第2話「不明の光」

  

「換気システムが上手く起動していないとはいえ……」


 ミッダームに搭載されている空気正常化システムはもともと信頼性が低い。それが為にアルム達は生身で外部補助装置を付けている訳であるが。


「これを付けると、息苦しいんだよな……」


 だが、それでも無論毒のガスや有害な物質を含んだ空気に晒されるよりはましであろう。


「よっと……」


 生身の汗で濡れるパイロットスーツに辟易しながら、それでもアルム達は。


「ケイゴ、レーナ大丈夫か?」

「なんともねぇよ、なんとも……」


 先の戦いがあった場所、破損した第七十二連絡通路の点検を行っている。


「こちらレーナ、異常なし」

「ふぅむ……」


 巨大蟻型のジェムはすでに片付けられている、その為に別に何かあるはずもないのだが。


「あの少女、やはり幻覚だったのか?」


 何か新兵器を搭載したPMがそこらへんにいて、手助けをしてくれた。現実的に考えると、それで「納得」が出来る話ではあるが。


「ケイゴ達」

「何だ?」

「もっと奥まで行ってみる」

「おいおい……」


 ケイゴが呆れたような声を出すのは、外気メーターに不穏な数値が出ている為であろう。その気持ちはアルムにも解るが。


「私、早くこの臭いスーツを脱ぎたいんだけど?」

「そう言ってくれるな、レーナ」

「これ男用よ、見も知らない男の裸が染み付いているのよ?」

「その歳で、気にすることでもないだろう?」

「まだ若いわよ、まだまだ……」


 愚痴愚痴とうるさいレーナの言葉にアルムは苦く笑いながら、それでも。


「まあ、ほんの少しだ……」


 自機ミッダームの脚を、瓦礫が転がっている通路の奥へと進ませていく。


 シュウ……


 パイプかそれとも地下岩盤か、どこからともなく噴き出してくる有害な蒸気にその眉を潜めながら、アルムは心持ちに浄化機能の様子を確かめる。それと同時にライト、および。


「赤外線探知機、上手く作動していないな……」


 さすがに型落ち品、そうミッダームを評しながら、やはりあるものを探す事にと目がいってしまう。


「アルム、隊長からは深入りするなと言われているぞ」

「解っているよ、ケイゴ……」

「いくら、お前の見た幻覚が気になるといってもな……」

「はいはい……」


 だがそのケイゴの言葉も、先程から愚痴しか言っていないレーナの気持ちも解らなくはない、少しその周囲を確めた後、機体を引き返そうとしたアルム。だが。


「……ん?」


 瓦礫の下、その中に何か紅い光が見えたのだ。


「ケイゴ、レーナ!!」

「何よ、アルム……」

「この瓦礫の下、何か反応があるぞ!!」


 別にミッダームには生体反応を探知する機能などは付いていないが、それでも彼アルムは自身の勘で何かの存在を認識する。


「何か、紅い光のようだが……?」

「ジェムじゃないかしら、ケイゴ?」

「に、しては動きがないな、レーナ」


 様子見を決め込んでいる二人を無視し、アルムはミッダームの前肢、それを駆使して瓦礫を丁寧に取り除いていく。本来なら素手で取り除いた方が安全ではあるのだが、それが出来る重さの瓦礫ではない。


「人の腕だ……」


 そのか細い、光輝く腕を見やった同僚ケイゴは、しかし。


「死体、じゃねえか?」

「何はともあれ、瓦礫をどかしてみてからだ、ケイゴ」

「まあ、そうだがな」


 後ろからケイゴのミッダームが強い光を当て、アルムの救助作業を手伝ってくれる。レーナはその二人からややに距離をおき、周囲の様子を確認している。やはり新たなジェムがやってくる事を警戒しているのだろう。

 

 ガラァ……


「女の子だ……」


 瓦礫の下から現れたのは、紅い光に包まれた一人の少女、薄い布地に包まれたその身体は、瓦礫に覆われていた事にも関わらず、傷一つない。


「アルム、お前の見たのは幻覚ではなかったようだな」

「ああ……」


 ややに上の空でそう答えながら、アルムはミッダームの開閉ドアから飛び降り。


 スゥ……


「邪魔だな、この換気装置は……」


 呼吸と動作を制限する個人装備を疎ましげに思いつつも、その少女の身体へとその手を伸ばす。


「何も感じない……」


 その少女を包む光、それに何か危害を加えられる可能性があると思っていたのだが、その心配はなさそうだ。


「とりあえず、彼女を……」

「アルム、ケイゴ!!」

「どうした、レーナ……?」

「ジェムの反応を確認!!」

「何だと!?」


 レーナのその言葉が終わらない内に、近くの瓦礫から何やら奇怪な音が鳴り。


――グゥル……!!――


 二匹のジェムが、その黒い姿を現す。

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