第22話 むべ山風を嵐といふらむ

『先生、おはようございます。』

『あぁ…おはよう。』

『先生、体調は大丈夫ですか?』

『あぁ…先週は迷惑かけたなぁ…ごめんなぁ。』

『いえいえ、たまには良いとは思いますけど…』

『いやいや、流石に反省したよぉ。』

『いえいえ、あんまり溜め込まないで下さいよぉ…』

『あぁ…ありがとう。』

『あぁ、そう言えば、なぜ、『小説家』を目指そうとしたのですか?』

『あれぇ、伝えてなかったけぇ?』

『聞いた事がないですよぉ。』

『そうだったかぁ…本当に知りたい?』

『そりゃ、知りたいですよぉ。』

『どうしようなかぁ?本当に、本当に、知りたい?』

『そりゃ、尊敬する先生がなぜ?小説を書きたくなったのかぁ?ファンとして当然知りたいですよぉ。』

『長くなるけど…』

『大丈夫ですよぉ。次の予定もないですから…』

『解ったよぉ…ところで、幼い時の夢は稲村さんは何だった?』

『えぇ?確か…『ケーキ屋さん』だったかなぁ…』

『なるほどねぇ?現実的な夢だねぇ?』

『先生はどんな夢を持っていたんですか?』

『私は、『正義のヒーロー』だったなぁ…。』

『えぇ?そうなんですか?もしかしたら、仮面ライダーとかウルトラマンなどですか?』

『そうそう、そうなんだよぉ…。でも、地球を守る『正義のヒーロー』や日本の為の『正義のヒーロー』を目指すのを辞めたんだ。』

『えぇ?どうしてですか?知りたいなぁ…』

『実はねぇ?『正義のヒーロー』は地球の為といえ、地球に攻めてきた敵に対して『暴力』という正義で戦うよねぇ?』

『そうですねぇ?』

『でもねぇ…冷静に考えると…敵にも、両親がいて、愛する家族がいるよなぁ…待てよぉ?これって、『正義』を楯にした『殺人』じゃないかぁ…ってなぁ。もしかしたら、単純に『食べていく為に地球にたどり着いただけなのかもなぁ…ってなぁ…。得体の知らない生命体だから怖くなり、お互いに戦う事が最適だと考えたのかもなぁ…』ってねぇ?』

『確かに、そうですねぇ…』

『だからねぇ?地球を守る事や日本を守る事の『正義』は無理だなぁ…っと感じて、別の形で『正義』を貫きたかったのかもなぁ…。昔、インドに『非暴力主義』を貫いた『ガンジー』がいたんだけど、インドではかなり裕福な家庭に住んでいたにも関わらずに当時、占領していたイギリスに勇敢に立ち向かったんだぁ…。でも、『暴力』では、立ち向かわずに、『非暴力』で対抗したんだよぉ。本来なら、イギリスに占領されていても、幸せに暮らせていたのにも関わらず、インドの独立の為に先頭になって戦うんだぁ…。すごいなぁ…ってねぇ?』

『なるほどねぇ?だから、戦わずして、正義を貫きたくて『小説家』になったという訳なんですねぇ?』

『いやいや、違うって…もしかしたら、『小説』を書く事で、少なからず、今、『生きている。』を実感したいと思ったのかもなぁ…それに、自分に出来る最後の抵抗なのかも知れないなぁ…人生のレールに乗り遅れても認めてもらいたいのかもなぁ。』

『なるほどなぁ…でも、本当のところどうなんですか?先生が『正義のヒーロー』を諦めるとは思わないなぁ…。』

『するどいねぇ…確かに、『正義のヒーロー』は諦めていないよぉ…。でもねぇ?好きな人だけの『正義のヒーロー』になりたいとは今も思っているよぉ…

でも、本当のところは『すれ違う奇跡』かも知れないなぁ…先週も話したけど…すれ違う奇跡は0.004%なんだけど…私を知らないで死ぬ人が多くいるなら、文章を通して『すれ違いの奇跡』を伝えたいと思ったんだぁ…。』

『なるほどねぇ?確かに、『すれ違いの奇跡』を知っていたら…きっと、人類が幸せになるきっかけになりますねぇ?私も『衝撃』を受けました。あれから、私も色々な事を考えました。『私に出来る事は何だろう?何をすべきなのか?何の為に生きているのだろぉ?』ってねぇ…』

『それは誤った方向に進むなぁ…』

『えぇ?どうしてですか?』

『普段の生活を崩し、ボランティアや生活困窮者を救いたくなっているでしょ?違う?』

『確かに…困っている人を助けたい。もっと、色々な人に携わりたいと感じました。』

『それは違うんだよぉ…『本当に知りたいって思う事は笑顔や愛情に溢れた綺麗な部分だけではない。寧ろ、汚い部分が大半を占めている。仮に生活困窮を救いたけでば、同じ環境に溶け込み、自分で稼いだお金や知識、経験などをその人の為に力を注がなければならない。寧ろ、その地域に住んでいない人からは邪魔者として、『誹謗』や『迫害』、時として、『暴力』などに対して『非暴力』で対応しなければならない。そして、自分自身を身の危険から防がなければならない。仮に『生活困窮者』から認めてもらった場合は抜け出す事が出来なくなる。『神』にでもなった気分から抜け出せなくなり『依存』してしまう。』

『確かになぁ…人間は『天使』にも『悪魔』にもなりますねぇ?でも、純粋に『人の為に何かをやりたい』と思ったら?』

『簡単だぁ!『勉強をして資格を取って、知識を付けて別の形で貢献すれば良いのさぁ!』例えば、『目の前に10人が救って欲しい』と言って来たら?』』

『そうですねぇ…10人から1人、1人の話を聞きます。』

『でも、切迫していて、明日にも亡くなりそうだよぉ…』

『確かに…そのような状況になったら1人だと、限界がありますねぇ?』

『でしょ?だから、色々な知識や経験や仲間など多くの事を犠牲にして、相手に尽くさなければならない。それが出来るかい?』

『そうですねぇ。今の私には無理かも知れません。』

『それに、国が潤う為なら投資はするが、国からお金だけ出る社会福祉に対しては出さないのが現状だよぉ…税金だからなぁ…。まぁ…その為の資金や同じ目標を持った仲間がいれば別の話にはなるけど…資金は底を付く。だから、収益を増やす為に、投資をしたり、協力者を得る為にSNSをやる必要があるんだぁ…』

『そうですねぇ…自分で出来る範囲で考えなきゃなぁ…先生ならどうしますか?』

『私も、稲村さんと同じような気持ちになったよぉ…だからねぇ?『社会福祉』を勉強する為に大学に入り直したのさぁ?』

『えぇ?もしかしたら、『小説家』と『大学生』と2束のわらじですか?』

『あれぇ、伝えてなかったかぁ…正式には3束のわらじかなぁ…』

『えぇ…他にもしているんですか?後は『専門学校でコラムの書き方の講師』をバイトでしているなぁ…最近では、『小説家』と『大学』の方が忙しくねぇ…コラムの講師は数ヶ月に一度になったなぁ…』

『先生はすごいですねぇ?』

『そっか…それ程でもないさぁ。寧ろ、すべて中途半端な感じだなぁ…』

『いえいえ、そんな事ないですよぉ。すごいですって…』

『いやいや、そんな事はないって…大学ではまともに勉強しなかったからねぇ?バイト生活だったからねぇ?コラムの書き方は『小説家』という肩書きがなければ講師の依頼はなかったから感謝しているけど…そのきっかけが仲村さんでねぇ?今では、ありがたいよぉ…』

『えぇ、そうなんですか…(仲村さんかぁ…ショックだなぁ…)でも、助けてくれる人がいるって素敵だなぁ…』

『そりゃ、そうだよぉ。本当に命の恩人だなぁ…『小説家』として、食べていけるのは少数で、大抵はアルバイトや他の仕事があるのさぁ。私の場合は『小説家』として、デビューしてから、コラムの依頼や出版社の取材などで生計は安定しているけど…それまでは、バイトをしなければ、10万円以下の収入だけだと生活は厳しくてねぇ?

老後は不安になるからねぇ?だからなぁ…社会福祉士の資格を取っておこうとねぇ。』

『えぇ?そんなに安いんですか?』

『そりゃ、そうだよぉ。大抵は1枚につき、2〜5円程だから…400ページの作品でも1200〜2000円程だよぉ…仮に1000部売れても120万円程だよぉ…単純に月で10万程だよぉ…』

『でも、先生は1万部のベストセラーを出しましたよねぇ?』

『確かに…1200万程の収入を得たけど…税金で1/3は持っていかれて、他の雑費を引いて600万程だよぉ…それに、売れなくなったら収入は安定しないさぁ…それになぁ…ここまで売れる迄に5年はかかったから、年収は120万円程だなぁ…』

『そうなんですか…現実は厳しいんですねぇ?でも、本当にやりたい仕事は違うでしょ?』

『するどいなぁ…本当にやりたいのは…好きな人と一緒に仕事をする事だよぉ…寧ろ、一緒で喫茶店で好きな曲を流したり、世界中を旅して、コラムを書いて、思い出をいっぱいつくりたいなぁ…もちろん、さまざまな地域に住む人に『すれ違いの奇跡』の話をしたいけどねぇ…』

『そうなんだぁ。素敵な夢だなぁ…(一緒に行けたら良いなぁ…)』

『あぁ…原稿出来ているから持って行ってねぇ?』

『はい。あぁ…先生、いつもの置いて置きますねぇ?』

『あぁ…ありがとう。では、次の原稿が出来たら連絡するねぇ?』



『あぁ…すごいなぁ…先生でも不安なんだぁ…確かになぁ…年収が120万円を聞いたらバイト生活は抜け出せないなぁ…人を助けるには自分が安定しないと出来ないなぁ…それにしても、『好きな人の為の正義のヒーローかぁ…』先生にとっての好きな人って誰なのかなぁ…やはり、仲村さんなのかなぁ…色々と裏で逢っているみたいだからなぁ…お似合いだなぁ…』


『あぁ…色々としゃべってしまったなぁ…もしかしたら、多忙過ぎて、変な気をつかわせてしまったかなぁ…それにしても、多忙になったのは事実だなぁ…。まさか、大学に入ると思わなかったけど…これも、久美ちゃんを幸せにする為だと解ったら…きっと、ビックリするんだろうなぁ…『生きる希望』があるから、頑張っているけど…間違いなく仲村さんだと誤解されているなぁ…。さぁ!仕事、仕事!やるぞぉ!』


今日の百人一首は…

『文屋康秀〜吹くからに 秋の草木の しをるれば むべ山風を 嵐といふらむ 』


20××年

『先生と山登りってうれしいなぁ…』

『そうかぁ、今日は晴れているから、富士山が綺麗に見えると思うなぁ…』

『ところで、秦野駅から何処に行くんですか?大山なら伊勢原駅からバスに乗れば早いですよぉ…』

『はぁ?『大山』は行かないよぉ…山登りと行ってものんびりとするのが目的なんだぁ?』

『えぇ…何処に行くんですか?』

『これから、弘法山公園に行って、そこから権現山→弘法山→吾妻山→鶴巻温泉(弘法の里の湯)でのんびりと…』

『どのくらいの時間がかかるんですか?』

『そうだなぁ…2時間半程だなぁ…』

『あぁ…そうそう、権現山の山頂で一緒に食べようと思って、おにぎりとお茶とおかずを作ってきたぞぉ。』

『えぇ?そうなんですか…うれしいなぁ…。実は、私はサンドイッチを作ってきましたよぉ…』

『本当に?いやぁ、うれしいなぁ…。すごく、うれしいなぁ!いやぁ、最高!サンドイッチ、サンドイッチ、さんさんサンドイッチ…サンドイッチやっほぅ!』

『もう、先生ったら、喜び過ぎですよぉ。』

『山頂でサンドイッチかぁ…最高だなぁ…。』

『あぁ…先生、着きましたよぉ…弘法山公園入り口…(えぇ、権現山山頂まで40分かぁ)先生とならあっという間だなぁ…。』

『ほらぁ、久美ちゃん、松ぼっくりだよぉ…松ぼっくりプシュー!』

『あぁ…本当ねぇ?楽しい?』

『そりゃ、久美ちゃんと山登りだよぉ…。楽しくないはずがないじゃん。』

『もう、本当に子供だなぁ…(でも、いつも一緒懸命に精神すり減らして執筆してるからなぁ…今日はとことん楽しむかぁ…)はい、手をつなぎましょう?』

『まじでぇ?良いのぉ?』

『もう、行くよぉ!』

『いやぁ、うれしいなぁ…』

『ほらぁ…先生着いたよぉ…権現山山頂に…』

『久美ちゃん、久美ちゃん、見て、見て!富士山だよぉ…。ヤッホー。』

『はい、はい、富士山ねぇ?どうせ、たいした事ないでしょ…えぇ?えぇ!すごい!すごい!めちゃくちゃ、綺麗だねぇ?写真撮らなきゃ。先生、一緒に撮るよぉ!』

『いやぁ、最高だねぇ?』

『本当だねぇ?』

『それにしても、お腹空いたねぇ?』

『あぁ…先生、すごいなぁ…おにぎりも小さく一口サイズで食べやすいなぁ…』

『でしょ?一口サイズで、梅、鮭、シーチキン、昆布、たらこ、牛肉…っと作ったんだぁ。美味しい?』

『美味しい!最高だなぁ…料理のセンスも素敵だなぁ…。』

『あぁ…私もサンドイッチですよぉ。先生が好きなパクチーとハムとチーズのサンドイッチですよぉ。』

『えぇ?作ってきてくれたんだぁ!うれしいなぁ…』

『あぁ…美味しいかったねぇ?』

『本当に美味しかった。』


『うわぁ〜突風だぁ!久美ちゃん大丈夫かぁ…ふせて。』

『すごいねぇ?ビックリしたねぇ?先生?先生は何処ですか?』

『ここだよぉ…』

『えぇ、こんなところまで、落ちたんですか?』

『はぁ…まさか下まで落ちるとは…たまたま、落ち葉がたくさんあって良かったけど…ビックリしたなぁ…』

『本当だねぇ?危なかったねぇ?私を助けてくれてありがとう。チュ。』

『もう、先生ったら、ここではダメだって、人が来たらまずいですって…』

『もう少しだけこのままで…』


『それにしても、草木も枯れる山嵐が吹くとはなぁ…』

『ですねぇ?だから嵐とも言うの家なぁ?』

『むべ山風を嵐といふらむ…』


『あぁ…夢かぁ…。いやぁ、山登りで富士山眺めてランチかぁ…最高だなぁ…。それにしても、最高だったなぁ…あの後は『弘法の里の湯』に行ったのかなぁ…まぁ、夢だからそんな事はあるわけないよなぁ…えぇ!なんだぁ?顔に口紅の跡とポケットに弘法の里の湯のチケットって…えぇ!現実なのかぁ…不思議だなぁ…。』




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