第9話 王宮サバイバル編開始

 五年後。

 俺は五歳になった。

 俺は世界で一番都合のいい生き物を演じている。

 みんな死ね。ファック!


【なんでそんな無意味なところで反抗するんですか!】


 賢者ちゃんも一緒だ。

 0歳児最後の負け試合から先、俺は尻に敷かれているような気さえする。

 さて俺がやさぐれている理由だ……。


「ラルフ。なにをしてるんだ?」


 庭にいた俺達に声をかけたのは、義父のスタンリー・マーシュ。

 スタン父ちゃんだ。

 あれから俺はラルフ・マーシュになった。

 残念ながらバルカンパンチは打てない。

 名字がジョーンズじゃないからだろう。

 いつかギャラクティカファントムぶちかましてくれる!

 さあ寝言をほざいたところで挨拶。

 

「お父様、おはようございます!」


 きらきらきらきらきらりん。俺は最高の貴公子スマイルをする。

 うおおおおお、我が闇が! 我が闇がああああああああッ!

 俺の闇が発動するううううう!


【いいかげんにしなさい!】


 はい。

 俺は世界で一番都合のいい幼児をしている。

 ……正直言って疲れた。この生活に。

 俺がニコニコしていると、もう一人も来る。


「おはよう。ラルフ」


 義母のリディアである。

 教育方針は過保護。

 溺愛されてる感を強く感じる。

 その胸に抱いているのは妹、メアリ、二歳。


「にいちゃ!」


 メアリが俺に手を伸ばす。

 なのでリディアはメアリを降ろす。

 メアリは俺に抱きつく。

 なんだかやたら好かれている。

 狼を取り込んだせいで犬の匂いがするのかも。


「はいはい、いい子ちゃん」


 俺はメアリの頭をなでた。


「ふにゃああああああん」


 メアリはご満悦だ。

 首都にある屋敷、仲が良くて優しい両親、白くて大きな犬。バラの咲く広い庭。

 どう見ても幸せ家族。

 分け隔てされたことは一度もない。

 冬山も熊もいない。

 危ない目にもあったことがない。

 ……出来すぎだ。ホームドラマの主人公か俺はーッ!


【最初の環境が悪すぎたんだからいいじゃないですか】


 だしゃーッ!

 不安なんじゃーッ!

 俺って復讐モノの主人公だったはずだ……。

 目がー! めがあああああああああッ! っていうタイプの悪役のはずなのだ!

 死と破壊と殺戮、全身黒のスーツに身を包んだ俺の右手を怒らせるな! 怒らせるなああああ!

 あ、ああ、抑えきれない! や、やめろおおお!

 ガクガクブルブル……。


【復讐モノの主人公にしてはコメディ分が強いですよね。ビジュアルに問題ありますし】


 ビジュアル……そう、俺は美少女顔なのだ。

 後頭部にある頭蓋骨骨折の傷を隠すために髪を長くしているのも美少女化を加速させている。

 来客は必ず「あれ……娘さんでしたっけ?」って聞くし、医者も苦い顔をする。

 しかもだ。医者の場合、俺の後頭部の傷と体の傷を見るとさらに苦しい顔をするおまけ付きだ。

 熊との戦いで外に骨がでろんしたのよ。皮膚を突き破って骨が出ちゃったみたい。

 そのせいで服を脱いだら花山薫状態よ。

 俺だって目をそらしたくなるわ。

 医者を責めることなんてできない。

 しかも完全体は肉塊である。

 ぼく肉塊、よいこの肉塊、全てを飲み込む肉塊だけど、たぶんいい肉塊だよ。

 いつか宇宙を飲み込む神話生物だよ♪


【やめろ】


 はい……賢者ちゃん。ぽく悪い子。

 そんな幸せ家族の俺。

 それは永遠に続くかと思われた。

 でも、なにかアクシデントがあれば一発で壊れることを俺は知っている。

 不安だろが!

 決してラブラブカップルを五年間見続けて精神が焼き切れたわけではない。


【最後に本音言った】


 ……とにかく俺は普通のガキをしていた。

 プロのガキだ。

 そんな俺は……。ウルトラ良い子ちゃんを目指すのである!

 そのためには手段は選ばない!


「わんわんわん!」


 でっかくて白いモコモコが飛び掛かってきた。

 うちの犬のヨーゼフだ。

 なぜか好かれている。

 狼を取り込んだから犬臭いのかもしれない。

 なおメアリはヨーゼフが見えた瞬間にパッと逃げた。

 つまりいつもの光景なのだ。

 俺はヨーゼフにベロベロ顔をなめられる。


 俺はあれから外部ユニットの能力をいくつか受け継いだ。

 魔法詠唱は火と風、光、それに地母神の外法。

 生き残るための最小限の光合成。

 それに取り込んだ生き物の感覚だ。

 目は人間だけど嗅覚や聴覚に優れている。

 じゃあ外部ユニットはと言うとだな……。

 外部ユニットの腕力は熊の肉を取り込んだせいで、化物並み。

 ただし手や足が熊のように丈夫じゃないので本気で殴ったら内部の俺まで骨折確定。

 三歳の頃に半分くらいの力で木に手刀を打ち込んだら、ぼっきりと腕が折れた。

 死ぬほど痛かった……。

 外骨格化しないとダメかも。

 今は家族の目を盗んで拳立て伏せと、木に拳を打ち込む練習をしている。

 骨が刺激を受けて石灰化。魔法なんてなくてもコンクリートくらいの硬さにまではなるはずだ。

 そこまでいけば3割くらいの力で殴れると思う。

 というわけで微妙に非力な俺は全力でヨーゼフと戯れる。

 本当に幸せ家族だ。気を使われることも気を使うこともない。

 でも……なにがあるかわからんのがこの世界だ。

 負け側に加担したら冬山追放で熊の餌だってありえる。

 今の王様だって盤石だとは限らない。

 俺は亜神だそうだが、邪魔になれば神を殺すのが人間だ。

 俺は家族を守らねばならない……。キリッ!


【本音は?】


 あの王様やばい。マジでやばい。

 常識的な判断できるし、ちゃんと反省できるから人望厚そう。

 王さまが俺を殺さなきゃならなくなったら勝てる気がしない。

 家族人質に取られたら終わりだぞ!

 せめて刺し違えられるくらい強くならないと不安すぎる!

 ……というわけで俺は自己改造に打ち込んでいるわけだ。

 今回は改造手術無しで。一度やりだすと癖になるからな。

 俺はヨーゼフが満足するまで遊ぶと庭に出る。

 朝食前の運動もあるが、別の目的もある。

 まずは軽くランニング。

 庭を回る。すると虫の死骸がみつかる。

 蛾の死骸だ。


「はい、回収回収」


 俺は影の中から触手を出す。

 これが新しい肉繭ユニットである。

 前回と同じで積極的に雑草や薬草、毒草や毒キノコを取り込んでいる。

 前回との違いは冬に取るのは難しい虫を取り込んだこと。

 さらにネズミや小鳥、それに馬の一部も取り込んでいる。

 しかも亜神になったせいか、自分の影に収納できるようになった。

 これで取り上げられることはない。

 あとは寝る前に能力ビルドっと。

 毒キノコにムカデなどの毒虫ビルドだ。自然と毒レベルが高まっている。

 蜂を巣ごと取り込んだあたりから手がつけられなくなった模様。



 名前:ラルフ・マーシュ

 種族:亜神

 LV:5

 HP:15/15 MP:292480/292480

 力:7 体力:5 知力:2700 魔力:6666 器用さ:7 素早さ:10 EXP 0/65535


 スキル


 魔法 LV:9999 苦痛耐性・極 LV:MAX 精神耐性・極 LV:MAX 低栄養耐性 LV:666 物理耐性 LV:666 寒耐性・極 LV:MAX

 賢者 LV:9999 毒・極 LV:MAX 毒無効 LV:MAX 光合成 LV:10 スキル割り振り LV:2


 スキルポイント:30000


 称号:地母神の愛し子、地母神の使徒、死を乗り越えしもの、賢者の主人



 苦痛耐性と精神耐性がカンスト。

 カップルを間近で見るのがここまで辛かったとは……。

 スキルポイントは持て余しているので、賢者ちゃんに好きに使わせている。

 たぶん知力は賢者ちゃんとの合算。

 俺はそんなに頭良くない。

 肉繭に乗車すればステータス軒並みアップと。

 おっと、テングタケにムキタケみーっけ。ふたつとも猛毒だ。

 取り込んでおこう。

 こうして毎日庭の掃除をしているため、我が家のバラには虫一つつかない。

 見つけ次第に食ってしまうからな!

 ぐははははははッ!


【ご主人さまかっこいー!】


 ぐわーはっはっは!


 俺はパトロールを終えると体操。

 ジャブジャブストレート。

 足は止めない。

 移動と攻撃は一体と。

 拳は肘に力を入れない。

 引く時は肘を落とす引手が速くなる、と。

 無駄かもしれないけど頑張っているのである。

 メアリ、兄ちゃん頑張って強くなるからな!

 次は絶対に失敗しないからな!


 ……って気合い入れたじゃん。

 これがとんでもない方向に転がるのよ。

 この直後に。

 スタン父ちゃんがやってくる。


「ラルフ、王命だ。お前は第二王子の小姓に決まったぞ!」


 たしか第二王子は5歳。

 俺と同い年だ。

 おう……取り巻き候補になったか。

 王様、俺を取り込む気満々だ!

 家は王宮近く、通いで友達になるのがお仕事と……。

 トラブルの予感しかしねえ!


【とうとう来ましたね! 王宮サバイバル編が!】


 やめて! 本気で!

 賢者ちゃんの予言当たるんだから!

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