二度目の入学式

【静岡県立駿河南高等学校 入学式】


 校門の横に置いてある看板を見ながら玄関へ向かう。



 あれ? いくらなんでも学校に行くだけなのにこんなに疲れるなんて。

 高校のときは朝練前のアップ代わりに走って登っていたのにな。

 やはり掌のぷにぷに感といい体力自体も下がっているのかもしれないな。


 周りを見ると新入生と思われる生徒たちも疲れた様子だ。


 最初は激坂を登って登校するのはきついよな。

 たしか俺も入学した直後はこれから3年間この坂を登り続けるのに嫌気が差したのをよく覚えてる。


 多少の違和感があるとすれば、疲れ果てているのは男子が多いような気がする。

 よく見ると女子のほうはまだ体力に余裕があって、集団で集まって騒いでいるのが目につく。

 すでに新入生の半分くらいは登校しているのだろう。



 そう言えば「前の世界」の野球部のメンバーはどうなっているんだろう?



 学校生活を円満に送るためには友人の存在が欠かせない。

 これに失敗をするとなにかと大変な3年間が待っているだろう。

 そのための友人作りは必須と言える。

 しかし基本的に運動部員は殆どの場合、同じ部活の学生とつるんで歩くことが多い。


 なぜなら部活はほとんど一年中休みも無いし、夜10時くらいまでの練習も普通にある。

 合宿や遠征もあるからまさに同じ釜の飯を食べる生活もする。

 ここからの3年間は家族以上に同じ時間を過ごすことになるので、特に同学年の生徒とは密接な関係を作ることになる。

 そうなるとどうしても部活中心の人間関係が構築されていくものだ。


「前の世界」では俺たちの学年の野球部員は10人いた。

 これは偶然だったのだが駿河南の野球部員は1学年10人ずつの30人で構成されていた。

 強豪私立のように入部制限もなければ、100人を超える大所帯でもない。

 周りの強豪と比べると人数は少なかった。


 野球部の中は運動部特有の先輩後輩の上下関係はそこまで厳しくなく、比較的ぬるい人間関係が形成されていた。

 3年になる頃には実力が突出していた伊織だったが、部員とのいざこざもなく楽しく野球がプレーできた。

 特にキツイ練習でも1人も欠けることもなく3年間を過ごせた同学年の10人のことは、プロになってからも時折思い出すことがあった。



 確か1年のときは……。

 えーと。

 あれ?? 誰と同じクラスだったっけ??



 俺からするともう5年も前の事だ。

 あの頃は環境も変わったこともあり、クラスに友人もいないアウェー状態だった。

 友だちができるか不安だったが入学式翌日から野球部の練習に参加したこともあり、そこであっさり同期のメンバーと友だちになれたのを覚えている。



 まあいいか。

 どうせ明日になれば野球部に入部するんだし。

 その時に顔合わせれば嫌でも状況がわかるだろ。

 考えてもわからないことはいくら考えても無駄だ。



 元々大雑把な性格の上、精神年齢は20歳の伊織はすでに考えることを放棄していた。

 そして二度目の入学式を精神的な疲れがあったせいで、爆睡して過ごしたのだった。


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