妹の婚約者

「よし、紹介しよう。こちらお前の婚約者にと私が選んだ青波晶馬あおなみしょうま君だ」

「お初にお目にかかります。青波と申します。本日はよろしくお願いします」


 父に紹介された男は、なんだか……

 凄く外国人みたいだった。

 青い瞳に銀色の髪。

 これを銀髪碧眼と世間は言うのだろう。

 ただ、男だが。


 スタイルは抜群で顔がすごく小ちゃい。

 そしてすらりとした長身だが、筋肉はしっかりありそうで、姿勢の良さから体幹がわかる。

 顔も整っていて、文句の付け所のないような美青年だ。

 歳は二十歳くらいに見える。


「晶馬君をね、私達の会社の次期社長にと思っているんだ」


 父はにこやかに言う。

 もはや俺の存在はいらないらしい。


「とても仕事ができて、さらには社員を纏める能力も長けていてね、素晴らしい男だよ」

「いえいえ、そんな」


 流暢な日本語を使っているのに違和感を覚える中、当の梓が悲鳴をあげる。


「こ、こんなお方と私が!?」

「勿論だ」


 父は梓に語りかけるように言った。


「面食いのお前だって晶馬君なら問題ないと思うが?」

「そ、そうじゃなくて!」


 梓は息を吸い込むと、大声で叫んだ。


「どうして勝手に決めるの!?」



 ---



「いやぁ、なかなかヤンチャな妹さんだね」

「本当ですよ」


 俺の部屋に、謎の美青年がいる。

 名は青波晶馬。

 どこかの誰かを彷彿とさせる苗字である。


「あの、お聞きしますが」

「ん? 何かな?」

「出身はどちらで……?」


 すると青波さんは笑った。


「青波晶馬で外国人はないよ。れっきとした日本人だよ、ハーフだけど」

「ハーフ……?」

「日本人の父親とフィンランド人の母親との間でね」


 どこかの誰かの顔がどんどん浮き彫りになってくる。

 俺は、もう一度ジャブを放った。


「あの、歳はおいくつですか?」

「二十八だよ」

「に、二十八!?」


 嘘だ。

 こんなに若く見える二十八がいるわけない。

 おかしい、俺の目が狂ってるのか?

 青波さんは俺の様子を見て笑った。


「よく驚かれるんだよね」

「でしょうね」


 当たり前だ。

 高校生と言われても疑わないくらい。

 まぁただ、その年齢ならどこぞの誰かとの関係は、俺の思い過ごしかもしれないと思い始めた。

 だが、青波さんは俺の心を覗いているかのように言った。


「こっちには妹がいるんだ。今は高校二年生かな? 僕とは違って黒髪で茶色い目なんだけど」

「いやもうそれでしょう!」


 俺は叫ぶ。

 すると、青波さんは納得がいったように手を打った。


「君、玲音と知り合いかい?」

「ええ、まぁ……」


 まさか付き合ってるなんて言い出せず、俺は曖昧に返事をした。

 少し後ろめたくて、目を逸らしてしまう。

 だが、青波さんはそんな様子に気付かない様子で、うんうんと頷いていた。


「同じ高校なのかな?」

「まぁ、そうですね。ついでに同じクラスです」

「へぇー」


 俺がそう答えると、青波さんは嬉しそうな顔をする。


「どうかしたんですか?」

「いやいや。僕ね、十二歳の時の中学入学に合わせてフィンランドに行ったんだ。だからね、大きくなった玲音と会ってなくて、玲音の知り合いって聞くとなんだか嬉しくて」

「なるほど」


 それは確かに今のあいつの話を聞ける人物と出会えたら嬉しいのかもしれない。

 青波さんが十二歳ということは、玲音は当時まだ生まれたばかりだ。

 ただ、どうしたものか。

 あまり親密な感じを出してしまうと、関係を疑われてしまうかもしれない。

 いや、待てよ。


 別に誤解されるような関係じゃないのか。

 ただ単に今現在、恋人関係にあるだけだ。

 特に隠す必要もない。

 だが、待てよ。


 俺は青波晶馬というこの男の人間性をいまいち知らない。

 あの玲音の兄だ。

 とんでもないキチ○イであるという可能性も捨てられない。

 どうしたものか。


「玲音は学校ではどんな感じなのかな?」


 しかし、考えていると青波さんに先制攻撃を仕掛けられた。

 為すすべもなく、俺は関係は伏せることにする。


「あーもう凄い可愛いって有名ですね。初日からクラスメイトに囲まれたりしちゃって」

「うんうん」

「あとは、凄く面白くて。たまに話しかけてくれるんですけど、笑顔にさせてくれます」

「まぁそうだろうね。次は?」

「えっと?」


 ん? なんだかおかしいぞ。

 青波さんはニコニコしてるけど、凄い圧力を感じる。


「あー後はですねー。凄く変態で……」


 あ、ミスった。

 言葉間違えた。

 恐る恐る青波さんの顔を見ると、なんとなんと。

 爽やかな笑みを浮かべて鬼のような目つきで俺に微笑んでいた。


「変態?」

「あー、えっと、その!」


 くそ、仕方がないっ!


「変態な僕に、凄く鋭いツッコミをくれるんです」

「あー、そっちか。ごめんね、玲音が変態って言ったのかと思ったよ」

「そんなわけないじゃないですか、ハハハ……」


 乾いた笑いが漏れる。

 だが、まぁいいだろう。

 青波さんには誤魔化せたし。


「で、本当のところはどうなんだい? 玲音はどう変態なんだい?」

「うぉえ!?」

「流石に嘘だって気づくよ。だって君、どう見たって真面目だから」


 全然誤魔化せてなかった。

 万事休す。

 どうすりゃいいんだ、俺。

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