微笑みを数える日

夢月七海

1.December



 大型アップデートに備えて容量を取るために、十二月三十一日の零時から一月一日の零時まで、不要なメモリを消去することになりました。

 私が起動してから百二十年以上の時間が経過していたので、二十四時間かかるのは仕方のないことです。


「でも、これまでのことを忘れてしまうのは悲しいですね」


 私のメンテンナンス担当者様は、そう寂しそうに笑っていましたが、その理由を理解することはできませんでした。

 第三緑化ドームの管理ロボットである私が、クラウドサービスを受けてまでメモリを保持しようというのはおこがましい話です。また、メモリを消すといっても、私が見聞きした、人間でいうところの「エピソード記憶」の消去のため、今後の仕事に支障は出ません。


 ドーム内の倉庫にて、念のために予備電源に接続したまま、私はメモリ消去を始めました。

 今日一日は代理ロボットがドームの管理をしていただいていますので、安心して自身の作業に集中できます。


 さて、こうして遥か昔の出来事からメモリを辿っていきますと、どうしても印象深い出来事が多々浮かび上がってきます。

 ただ通り過ぎていく一瞬一瞬なのに、思わず消去するのを止めて、そのメモリをもう一度再生してしまいました……






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