迂闊な男児、異世界に行く。~俺は迂闊じゃない。きっと全て計算だ~

オレオ

第1話

「本懐を遂げずして魔物なんぞに負けて居られるかぁぁぁぁ!!」


 月明かりの指す広い草原に一人の老人が雄たけびの様に声が立ち昇る。

 厚い鎧に大盾、常人には持てぬ太く巨大な剣、それらを携えてなお鋭い俊敏性を見せる老兵が屈強な魔物の群れへと特攻する。


 その群れには多種多様な種の魔物が居た。

 その中でも、人の三倍近い背丈を誇るミスリルゴーレム、闇夜に紛れる黒い体に真っ白な大きな牙を携えたブラックサーベルタイガー、途轍もない膂力を持つレッサーランドドラゴン。

 その三つの種は別格の強さを誇る。

 老兵はその中心部へと迷わず歩を進めた。


「団長に続けぇぇ!! ここより後には引けぬのだ!

 王国騎士団の誇りにかけて、今こそこの場を死ぬる地と定め、見事己の役目を果たして見せよ!」


 その言葉に怒号が続き、千を超える兵が前進する。

 陣に残った黒ずくめのローブの男たちが動き出す


「我ら魔法師団は魔法詠唱に入る! 属性は火。着弾位置を見誤るなよ!」


「おう」と野太い声が響き、ローブを纏った兵たちが眼前に魔法陣を輝かせた。


「発動まで十秒ぉ! 弾着予測十三秒ぉ! 十二、十一、十」


 魔法師団を指揮する男が声を張り上げ、魔法の発動までの時間を知らせる。


「後退ぃぃ! 引き過ぎるなよ、後ろがなくなるぞ!!

 ってなにやってんですか! 団長も引いてください!」


 その言葉を皮切りに、一斉に発射された数百の火の玉が辺りを照らし空を駆けた。


「馬鹿野朗! 俺まで引いたら魔物が動くだろうがぁ!

 おらぁ『インパクトドライブ』」


 大盾を自陣の方向へと構え淡い光を放ち、魔物を跳ね飛ばしながら火球とすれ違う騎士団長。

 直後、無数の火の玉が魔物へと着弾し爆発的に燃え広がり、計算された着弾位置に撃たれた火炎魔法は隙間が無いほどに火の手を上げた。


「無茶しすぎです!」

「今が無茶の為所なんだよ。俺の所為なんだからよ……

 っと、魔物が休ませてくれるはずがねぇわな。お前ら、出来るだけ進ませねぇよう、気ぃ配っていけよぉ!」


 副長と呼ばれた男から「誰もそんな事思ってませんよ」と声が漏れるが、構わず特攻していく騎士団長。


 一人、また一人と兵士が倒れる。それでも戦闘は永遠と続いていく。

 魔法兵も全弾撃ちつくし、ローブ姿のまま剣を持っての特攻をかける。


 夜が明け、日の光が辺りを照らした頃、戦闘は辛うじて騎士団の勝利で終わった。

 しかしその爪跡は焦燥感に苛まれ生き残った者達の動く気力を奪うほどのものだった。


 本来、千五百からなる王国騎士団の精鋭。

 生き残ったのは、魔法兵三十一名と剣兵十八名、そして副団長の計五十名のみ。

 その者らも満身創痍としか言い様がない状態。

 まともに動ける者は一人も居なかった。




 ◇◆◇◆◇



 俺はしがないソシャゲーマー。早乙女さおとめ魅斗かいと

 将来の夢は自宅警備員になることだ。

 その練習という事で今は学校にも行かずに引き篭もっていた。


 そんな俺が今、一人深夜の森の中にいる。

 こんな激レアな状態は早々無い。これはゲーム仲間に報告しなくては。


『ありのまま起こった事を話すぜ。

 俺、今どこかの森にテレポートしたっぽい』


 スマホで開いていたゲームの掲示板に書き込み震える指でなんとか送信ボタンを押す。


 ページを表示できません。

 インターネットに繋がっている事をお確かめの上再度――――――――


「知ってた。無理なの知ってた」


 森の中、小さな小さな泉の畔に腰を掛け、暗い空を見上げて呟く。

 ホロリと涙が頬を滑り零れた。


 だって、超怖いんだもの。 


 トイレで小用を足している最中「ふぅぅ」と放尿の心地よさに浸り目を閉じるまでがテレポートする前までの状況。

 目を開けたら真っ暗な森の中。

 小一時間独り言を呟き続けた後に漸く頭が現実だと認めた。


 認めてしまった。


 ならばもう怖がるしかないだろう。そう、道が残されてないのだ。

 自然と湧き上がる汗と涙と焦燥感。


 今、絶対アドレナリン出まくってるだろ?

 怖いの中和してよ!

 震えが止まらないんだけど!

 何で携帯圏外なんだよぉ!

 マジでここ、どこだよぉぉぉ!


 叫びたいが声も出ない。

 まるで寒さに凍えている時の様に呟くレベルでやっとな状況。


「ダダダダダメだ、し、死んでしまう。ゲームしてないと心が死んでしまう。

 ななな何故オフラインゲームがスマホには入っていないのだ」


 実際に入っていたとしてもゲームが出来る精神状態ではないが、何かを呟いて居たかった。

 何かしていないと心がやられる。

 スマホの戻るのボタンを押し、再び掲示板を表示して書いてある言葉を読む。


「ワロス……草生える」


 俺がトイレに行く前に書き込んだ言葉だ。

 徐に足元に目に付いた生えている草を抜くと、僅かに発光している様に見えた。


 ああ、だから気になったのか。


 いやいやそんな馬鹿な。月明かりの反射だろ。と手で覆い隠して覗き込む。

 すると、確かにその草は発光していた。


 へぇ、光るコケは聞いた事あるけど草もあるんだ?


 などとどうでもいい事を現実逃避気味に考えている最中、微かだが間違いなく人のものだと思える声が聞こえた。


『負けて居られるか』という言葉が聞き取れた。


 その声が大きな安堵を齎した。

 この近くに人が居る。それだけで助かったと思えた。


 どっちだと耳を澄ませた。するとドンドンと音と振動の様な物が伝わってくる。

 花火でも上げてるのか? その割には一切見当たらないが。


 自然とそちらの方向へと足が向き、泉の畔をあとにして森の中へと早足で歩く。

 何があるかもわからない森の中に再び強い恐怖を覚えるが、行かなければ助からない。そう心に言い聞かせ、ひたすらに歩を進める。


 森の中は数メートル先も覚束ないほどに暗い。


 冷や汗が滲む。トイレ用スリッパで歩きにくいし足が痛い。だがそんな事で足を止めている場合でもなく、ひたすらに我慢を重ねて歩く。


 永遠と早足で歩いていれば漸く森を出れた。

 再び月明かりが差し込む草原に出て、今は聴こえる声も確かなものとなっている。


 だが、これは一体なんなんだ。と足を止めた。


 ありえなくね? と最初に抱いた感想はただただそれだけだった。

 次に野生動物と小人が戦っているのかなんてへんな感想を抱く。


 そして同じ遠さの木の高さを見て人はあのくらいの大きさが普通だと気が付いた。


 小人なんて居るわけないだろ?


 そんな突込みを自分に入れたものの、あの大きさが普通の人間とすると今度は動物の方の大きさがありえない。

 しかも良く目を凝らしてみれば動物と思える生物だけでなく、ゲームに出てくる様なゴーレムっぽいものがもの凄い音を立てて人を潰そうと地を叩いているのが見えた。


 俺はそこで一つの結論に至る。


「ああ、これ異世界召還だ――――――――」


 余りに現実からかけ離れた事象に思考放棄させられ呆然と戦闘風景を眺め続けた。

 一人、また一人と人が潰され吹き飛ばされ倒れていく。

 それが思考放棄を助長させその場に立ち尽くす。

 

 その戦いが終わりを告げた。人側の勝利だ。


 思わず「あ、勝った」と声を上げたことにより我を取り戻した。


「え? マジでこれリアル? 人死んだの? 引くんですけど……」


 不幸中の幸いとなっていた闇が、日の出の光によって切り裂かれていく。

 見たくないと思いつつも視線を外せず眺めて居たが、大きな獣やゴーレムみたいな物の死体もない。

 そこで幻覚だったのだろうと結論付けようとしたが、一つの現実がそれを否定する。

 大怪我を負っている人たちがあちらこちらで倒れて居るのだ。

 立ち上がろうとしては失敗して転んで「ちくしょぉぉぉ」とすすり泣く声が聴こえた。


 その場で見続けていれば、目を疑う様な事が起こる。

 倒れている人が、淡い光を発してその場に溶けるように消えた……

 まるでゲームの死亡エフェクトの様に。


 その時、初めて足が動いた。

 治療なんて俺には出来ないけど何かしなければ、ただ単純にそう感じた。


 一先ず、立ち上がろうとしていた意識のはっきりしている人の所へと足を運ぶ。


「あ、あああの、だ、だ、大丈夫ですか? 何か、て、手伝える事は……」


 近くで見れば、より凄惨な状況だという事を知った。

 中世の西洋甲冑の様な防具であろうものが、ボコボコにへこまされ、片足が膝から逆に折れて千切れかかっていた。他の間接の節々からも血が滴っている。

 話しかけた彼の怪我が痛ましく自然と涙が滲む。


「だ……誰だお前は……」


 自分の父親よりも年上ではないかと思わせる初老の男だった。

 何故か髪の色が薄い金色に輝いている。普通に日本語を喋っているし髪の色以外は日本人でも可笑しくはないと言える外見だ。

 だが今はこんな状態、そんな髪を染めているのか否かなんて事は聞いている場合ではないので深く考えないことにした。

 取り合えず聞かれた事に答えようと震える声を抑えながら言葉を返す。


「えっ? あの、その、自分の名前は――――」

「ちょ、ちょっと待て、その手に持っているものは、月の雫じゃないか!?」


 そう言われて初めて手に草を握っていることを思い出した。

 草生えるとか言いながら摘んだ光る草を気が付かずずっと持っていた様だ。

 手を開こうとしても上手く動かない。固まった指を逆の手で開こうと思ったのだがそっちも上手く動かない。

 自分が如何に精神的にキて居るのかを思い知らされた。


「加工前のは久々に見たが間違いない……月の雫だ。

 頼む、それを譲ってくれないか? 金は相場以上の額をちゃんと払う」


 そう請われて「これですか? はい、欲しいならどうぞ」とすぐさま彼にその草を差し出した。

 すると、彼はそれをするりと抜くと握り締め、ぶつぶつとおかしな事を呟き始める。


「我、女神アプロディーナ様の加護を賜りし者なり。

 我にお力の一端を貸し与え給え。月の光の如き癒しを『エクスヒール』」


 日本でもゲームなどで良く知られた回復魔法の名称を唱えた瞬間、あの草の光が急激に強くなり、彼の全身を包んだ。そして光が収まると彼は事も無げに立ち上がる。

 千切れかかっていた足さえも元通りになっていた。


「月の雫はさっきので最後なのか?」と悲痛な表情で問い掛けられ、咄嗟に言葉を返す。


「えっ!? あっ、あっちに生えてたので取ってきましょうか?」

「何っ!? こんな所に群生地があるのか!?」


 えっ!? やべぇ、もう生えてなかったらどうしよ。


 異常な状況だし、逆上して殺されたりしないよな。

 はは、草が生えてないだけで死ぬの?

 俺もこの死にそうな人たちと一緒に? マジ草生える。


 って不謹慎で詰まんないこと考えている場合じゃねぇ!


 自分自身に憤っている間に詰め寄った彼が「一緒に行こう。どっちに行けばいい?」と尋ねてきた。

 彼の焦り具合を見て足を止めている場合じゃないと、来た方向へと踵を返し早足で歩く。走りたい所だが、足が痛くてスピードが出ない。


「そっちの方向なんだな? 悪いが時間が惜しい、抱えるぞ?」


 そう言って返答を待たずに抱きかかえられた。

 何この状況。なんで初老の男性にお姫様抱っこされてるの俺。


 いや、うん。遅いからだよね。知ってる。


 てかすげぇ。めっちゃ風圧を感じる程に速度が出ているんですけど……

 そんな感想を抱きつつも「その先に小さな泉があるんです。その周辺で偶々摘んだのがさっきの草です」と方向指示を出した。


「あ、あれだな?」とすぐに返され、言葉を言い終わる頃には着いていて地面にそっと置かれた。

 すぐさま座っていた場所の付近に行き「ここら辺です」と告げるが、その時にはもう既に彼の手に先ほどの草が握られていた。

 多分あればあるだけ良いのだろうと俺も光る草を摘んでいく。


 その量は持ちきれない程になるが、お互いに入れ物になる様なものを持っていない。緊急時だしと服を一枚脱ぎ、袖を縛りそこにぶち込んだ。


 そして再び抱えられその場に戻ると彼は仲間の一人を癒し始める。


 その際「もう魔力が完全に切れそうだ。魔力が残ってて回復魔法を使える奴優先する」と聞きまわっている姿を見て再び異世界に来たのだと実感させられた。


 もうさっきの回復魔法でわかっては居たけどね……この現実が信じられないだけで。


 しかし、魔力が残っててか……

 確かにそいつが一回以上回復させられるなら何も出来ない奴を癒すよりも多くの人を助けられるな。


 明らかに重症なものも嘘の様に癒えていく様を見て漸く震えが収まり、なんだ治るんじゃん、と安堵し思考に耽る。


 俺ならこんなに逼迫ひっぱくしてたら重傷者優先とか考えちゃうわ。

 本当に今そんな事をして居たらその所為で助からない人が出てたんだろうな……


 でも、実際どんな世界なんだろう。

 魔法名からして、ゲーム世界かな?

 それなら俺、強く生きられる気がする。

 あー、でもリアルがゲームってどうなの? 俺なんかにやれるの?


 腕を組み、治療を見守る空気を出しつつも考え事をしていれば、いつの間にか数人のおじさんに囲まれていた。


「月の雫はキミがくれたんだってな……感謝する」

「しかし、キミはこんな所で何をして居たんだ?

 勿論、咎めるつもりはないのだが場所が場所だからな……」

「うむ。間違っても子供が居ていい場所ではないぞ。

 とお陰で命を繋いだ我らが言ってもあれだな……」


 矢継ぎ早に話しかけられ、何と応えたものかと思考する。

 それが訳ありなのだと勘違いされて「言えないなら無理に応えなくとも良い」と返された。

 そんなつもりは無いし情報が欲しいので咄嗟に「そんな事はないです。ただ信じて貰えるか不安なだけで……」と答え、自身の置かれている状況を説明した。


 伝えた言葉はシンプルだ。


「家で寛いでいたらいきなり森に飛ばされて自分でも訳が分からない状況なんです」


 そう返せば「転移魔法なんぞ使える者が居るとは思えんし……自然現象か?」など「どちらにしても稀有な事象に巻き込まれたものだな」と言って考え込むおじさん達。


 こんな場所で装備も無くまともな靴も履いていない状態で居た事もあり、疑われる事なく信じてもらえたようだ。

 それ程に危険な場所らしい。自殺志願者でもなければありえない事だそうだ。

 いや、さっきの戦闘見てるからわかるけど。


 考えても答えは出なそうだと結論づいた頃、一緒に草を取りに行った老兵が此方に走ってきた。


「取り合えず、魔力が残っている者は居なくなった。幸い際どい重傷者は全員癒せたから魔力の回復を待って全員が癒えたら町へと戻るつもりだが――――」


 そこで言葉を止めてこちらを目で伺ったので「出来れば一緒に町に連れて行って欲しいです」と応えつつ、さっきの話を彼にも伝える。


「そうか。キミ自身わかっていないのか。

 帰る算段もついて居ないのなら、一先ずは騎士団が身柄の保護と生活を保証しよう。恩もあるし騎士団を救ってくれたのだから、キミを疑う必要性はないからな」

「そうですね。

 副長の仰る通り、賊や不心得の類なら動けぬ我らに襲い掛かり遺品を持って行くでしょう。

 キミが悪さをしていない限りは、絶対の安心をしてくれていい」


 俺は意図した訳では無いが、彼らの命を救う事に貢献した功績により、己の生を繋ぐ事には成功したようだ。


 そして予定通り全員が癒えると、なにやら黒い玉を広い大切そうに抱え、移動が始まる。転がる大量の装備の中から合う大きさの靴を貸して貰い、足を痛める事無く移動が出来た。

 おそらく遺品だろうから本当に使っていいのだろうかと不安もあったが、最初に言葉を交わした彼、副長さんが貸すのだから何も問題はないと言ってくれたので使わせてもらった。


 そこから暫く歩けば馬車が数列並んでいて、周囲に見張りの兵士が数人立っていた。

 こちらの兵士達は比較的若く見えるな。

 彼らは気がつくとその全員が此方へと走り寄ってきた。


「お疲れ様です! 首尾は如何でしょうか!?」


 姿勢を正し胸に片手を添えると共に問い掛ける二十代半ばの兵士達。その言葉に副長さん達は目を伏せた。

 状況を知っているだけにこっちまで心苦しくなってくるが、どちらにしても俺ができる事は黙っていることだけだと彼らの後ろで同じく目を伏せる。


「魔物の討伐は完了した。

 だが……騎士団は壊滅した。生き残りは我等だけだ」

「えっ……」


 続く言葉を失った見張りの兵士達に黒い玉を見せる副長。

 聞いた訳では無いが、恐らくあれが戦死者の遺品と言えるものなのだろう。

 まるで先ほどの俺の様に、目の焦点が合っていないと思えるほどに放心している。


「生き残った者達に告げる! 心して聞けぇ!!」


 副長は見張りの兵士から視線を外し、こちらに振り返ると睨みつける様に視線を鋭くして共に戦場へと赴いていた彼らに声を張り上げた。


「我等騎士団は壊滅したと言っていい程の打撃を受けた。

 だが、これで終りではない。ここからが始まりだと心せよ。

 これからは、無茶をしてでも支えてくれて居た団長はいない。

 我等だけの力で千五百名の兵士の働きをせねばならなくなったのだ。

 それは、いくら新兵を補充した所で補えないだろう。

 わかるか? もう、死ぬ事すら許されない立場になってしまったのだ。

 絶対に無駄にできんぞ!

 命を賭したものたちに報いるため、己の全てをかけよ!」


 みな、片手で目を覆うか額に当てるなど、各々先々を考え絶望していた。

 無理だとは思っても言えない立場なのだろう。

 恐らく、彼らが守らなければ他に町を守れるものは居ないのだ。


 誰も、言葉を発しないままに時間が過ぎる。

 副長は彼らの返答を待たぬままに帰還する為の指示を出した。


「今ここで考えても始まらん。

 このままに荷車を引いて戦地跡へと赴き装備を回収後帰還する。

 もたもたするなぁ! 走れっ!」


 その怒鳴り声にハッとし、彼らは動き出す。

 俺は荷車の御者席に乗せられ、出来る事を手伝い、彼らと共に王国とやらに同行した。

 その道中、もっと早くあの月の雫という草を届けていればもっと多くの人が助かったのだろうかと、もやもやとした罪悪感に苛まれた。


 今更考えたって後の祭りだ。

 あれが薬草だ何て知らなかった。

 きっとあのまま前に出てたら草の場所も教えられず無駄に死んでいただけ。

 などと自分を許す言葉を並べてみたが、指したる効果は得られなかった。


 ただ、もし本当にゲームの様なレベル制MMOの様な世界なら、引き篭もりなんて止めて本気で頑張ってみようと、心の底から強く思った。

 



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