5.July


 だんだんと日々の気温が上がっていく、七月のことでした。

 私はいつものように、植物の成長過程を記録していきます。急な暑さにやられることもあるので、普段よりも油断できない状況です。


 一周したところ、突然枯れだした葉は見当たらなかったので、気温の調整はこのままでいくことになりました。

 ほっと一息ついたときに、一人の少年の姿が目に映りました。


 十三歳と思しきその少年は、カメラ付き端末を持ってどこか不安そうにうろついています。画面越しに木々を見ては、不安そうに首をかしげていました。

 お手伝いできることがあればと、私は彼の背中へ声をかけてみました。


『何かお探しですか?』

「あ、すみません、あの、この辺に珍しい植物はありませんか? できれば花がいいんですけど」


 彼の言葉を聞いて、すぐに候補が上がりました。

 ユリ、サルスベリ、クチナシ、ダリア、ジャスミンなど、様々な花の元へ彼を案内します。しかし、少年は「これはスティーブンスも知っていそうだな……」「地球でも咲いているのかな……」「ライちゃんは気にいらないかも……」と、独り言を言っては「他にありませんか」と尋ねてきます。


 どうやら彼の言動から、地球へいる少女に、花の写真を送りたいようです。しかし、色々と雑念が入って、決めかねている様子でした。

 彼の呟いた「スティーブンス」という名前に聞き覚えがありましたが、とりあえず別の視点からの提案をしてみます。


『送る相手の知らない花を写真を撮ることよりも、「この花も地球にありますか? 一緒に見たいです」と一言添えてみればいかがでしょうか』

「いいですね!」


 ずっと曇っていた少年の顔に、初めて笑顔が浮かびました。早速、何枚か写真の候補を選び始めます。

 恐らくこのメールを受け取った少女の姿を思い描いているのでしょう。彼の口元には、終始微笑みが浮かんでいました。






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