番外編その1 クリスマスの夜に

「クリスマス活動……ですか?」


「ああ、裕福でない家庭を中心に、子供達を招いてささやかな催しをやろうと思っていてな。タケシもよければ協力してくれ」


時は12月23日。クリスマスイブの前日である。

そう、こちらの世界でも地球と同じようにクリスマスの文化が有った。

またこれも、記憶者メモリストが元の記憶から広めて定着させたのだろうか?


なんでも、去年も同じ催しを行った所大好評であった為、今年も行う事が決定していたそうだ。

そういう事なら、断る理由なんて無い。


「分かりました。僕も協力しますよ」


元居た世界でも、一部からは色々と言われていたクリスマスであるが。

猛は、クリスマスが好きだった。



────番外編その1 クリスマスの夜に────



ここまでこの作品を読んでいただけている方は既にお察しの通り、猛はモテるどころか、友人も居ないタイプである。

なのに何故、クリスマスが好きなのか?



24日、イブ当日……の夕方。


「んーと……ここの飾り、こっちの方が良いかなぁ」


猛は、会場となる部屋でツリーの飾り付けを調整していた。


するとそこに、二人の子供が駆け込んて来た。


「わー!クリスマスツリーだぁ!」


「おにいちゃんだれー?」


どうも、招かれていた子供がひと足早くこの部屋に入って来てしまったようだ。


「まあまあ、まだいけませんよ。ほら、そこでおにいちゃんがまだ準備しているでしょう?準備が終わったら呼びますから、それまで良い子にしてましょうね」


後を追ってきたメイドさんが幼い男女をたしなめる。


「はーい」


「おにいちゃん、じゅんびがんばってね!」


「がんばってねー!」


聞き分け良くメイドさんについていこうとする前に、子供達が猛に声をかけた。


「うん、ありがとね。おにいちゃんも頑張るから」


猛は、ごく自然に出た笑顔で子供達に答えた。


そう、猛がクリスマス好きな理由は。

『子供が好き』だからである。

……誤解無きように言っておくが、決してやましい意味ではない。

ソッチの意味なら、猛はグラマラスなタイプが好みなのでそういう対象には決してなり得ない。

悪く言えばワガママだが、良く言えば裏表や打算が無く可愛らしい。そんな子供が、猛は好きだった。



元居た地球では、すっかり『カップルがいちゃつく日』として有名になり。

そういうものとは縁のない人達の怨嗟が、『クリスマス廃止しろ』『日本のクリスマスは商業主義的だ』なんて批判の定番ネタを生み出してたけれど。

ケーキやサンタさんからのプレゼントを楽しみにしている子供達の事を考えると、中止にしろだなんて言えないよね。

自分だって、幼い頃はそういうのを楽しみにしてたんだ。

大人になっていちゃつきと無縁だからといって、子供の楽しみを奪うような事は言いたくはないなぁ。


おっと、余計なことを考えてる暇はない。応援の言葉も貰ったことだし、早く飾り付けを済ませないとね。





そして、夜。


「メリークリスマス!」


サンタのコスプレをしたアイシャがクラッカーを鳴らし、パーティーがスタートした。


「わー!アイシャねーちゃんだー!」


「アイシャねーたんだっこちて!」


やはり子供達にもアイシャの人気は凄まじく、参加した子供達の大半がアイシャの元に押し寄せている。


「ははっ、元気が良いな!よーし、来い!」


……どうでも良いけど。

いや、どうでも良くないかもしれないけど。

アイシャさんの、サンタコスプレ……いや、アイシャさんの人柄からして、絶対狙ってはいないと思うんだけど。

瑞々しいふとももが顕になるミニスカに、肩から上も露出してて……その……なんというか。実に魅力的というか。

男の子が、これを機に『目覚めて』しまわないといいけど……まあ、余計な心配か。


「バーンドバードのチキンおいしー!」


男の子が、満足そうにチキンにかぶりついている。

バーンドバードとは、この世界に居る鳥の一種。

その名の通り、燃え盛る炎を纏い操る非常に手強いモンスターなのだが、アイシャがこの日の為に捕らえてきていたらしい。

チキンにした時の味たるや、その他の鳥など全く相手にならないほどの美味さなのだとか。



その後も、パーティーはつつがなく進行した。

大きなケーキを皆で切り分けたり。

サンタに扮したザルフさんを屋敷の中で探すかくれんぼもどきをやったり……




そして、深夜。日付が変わって1時間が過ぎた頃。


「タケシ、行くぞ」


「……あっ、ここでプレゼントを配るんですね」


先程よりも厚着でサンタの髭を着けており、一見してアイシャと分からないサンタコスをしたアイシャに声をかけられた猛。

パーティーでプレゼントを配らないのかな?と思っていたが、なるほど深夜に各戸に配るのか。


「じゃあ、行きましょうか」


猛もサンタの服装に着替え、アイシャと共に深夜の街に繰り出した。




「……煙突から入るんじゃないんですね」


「む?何だそれは?そんな所から入るのは却って難しいだろう?」


鍵のかかっていない戸を開け、プレゼントを玄関先に置くアイシャを見て、猛がツッコんだがツッコみ返された。

どうも、煙突から入る文化は広まらなかったらしい。


……煙突の無い家の方が多いし、そもそも煙突から入ったら煤だらけになりそうだから合理的と言えば合理的だよね。


その代わりに、この夜に限っては『サンタが来れるように』と、鍵を開け放しておくのがお決まりらしい。

防犯上大丈夫か、とも思えるが、この夜は平時の倍の警備体制を敷いている。

更に今自分達がやっているプレゼント配りのような行為は、事前に役所に届け出ておかないといけないらしく、もし無届けで行おうものなら住居侵入でしょっ引かれるそうだ。


……それにしても。


「あの、アイシャさん。ひょっとして、この人形って……」


「む、気付いてしまったか。そうだ、それは……どうも、私を象ったものらしい」


とても可愛らしくデフォルメされた、女剣士の人形。

案の定、アイシャさんを象ったものだった。


「大人気なんですね、アイシャさん」


そう、子供達が希望していたプレゼントは、圧倒的にアイシャ人形が多かった。


「タケシ。私は……それを気恥ずかしく思わないという図太さを持ち合わせてはいない。正直、むず痒くてかなわん」


そう言いながらアイシャは、プイっと顔を逸らす。


あ、やっぱりちょっと照れくさいのか。

そりゃそうだよね、自分の人形が大人気、だなんて。いくら普段堂々としてるアイシャさんもやっぱり照れるものなんだ。


この人形もかわいいけど。

こういう、ちょっと恥ずかしそうにしてるアイシャさん本人は……もっと……







そんな淡い思いを抱きつつ、アイシャと共に各戸にプレゼント配りを続けていたが。

やはり、こちらの世界にも居るようだ。

『起きてサンタを待ち構えてやろう』と目論む、やんちゃなお子様が……



「あー!サンタさんきた!」


「!?」


アイシャが戸口を開けると、女の子が待ってましたと言わんばかりに飛び付いてきた。


「こら、良い子はこの時間は寝てなきゃダメだぞー?」


アイシャはそう諌めつつも、抱き着いてきた女児の頭をわしわしと撫でる。


「あれー?サンタさんのこえ、アイシャおねーちゃんにそっくりー?」


女児に指摘されたアイシャの身体が、一瞬引き攣る。


マズい、ここはフォローしてあげないと。


「ほっほ。アイシャおねえさんは人気だからね、サンタの国から特別にアイシャおねえさんに似た人に来てもらったんだ。どうかな、似ているだろう?」


それっぽい口調で、女児にフォローを入れる猛。


「そっかー!ありがとうサンタさん!」


女児は納得したようで、アイシャと猛に向かって満面の笑みを見せた。


……ああ、癒やされるなあ。


凍える冬であったが、確かに心が温まるのを猛は感じ取った。





そして、各戸にプレゼントを配り終え。

アイシャと猛のクリスマス活動は、終わりを告げる事となった。


「助かったぞ、タケシ。協力してくれてありがとう」


「はい。子供達が喜んでくれるから、僕も頑張りがいが有りましたよ」


決して、元居た地球でメディアが煽っていたような、ロマンティックな過ごし方ではない。

けれど、楽しそうな子供達に囲まれて。

そして……片想いの人と、こうして共に頑張れて。


地球に居た頃は、こんな過ごし方は考えられなかった。

幼い頃は家族でクリスマスっぽい過ごし方をしたけど、最近はめっきりだったし。

こういう過ごし方も、悪くないよね。


猛は、やり遂げて満足そうなアイシャの横顔を見つめながら思いを馳せた。




そして、翌日!


「かいぶつめー!アイシャのまほうけんをくらえー!」


「うわーやられたぁー!」


幼い子供達が、プレゼントで貰ったと思われるアイシャの人形を使って遊んでいる。

そんな微笑ましい光景を見ると、昨日遅くまで駆けずり回った疲れも吹き飛んでいくように感じた。


別に、一緒に過ごせる恋人が居るわけじゃない。

けれど、やっぱり……

子供達の為に、クリスマス、必要だよね!


猛は、笑顔で駆けていく子供達を見ながら改めて思い直すのであった。





─────────────────────

あとがき


読んでくださってありがとうございます♪

本来は32話を投稿する予定でしたが、せっかくなのでと番外編を書いたら遅くなりました(汗)

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