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 未来


 本編第296話 決心を読みいただいてからこちらをどうぞ。

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 夕暮れる少し前、エマは今か今かとリカルドの帰りを待ちわびていた。

「おにいちゃまを、おむきゃえするにょ」

 エマがそうパペットメイドに言うと、メイドはエマを抱き上げて階下へ連れて行った。



 いつものように兄を出迎えるて抱きつくと、後ろに見知らぬ一団がいた。


「エマ、今日は私の友人を連れてきたのだよ。おともだちだよ」

「おとみょだちー?」

 リカルドが連れてきた友達はユリウスだけだ。それなのに今日はエマより少し年長の子どもたちとたくさんの動物たちがいた。


「初めまして、ク、いえ、リカルド様のお友達で、エリーと申します」

「えりー?」

「こちらは私の従魔で、ドラゴ、モカ、ミランダ、モリー、ルシィです」

「いっぴゃい!」

「そうですね、いっぱいいます」


 エマは中央にいた、まるでぬいぐるみのようなモカをキュッと抱きしめた。

「みょか!」

「モカです」

「みょかです」

「ですはいらないです」

「みょか!」


 エマはまるで夢を見ているような気持になった。

 絵本に出てくるたくさんのお友達と遊べるようなそんな気になったのだ。

「あしょぼー」

「ええ、ぜひ」




 この日からエマの日常が大きく変わった。

 帰ってきてもほとんど仕事に追われている兄たちと違い、エリーと仲間たちはエマの側にいたからだ。


 エリーとドラゴがリカルドとの打ち合わせで席を外していたので、残りの従魔たちと一緒にエマは遊ぶことになった。

「今日はボール遊びするよ!」

 率先して遊びに誘うのはモカだ。

 本当は人前で喋っちゃいけないのだが、エマの前だけ話すことにしたのだ。


「びょーる?」

「まぁ本当のボールじゃなくて、モリーなんだけど。見本ね」

 そう言ってモリーを掴むと、モリーはエマやモカが投げるのにちょうどいい小ぶりのメロンぐらいの大きさになった。


「そーれ」

 モカが前両足でゆっくりと山のように弧を描いてなげると、その先にいたミランダがハシっと器用に前足で受けた。


「こんな感じで、ゆっくり投げるからエマも取ってみて」

「うん!」


 モカがモリーボールを今度はエマの方に放り投げたが、受け止められなかった。

 だがモリーは自力でバウンドし、エマの手の中にスポッと入った。

「とりぇたぁ~」


 何度か繰り返すうちにエマも時々は自分で受けられるようになった。

 キャッキャッと笑うエマに反応してルシィが、

(ルーもやるでちゅ!)


「エマ、ルーに投げてあげて」

 エマは投げるのが初めてで上手く投げられなかったが、そこはモリーボールの自力バウンドでルシィーの元へゆっくりと跳んで行った。


 だがルシィは動きすぎてモリーボールになかなか届かない。

 そこですかさずミランダがルシィーの首(ほぼないけど)を咥えて、翼で浮いて受けやすい位置に行った。

 モリーボールは少し小さくなって、うまくルシィーの前足の脇にハマり、受けることが出来た。

 ルシィは嬉しくてモリーボールを掲げて喜んでいた。


「しゅごーい! みりゃ、とべりゅの~?」

 エマはルシィがボールを取れたことも嬉しかったが、ミランダが飛べることの方に興味がいった。

(そーなの。おかーさんがつばさをつくってくれたの)

「エマもとびたゃい!」


 ルシィがモリーに遊んでもらっているので、ミランダは2匹をそっと下ろしてエマを持ち上げようとしたがさすがに重くて持ち上がらない。

「うーん、あたしシークレットガーデンの中なら飛ばしてあげられるんだけどな」

 だがモカがつぶやくが簡単に外部の人をシークレットガーデンに入れてはいけないとビリーに止められていた。

「とびぇにゃいの……」



 そこにドラゴがやってきた。

 エリーがリカルドと話しているのは事務的な確認なので、先に様子を見に来たのだ。


「エマ、飛びたいの?」

 エマが頷くと、

浮遊フローティング

 フワワンと浮いてエマはきゃぁと喜んだ。

「ほら、モカもモリーもミラもルシィも、フローティング!」

 全員でフワフワ宙を浮いていると、エリーがやってきた。


「あらみんなで飛んでるの? いいね」

「じゃあ、エリーも。フローティング!」

 ドラゴの魔法で、エリーもフンワリ浮き始める。


(エマ! かーたまのところにいくでちゅ きょうそうでちゅ)

 そういってルシィは宙を泳ぐようにエリーのところに向かった。

 エマも真似て宙をバタバタしたがうまく動かない。


 それを見たエリーが少しだけエマの方に流れるように移動する。

 ルシィとエマが同時に着くくらいの絶妙な位置で、近づいてきた1匹と1人を同時に抱きかかえる。

「同時だったねー。エマ様もルシィーも偉い偉い」


 それを見てドラゴ、モカ、ミランダ、モリーもエリーに飛びついていく。

「えっ、全員? が、頑張る!」

 エリーが何とか全員を抱えると、お団子状態でみんな宙を漂いはじめる。


 それからまた各自、好きなところに行ってはくっついたり、離れたり。

 フワフワフローティングはみんなの大好きな遊びになった。




 その日はルシィとミランダとモリーが預けられて、お泊りになった。

 エマと仲良くなったおかげで、やっとルシィが泣かずにエリーと離れられるようになって一安心。

 とはいえ弟たちの面倒を見るとミランダは決心していた。


 ご飯とお風呂はパペットメイドさんの世話になった。

 猫はお風呂が嫌いだけれどケット・シーはただの猫じゃないし、ミランダはエリーの清潔好きとルシィが水の中を喜ぶので最近よく入るようになった。

 モリーは小さいのでパペットメイドの手の中で磨かれている。

 エマとルシィは水しぶきを立てて騒いでいる。

 さっきの遊びの延長戦だ。

 顔を水につけっぱなしなんてこともなく、無事終了。


 パペットメイドさんが全員をきれいに拭いてくれたけれど、まだ水気が残っている。

 ミランダがみんなに優しくドライの魔法をかけた。

(ゆざめ、よくないの。おかーさんはいつもこうしてくれるの)


 従魔たちの日々の暮らしを感じてか、エマがポツリとつぶやいた。

「イイにゃあ。エマもみんにゃといたいにょ」

(エマもかーたまのところにくるでちゅ)


「エマ、ここきゃらでられにゃいの」

(かーたまはえまのことすきでちゅ。かーたまのじゅーまになるでちゅ! 

 おうちにくるでちゅ)

「じゅーま?」


(じゅーまはね、おかーさんのいうことをきくかわりにかぞくになるの。

 でもおかーさんはめったにめいれいしないの。

 そんなあるじはほかにいないの。おかーさんがせいれんだからなの)


「エマもおねぎゃいしたりゃ、じゅーまににゃれる?」

(わかんないの。でもおねがいしてみるの)

(おねがいするでちゅ!)

 モリーは優しく、エマの頭をなでなでした。




 ◇




 それでエマは何度かエリーにじゅーまにしてとお願いしたが、エリーは優しく微笑みながら断った。

「エマ様、ヒトは同じヒトを従魔にしてはいけないのですよ。

 それがたとえ名前だけであったとしても」

 エマはがっかりした。

 エリーの側ならみんなといられるし、怖い母親を待たなくてもいいのだ。


「それに私の側にきたら、いつかお兄様とは会えなくなってしまいますよ」

「しょーにゃの?」

「はい、私も永遠にお兄様の依頼を受けるわけにはいかないのです。

 お兄様はこの国を動かすとても偉いお方なのですよ。

 今は同じ学校だからお話しできますが、卒業と同時に声をかけることも出来なくなります」


「エマとみょ?」

「そうなるかもしれません。でもまだ4年先です。

 エマ様はご自分で未来を選べるのですよ」

「みりゃい?」

「ええ、これから先どんな風に生きていくのか、だれと過ごしていくのか、そういったことです」


「エマ、わきゃんない」

「そうですね、難しいですね。私も未来のことはわかりません。

 だから一緒に考えましょうね」

「うん!」

 エリーの胸の中で目を閉じて安らいでいるエマを見ると、母になるときめきと命を預かる重圧を感じた。



 エマには未来の話は難しすぎるとは思ったが、エリーは彼女に嘘をつきたくなかった。

 エマを養女にしたいと心から願っていたが、もしエマがリカルドの側がいいというならヴァルティス神の呪いのことがあっても、引き離すべきでないとも思っていた。

 エリーから見てもリカルドのエマに対する愛と献身は本物だったからだ。

 でももしエマが自分のことを選んでくれたら、何がなんでも彼女を守るとエリーは心に誓った。



 エマとルシィをベッドに入れて、安らかな一人と一匹の寝顔をみんなで眺めていた。ほっこりと心が安らいだ。


 パペットメイドが入ってきて、

「エリー様、お茶の支度ができました。どうぞリカルド様の元へお越しください」

「わかりました。すぐ参ります」


 エリーはエマの未来ために、一歩ずつ歩み出していった。



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