変人のことはそれほど

「で、何でカラオケなんだよ」


 回想を終えて青波に尋ねると、青波は首をすくめた。


「密室の方がドキドキしない?」

「……」


 なんだろう。

 すごく違和感を感じるのだが。


 元々青波玲音という人間は清楚な女の子だったはずだ。

 それが、どうしてこうなった。


 確かに印象でしかなかった。

 清楚な感じという悪魔で雰囲気だけだ。

 だが、だからといってこれはどうなんだ。

 いきなり密室に連れ込んで胸元を露出したり、密室の方がドキドキすると言ってみたり。

 うーん、俺メダパニでもかけられてるのかな。

 そうだ、俺が見ているのは幻覚に違いない。


「私のこと、変態だと思った?」

「うん」


 あ、ヤバい。

 口が滑ってしまった。


「正直なんだね。流石依織くん」

「何が流石なんだ?」

「純粋そうな顔してるから」

「そうか?」

「うん。ピュアな汚れのない感じが、ザ・童貞って感じ」

「うるせえよ!」


 ふざけんじゃねーぞ。

 せっかく人が褒められて嬉しくなってた時に……

 しかし、青波は目を伏せる。

 そして唐突に質問をしてきた。


「依織くんは、赤岸さんのこと好き?」

「は?」


 何の意図があるんだろうかこの質問に。

 訳がわからない。

 何故どいつもこいつも急に赤岸の名前を出すんだ?


 何故か潤んだ瞳で聞いてくる青波に、俺は何と答えるのが正解なんだろうか。

 答えを誤ったら今にも泣きそうだ。

 しかし、俺はまだ好き嫌いを判断できるほど赤岸と付き合いがない。

 俺の中のアイツの評価は嫌いではない程度の変人ってくらいだ。


「うーん、嫌いじゃないけど関わりにくいな。自分から寄って行こうとは思わない程度」


 とりあえずそう答えると、青波は顔をパァッと輝かせる。


「本当に?」

「あぁ」

「本当に好きじゃない?」

「嘘付かねーよ。それに俺の彼女は、その……お前だろ?」


 恥ずかしい台詞を吐いて、俺は顔を赤くした。

 しかし、効果は抜群。

 青波は胸を押さえてソファに横たわって悶え出した。


「何やってんだか」


 それを見て俺は一息つく。


 最近どうにも疲れることが多い。

 今まではモブキャラとして学校と家を往復するだけで済んだのに、青波の転校や、赤岸の暴走によって俺の平穏は崩れ去ってしまった。

 もちろん今の生活は楽しいかと聞かれれば、それはもうイエスだ。

 可愛い彼女に面白い友達 (?) まで付いてて恵まれてると思う。


 だが、もっとゆっくりが良かった。

 色々と展開が早すぎた。


 俺の勝手な思いだから口には出さないが、青波と付き合うのもゆっくり時間をかけてが良かった。

 あまりにも早すぎた。

 ただ、それもこれもあの日坂の上で出逢った時にもう全ては始まっていたのだろう。

 それがフラグを立てるということだ。


「ねぇ依織くん」

「ん?」


 横たわった生き物が俺を呼ぶ。


「二つお願いがあるの」

「なんだよ」


 俺が笑うと、青波は真面目な顔で起き上がって言った。


「これからは私のこと、玲音って呼んで。そして」


 青波は俺をソファに倒して上から覆い被さるように乗る。


「私以外の女を見ないで」


 背筋がぞくりと凍る。

 冷房は聞いているはずなのに冷や汗が止まらない。

 本気の目だった。

 浮気防止したい彼女の皆様には必見。

 そんな感じの恐ろしい目つきだった。

 口は笑ってるのに目は怖い。


「あ、当たり前だろ? 俺の彼女はお前しかいないんだから」


 俺は笑いながら青波をどかそうとする。

 しかし、青波は動かない。


「お、おい青波?」

「玲音って呼んで」

「玲音、そこをどけ」


 ちゃっかり呼び名を指定してくる。


「おい? 何故どかない?」

「この体勢良くない?」

「何がだよ」

「騎○位みたいで」


 俺はその瞬間玲音を強引に押しのけた。


「しょ、正気に戻れ! 玲音!」

「私はいつも正気なんだけど?」

「余計問題じゃねーか!」


 やめてくれ。

 俺の中の清楚なイメージを崩さないでくれ。

 ってか天下の女子高生様が何言ってるんだよ。

 流石にお下品過ぎるウッ!


「ねぇ、そろそろやる?」

「待て! 俺はまだ、まだヤるのは早いと思うんだ」


 俺がそう返すと青なm……玲音は不思議そうに首をかしげる。


「ここに来たのにやらないとかある?」

「あるわ! そういう場所じゃねーから!」

「え!? じゃあ何する場所なの?」

「そりゃあ、やるところだろ」

「ヤる!?」


 何故か玲音がびくりと反応する。

 だから俺はカラオケの機材をさしながら言った。


「カラオケする場所だろ」


 すると、玲音は訳がわからないと言った表情で言う。


「え、私もそのつもりだったんだけど……」


「は?」


 一瞬間が遅れる。


「だから、もうそろそろやろ?って」

「……そう言うことか」


 なるほど。

 俺の勘違いだったみたいだ。

 すると、


「あれ? もしかしてそっちの意味だと思ってた?」

「あ、いや、うん。まぁ、はい」


 久々のテンパりモード発動!

 俺は舌が回らないながらも必死に言い訳をする。


「い、いやぁだって。お前があんなこと言ってたから勘違いしちゃったって言うか……そもそもカラオケに連れ込まれた時点でそれは予測していたというか……あっ、勘違いしないでくれよ? 俺は別にそれ目当てで入室した訳ではないんだけどな?」


 俺は久々のノンブレストークをかましたところで、深呼吸をする。

 玲音はそんな俺にジト目を向けて言った。


「気持ち悪い」

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