな風に思われてるんですかねー。

 っていうかそれ異物混入じゃん。大問題になるわ!

「いや、規則だから。っていうかこいつ自身と、こいつの家は関係ないでしょ」

「こいつ呼び!? もう! 穂高君が餅になったら真っ先に食べてやるんだから!」

 そんなことを言い残して、女生徒は自分の席に戻っていく。

 いや、だからそんなことしないって。っていうかあんた、そんな餅があったら食べるのかよ。怖いよ。

 それを見送った先輩は、改めてわたしに向き直り、

「まあ、そういうわけで、申し訳ないんだけどここに訂正印を押してからもう一度提出してもらえるかな」

 と、〝普通に〟言ったのだった。

「……あ、はい。まあ……わたしの方のミスなんで」

 別に面倒くさいとは思うけども、やりたくないとまでは思わない。っていうか、やりたかろうが、やりたくなかろうが、あえて決まりに反発したいわけでもない。

 もし、それで自分が明らかに不利益を被っているならまだしも、ちょっと部室と生徒会室を往復するだけだ。

 ただ、わたしにこうも〝普通に〟接する人というのが初めてで、返事がアホっぽくなってしまった。

「それじゃあ、失礼しましたー」

 そう言って生徒会室から出て行く。

 廊下を歩き始めて数歩、

「あっ、そういえばあの先輩の名前聞いてないじゃん」

 と、『しまったー』と思ってしまったのだが、なぜそれが『しまった』なのかまではこのときのわたしは気が回らなかった。


   ◇◆◇◆◇◆


 お腹を膝蹴りされた。悶絶しているところに銃を撃ち込まれた。痛かった。

「すみませんってば。キャベツ食べます?」

「僕はうさぎじゃないんで生キャベツを食べても嬉しくないんですよ」

「な、名前呼び……」

 彼女がぼそっと呟く。

「お嬢様、文脈を考えて下さい。動物の方のうさぎですよ」

「わ、分かってますよぉー。にしても何もしないとなると25分って長いですよね」

 ちらと壁掛け時計を見る、まだ3分しか経っていない。

「ベッドでごろごろしていたらすぐですよ。なんなら子守歌でも歌いましょうか?」

「そんなこと言ってわたしが寝たら変なことするつもりなんじゃないですかー?」

「バレましたか」

 うん。大丈夫。

 もう心は落ち着いている。

 一度、周回をやり直したおかげか、手にうさぎのぬくもりは残っていない。

「まあ本でも読んで時間を潰すことにしまーす。ロクな本がなさそうですけど」

 本棚を調べると一回目に『ドMなお嬢様の飼い主になりました』が、二回目に『お嬢様、お次は鞭の時間です』が出てくる。

「どちらをお読みになりますか?」

「究極の二択ですね……おすすめは?」

「さきほども申しましたとおり、『おじょかい(ドMなお嬢様の飼い主になりました)』の方は最後の方でお嬢様がドSになってキャラ崩壊する駄作です。ただ、最初の方はかなり面白い。

 一方で、『おじょむち(お嬢様、お次は鞭の時間です)』は最後の方は最高に面白いのですが、前半は少々平坦で飽きが来ます。

 25分で読むのならば『おじょかい』が良いでしょう」

「そ、そうですか……。っていうか略し方そんな感じなんですね……」

 お嬢様がそう言いつつも読み始めたので、僕も『おじょむち』を開く。

 と言っても、僕は一度この本を読んでいるので、面白くなるところから始めた。

 小説を読んでいると時間が過ぎるのもあっという間で、ふと時計を見たときにはもう20分を過ぎていた。

 彼女も僕の動きから時間が近づいてきたのを悟ったのだろう。本をぱたりと閉じる。

 っていうか、いつの間にか、キャベツが何玉かテーブルの上に出ていた。本読みながらキャベツ食べる人初めて見たよ……。

「にしても、本が二冊あってよかったですよねー。おかげで暇潰せましたしー。これって何度も調べたら普通の本も出てきますかね?」

 何度も、調べる?

 そもそもなんでどうでもいい本が出てきたんだ?

 しかも二冊も。

 どうでもいい本は何かを隠すためのダミーで、二冊違う本が出てきたのは、更に調べることで別の本が出てくるという示唆だったら?

 ガラ。

 引き出しを開ける音。お嬢様が引き出しの中から拳銃を取りだしていた。気づけば時間は25分だった。

「次にやることが決まりましたよ。お嬢様」

「何するんです?」

 銃口を向けられながらも、僕らは冷静に話をする。もう、銃を向ける側も、向けられる側も慣れてしまった。

「この本棚の調査です。もしかしたら何か出てくるかもしれませんよ」

 そう笑いながら、僕は撃ち抜かれた。



『ドMなお嬢様の飼い主になりました』(おじょかい)

『お嬢様、お次は鞭の時間です』(おじょむち)

『お嬢様調教日誌』(おじょにっし)

『お嬢様はいつも嘘をつく』(おじょうそ)

『お嬢様にピーしてピーする話(自主規制)』(おじょきせい)

『お嬢様はアヘ顔ダブルピースがお上手』(おじょおじょ)

『お嬢様の視線が痛い!』違った。これはタイトルじゃなくて、今まさに僕が受けているものだった。

「確かに色々出てきましたねぇ」

「ふむ、おじょかい以外はどれも名作ばかりですね」

「……本棚にありますもんね」

 お嬢様がまたぼそっとつぶやく。

「え?」

「いーえー、なんでもありませんけどぉ?」

 ならいいんだけど。

 っていうかそろそろ意味のあるものが出てきてくれないとお嬢様の視線が僕を射殺せるレベルに達しそうで怖い。

『チェーホフの部屋』

「来た!」

 これはお嬢様系でも屈指の名作……というわけではなく、そもそもこんな本、僕は知らない。

 タップしてみると予想通り、ウィンドウが出てくる。

 『調べる』を選択すると本を開くことができるようになった。


『チェーホフの部屋


   第一章


 カチ、カチ、カチ。

 壁に掛けられた振り子時計が規則正しく時を刻む。

 その部屋には男がいた。

 扉、キッチン、本棚、掛け時計……順に何かを確認するように見ていく。

「…………」

 机の引き出しを開ける。

 中には何も入っていない。

 男は一度上を見た。

 まるで『見ているな?』とでも言いたげな表情を一瞬浮かべてから、ジャケットの裏側から黒光りするものを取り出す。

 ごとり。

 重量感のある音が静かな部屋に響いた。

 男がそれを引き出しに置いたのだ。

「……ふっ」

 男がにやりと笑う。

 そして、引き出しを閉めずに体を左に動かした。

 その仕草はまるで、マジシャンが観客に小道具を見せるかのように芝居がかっている。


 引き出しの中には『拳銃』が綺麗に置かれていた。


 男は表情を変えることなく、ゆっくりと引き出しを閉める。

 それからもう一度、部屋を一通り回ってから何かを確認するように何度か頷いた。

 最後に深く頷くと、男は口を笑みの形に変える。そして、ウィンドウを出して何か操作をし、光となって消えた。


 かち、かち、かち。

 壁に掛けられた振り子時計が時を刻む。

 男が消えてしばらくして、部屋に少年と少女が現れた。

 少年と少女は気を失っていたが、時期にそのまぶたがゆっくりと持ち上がる。

 少年と少女が目を覚ますと、目の前にウィンドウ――メッセージが書かれた半透明の板のようなものが浮き上がる。


【セーブしますか?

 ・はい

 ・いいえ】


 少年と少女は、少し迷いながらも『はい』を押した。


   第二章


 それから少年は真っ先に本棚を調べ始める。

 『ドMなお嬢様の飼い主になりました』、『お嬢様、お次は鞭の時間です』、etc.

 本棚を調べるたびに新たな本を見つけ、少女の目つきは冷たいものになっていく。

「確かに色々出てきましたねぇ」

「ふむ、おじょかい以外はどれも名作ばかりですね」

「……本棚にありますもんね」

 そう話す間にも、少年は本棚を調べ続ける。

 しかし、それもある本が出たところで止まった。

 その表紙には『チェーホフの部屋』と書いてあった。

「来た!」

 少年が急いた様子で本をタップし、『調べる』を押して、本を開く。少女も中を見ようと少年の隣からページをのぞき込んでいた。

 少年は一章から読み始める。

 一章では少年と少女がこの部屋で目覚める前の描写がされており、そこでは男が部屋の家具にいくつか仕掛けをしているようだった。

「……っ」

 拳銃の描写がされたところで、少年が息を飲み、渋い顔をした。

 そのまま少年と少女は一章、二章と読み進めて行く。

 が、文章は中途半端なところで途切れており、その後は白紙だった。

 少年はその後のページもぱらぱらとめくり白紙であることを確認するともう一度、記述されている最後のページに戻る。そのページには先ほどは書かれていなかった『少年がページをぱらぱらとめくる』という描写が追加されていた。

 少年は得心がいったような、少女は少し驚いたような顔をする。

 少年は一度大きくため息をつくと』

 僕はその本を閉じた。

 恐らく、さきほど見ていた最後のページには『少年はその本を閉じた』とでも記述が追加されていることだろう。

「こ、この本は一体……?」

 彼女も分かっているだろうに、わざわざ聞いてくる。

 まあそれほどにこの本は不可解で、そしてやっかいな代物だ。

 まあ、そもそも死んでもコンティニューなこの部屋もよっぽど不可解なんだけれども。

「この本は恐らくこの部屋の描写を書き記した本なのでしょう。読んでみたところ、死ぬ前の回の描写は書かれていないようなので、あくまで最新の周回だけが記述されるみたいですね。それから僕らの心情などは描写されないと」

 それについてはちょっとほっとした。

 もし、僕の心情まで書かれていたらうさぎの頭を全力で殴って、記憶を消さなくはならなくなってしまう。

「にしてもこれは困りましたね……」

「ん? どういうことですか?」

「この本のタイトル、『チェーホフの部屋』となっているということはお嬢様の言うとおり、これはチェーホフの銃をテーマにしているのでしょう。そして、その予想に基づいて僕たちは前回、拳銃の話題をしなかったわけですが……」

「あ、そっかー。この部屋での描写がこの本の通りってことは、もう拳銃は登場しちゃってるってことですね?」

「ええ、しかもわざとらしいほどにキーアイテムとして使われてますからね。これは銃が使われる前提と考えるべきでしょう」

 あるいは……。

 彼女は気づいていないようだが、もう一つの可能性もある。


 なぜ、セーブのタイミングがだったんだ?

 なぜ、じゃなかったんだ?

 例えば、あそこでセーブをしないことが正解で、セーブをしなければ銃の描写を防ぐことが可能になるとしたら?


 詰み。


 その言葉が僕の頭の中をよぎる。

 ゲームのクリアが不可能になる状態のことを『詰み』という。

 例えば、ダンジョンの奥深くで、手負いの状態でセーブしてしまったり、普段使わずレベルを全然上げていないキャラでイベント戦闘をクリアしなくてはならなくなったり、最初の段階で回収しなければならないフラグを回収せずに進んでしまったり。

 では詰みになったゲームデータはどうなるのか。電源を消す? そんなことをしてもセーブしたところからやり直しになるだけで、詰みの解消にはならない。

 いや、そもそも解消できないからこそ『詰み』というのだ。

 もしゲームが詰んでしまった場合、最悪データの消去をしなければならない。もちろん、消去しなくてもよいのだが、そのセーブデータに意味はない。なぜならそれ以上先には進めないのだから。

 もし、今の僕たちの状況が『フラグの回収忘れ』だとしたら? 本来は一章にて銃の描写がされるのを妨害しなければならないとしたら?

 もちろん今の状況が詰んでいるのかどうかも分からないし、詰んでいたら何かができるというわけでもないのだが……。

「先輩? どうしたんですか、怖い顔して?」

「ああ、いえ。銃が撃たれることは確定なのだとして、どう使えばいいのだろうと思いまして」

 実際そっちを考えるべきだろう。

 今はこれが詰みかどうかを考えるよりも、銃の別の使い道を探るべきだ。

「まあこういうときはちょっと休憩しましょ? ほら、山盛りのキャベツもあることですし」

 そう言うお嬢様の腕には、いつの間にかキャベツが2玉抱えられていた。

「言っておきますけどお嬢様? 普通の人は生のキャベツを食べることを休憩とは呼びません」

 とりあえず紅茶を淹れ、一息入れる。

 彼女はキャベツをポリポリやりながら、さっきの『チェーホフの部屋』を読み返していた。

 ちなみに、本棚を再度調べたところ『もう面白そうな本は見つからない』というメッセージが出た。何度か『調べる』をしたのだが、同じメッセージが出てきたので、本棚の役目はもう終わったのだろう。

「……?」

 紅茶を飲んでいると、お嬢様が首を傾げていたのが目にとまったので、僕も立ち上がって、彼女の隣に座った。

「どうかしたんですか?」

「うーん、本を読み返してたんですけど、描写に違和感が……、ああ、そっか。これ、どこにもベッドとテーブルの描写がないんですよ」

 そういえば、その二つの単語はなかった気がする。

 正確に言えば冷蔵庫や食器棚の描写もないが、それは『キッチン』という1単語に内包されている気もする。

「それもやっぱりチェーホフの銃なんじゃないですか? 使わないものは描写しちゃいけな……い……」

 そうだ、関係無いものは描写しちゃいけない。描写したからには意味を持たなくてはいけない。

 第一章で描写されている家具は扉、キッチン(=冷蔵庫)、本棚、掛け時計、机。

 扉は最後に部屋から出るときに使うとして、キッチンでは一応『山盛りのキャベツ』というアイテムが見つかりはした。これを今後どう使うかは謎だが、一応、キッチンは一つの役割を果たしたと見て良いだろう。

 本棚からは『チェーホフの本』が。

 机からは『拳銃』が見つかっている。

 しかし、掛け時計からはまだ何も見つかっていないのだ。

 僕とお嬢様が見つめる先には振り子を規則的に揺らす、壁掛け時計が時を刻んでいる。

 今は20分ぐらいだ。あと5分で今回の周回は終わる。

「なんで、25分なんですかねぇ?」

「え?」

 お嬢様が何を不思議がっているのかが分からず、聞き返す。

「切りが悪いじゃないですかぁ。わたしだったら30分きっかりにします。その方が気持ちいいですし」

「つまり25分という時間に意味があると?」

「……う~ん」

 それにお嬢様が自信なさげに頷く。

 試しに壁掛け時計の5の位置を触ってみる。しかし何も起こらない。タップして『調べる』を押しても最初と同じメッセージが表示されるだけだ。

「その時計ってぇ、本当に正しく動いてるんですかね?」

「どういうことです?」

「見てくださいよ」

 そう言って手を伸ばしてくるお嬢様は『チェーホフの部屋』のある行を指さしていた。

「ここの『カチ、カチ、カチ。壁に掛けられた振り子時計が規則正しく時を刻む』っていうところと『かち、かち、かち。壁に掛けられた振り子時計が時を刻む』ってところ。音がカタカナとひらがなで分けて書かれてるんですよぉ。それに最初の方にだけ『規則正しく』って書かれてるのも謎じゃないですかぁ?」

 確かに、見てみるとその二つの文には微妙な差がある。

 小説家が物を書くときの心情というものはよく分からないが、こんなものそのときの気分で変わってしまうような気もするが……。いや、でも表現の統一ぐらいはするのか?

 そこまでちゃんと文章を読んでこなかったから分からない。

「そういえばキッチンタイマーがありましたね。測ってみましょう」

 今は23分。今回はタイマーの時間と比較して終わりだろう。

 タイマーを取ってきて、1分に設定する。

 そして、振り子時計の長針が『ガチャ』と動き、24分になった瞬間にスタートを押した。

 この振り子時計には秒針が存在しない。

 だから、次に振り子時計の長針が動いたときとこのタイマーの表示時刻に差があればこの時計に何か仕掛けがしてあるということになる。

 まあそもそも振り子の音とタイマーの進み具合は明らかにずれていたので、確信はある。

 タイマーの数値が0になり、『ピピピピ』という音を鳴らす。

 しかし、まだ長針は動かない。

 かち、かち、かち、かち

 かち、かち、かち、かち

 かち、かち、かち、かちゃ。

 長針が動いた。

 タイマーを止める。

 お嬢様が動いた。

 拳銃を握りしめる。

 タイマーを見る。

 引き金を引く。

 バァン! という音が、部屋に響いた音だったのか、僕の頭の中を駆け抜けた快感により感じた物だったのか一瞬分からなくなる。

「……お嬢様。どうやら、あなたの読解力の勝利のようです」

 タイマーの数字は-12秒。

 すなわち、振り子時計の1分はタイマーでは72秒だったのだ。

 この二つから計算すると、振り子時計の25分はちゃんとした時計では30分ということになる。

 流石、お嬢様ですね。

 そう呟いたところで、僕の思考は沈黙した。

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