『すれ違いの奇跡〜儚い恋物語』

末吉 達也

第1話 夜露に濡れながら

坂浦 瞬(27歳)は雪村出版で有名なイケメン作家である。

その担当になっているのが、女子大を卒業した雪村出版の新人の稲村 久美(22歳)であった。


『坂浦先生、今月から担当になりました。雪村出版の稲村久美です。宜しくお願い致します。』

『あぁ…宜しくねぇ。』

『今回はどんな作品を書かれるのですか?』

『あぁ…今回は百人一首を題材に書こうと思うんだ。』

『そうなんですか?ところで、前の担当の西村さんが突然、行方不明になってしまいましてすいませんでした。 』

『いえいえ、どう致しまして。今回の担当が綺麗な人で良かったなぁ…迷惑かけないように頑張るからねぇ。ところで頼んでおいた写真をもらっても大丈夫かい?』

『あぁ…はい、これになります。私の写真ですけど…大丈夫ですか?』

『担当の名前と顔を早く覚えたいからねぇ。あぁ…今日は顔合わせだから、自宅に帰ってもらって大丈夫だよぉ。じゃ、明日には原稿出来ると思うから直接、ここに取りに来てねぇ。』

『はい。』


『さてぇ、作品に取りかかるかなぁ…百人一首を題材に現代版にアレンジしてみよう。』


まずは『天智天皇〜秋の田の かりほの庵の 苫をあらみ 我が衣手は 露にぬれつつ 』


20××年

『秋が深くなったなぁ…今年も豊作で良かったなぁ…。』

『あのぉ、昨日、連絡した坂浦 瞬です。』

『あぁ…バイトねぇ。ここにある稲穂を束ねてあの見張り小屋に運んで朝まで見張って欲しいんだぁ。』

『はい。今が17時だから…20時には終わると思います。その後は?』

『その後は見張り小屋で刈り取った稲を見張って欲しいんだ。チェック表にチェックして見張りは終了だから大丈夫だなぁ…。熊には注意してなぁ…あぁ…なんかあったら、隣の米澤米店に電話もらえれば大丈夫だからなぁ。懐中電灯は見張り小屋のデスクにあるからなぁ。後、寝るなよぉ。監視カメラを見ておいてなぁ。最近は物騒で稲穂を盗む奴がいるからなぁ…。』

『はい、解りました。』

『じゃ、後は頼んだぞぉ。あぁ…20時に夕食は持って来るなぁ。』


『ふぅ、やっと終わったなぁ…今、何時だぁ…19時50分かぁ…長いなぁ…0時から休憩2時間あるから良かったけど長いなぁ…。』

『あぁ…お疲れ様。すごいなぁ…頑張ったなぁ…。夕食持って来たぞ。特別に焼き肉定食だぁ。』

『ありがとうございます。』

『じゃ、食べたら、眠くなるけど…頑張ってなぁ…』

『はい。』

『じゃ、あと宜しくなぁ…』

『はい。』


『そう言えば、久美にもあっていないなぁ…電話をかけてみるかぁ。』

『プルプル、プルプル…あぁ…出ないなぁ ラインでもするかなぁ。

『お久しぶりです。来週には休みが取れそうだから食事でもどうかなぁ?』っと。

よし、これで返答はくるかなぁ…』

『よし、仕事、仕事…』

『ふぅ、やっと0時になったなぁ…少し仮眠取るかなぁ…』

『あぁ…それにしても、刈り取った稲の見張りとはなぁ…それも、この時代に見張り小屋で一人とはなぁ…寂しいなぁ…はぁ、泣きそうだなぁ…。まぁ、夜を明けるまで辛抱だなぁ…。』

『あぁ…それにしても、寒いなぁ…マジかぁ、屋根に隙間があいているなぁ…どおりで寒いと思ったなぁ…毛布一枚だと寒いなぁ…暖房入れるかぁ…あちゃ、夜露でコートが濡れてるなぁ…まぁ、1日だけのバイトだから辛抱するかなぁ…』

『ピコォ、あぁ…ラインだぁ!おぉ、久美ちゃんからだぁ!大丈夫だよ。明日は休みだから、夕方でもご飯食べましょう。』

『おぉ!やった!明日が楽しみだなぁ…』


あぁ…何だぁ、夢かぁ…

『さてぇ、明日は稲村さんに逢えるなぁ…楽しみだなぁ…』






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