太宰治「貨幣」

 当時の百円札が主人公、という点にまず驚いた。モノにも魂が宿るという彼の日本的発想が、「金即ち悪である」といった類の歪んだ貨幣観を退けている。

 極端な格差は犯罪を誘発するだけでなく(この作品の舞台は戦中だが)、経済にも悪影響をもたらす。貨幣は貯めるものではなく、本来循環していくものだ。ハイパーインフレは警戒すべきだが、それを不況の時代に心配していても仕方がない。不況とはつまり民間の間での貨幣の停滞なので、政府がこれを流動するよう働きかける必要がある。太宰は作中でこの貨幣観を肯定している。非常に健全だ。

 太宰の短篇は幾つか読んできたが、この作品は一番、今の人にこそ触れてもらいたいと感じる。

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