赤竜、襲来!

それは、突如としてやってきた。



「うーん、少し休憩するかね…」


若者は、村から少し離れた森で木を切っていた。その森は、低級の魔物しか出ないので、万が一出くわしても斧で撃退できる。


「今日は、魔物もいないし天気も良いな。沢山切るとするか」


若者は、理解していなかった。何故、魔物が1匹たりともいないのか。


魔物は、自らのエネルギー源となるマナを感知する能力に長けている。


つまり、彼らは気づいていたのだ。そのに。




「さて、今日はこれくらいにして、ん?」


若者は、帰り道に道を何かが遮っていることに気づく。


硬い鱗で覆われた深紅の体に、雄々しき翼。口から出ている二本の牙は、容易く鉄を噛み砕くだろう。


「えっ、えっ!!??」


突然の事に、頭が上手く回らない。


(あ、あれはなんだ?ん?村長が前話していた龍に、よく特徴が似ているな……だが、あの龍はの大きさらしいから……)


若者には、竜と龍の違いなど、大きさが龍の方が勝っていることぐらいしか知らなかった。


とはいえ、声を出してしまったのは、悪手だったようだ。


「グルルル?!グガアアアアアアアァアァアァアァァアァアアアアァアアァアアア!!!!!!!」


「ひっ、ひいいぃ!」


驚きのあまり、腰を抜かす。どうにかして、足を無理矢理動かす。鉛がついてるみたいに重い。一目散に逃げてるうちに、森を抜けていた。


「はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ!はぁ、すうぅ、はぁはぁはぁ……」



後は、一本道を行けば、村に着く。いつの間にか斧やらなんやらを、全て落としていたが、そんなことはどうでもよかった。



村に着くなり、彼は大声でこう放った。


「で、で出たぞ!赤竜が出たぞぉぉおおおお!」


その若者の一言で、村の温かい空気は一変した。


赤竜。龍や竜の中では、最も弱いとされている。それでも、人族にとって脅威であることに変わりはない。



その一大ニュースは、村の長にも伝達していた。


「赤竜だと!?ああ、くそ、竜が襲ってくるなんて!村始まって以来だぞ」


「どうしましょう。その赤竜はとてもでは無いですが、説得は難しそうです」


「ぐぬぬ、、村を捨てるしかないか…」


「分かりました。直ぐに女子供を優先させながら、避難の準備を進めます」


その後の対応は、迅速だった。村長の右腕が大変人望に厚く、また優秀だったからだ。各村人は、最低限の荷物をまとめ、村を発つ準備が完了した。


「村長、全世帯の避難準備が」


「うううおおおあおあおあおおおおあああああああああああああおあっっっっつつつつ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


「ちっ、もうここまで来たのか…」


「時間がありません、村長も早く」


「分かった。今行く」


皆が、村を諦めたその時だった。


「またここに戻ってくるとはな……いっちょやってみっか!」


一人のの男が、村へと辿り着いたのであった。



_______________________





「じゃあ、最終試験を発表しまーす!」


「はーい!」


「最終試験は、僕とのじ、、、、、、ん?」


「おい、ベルセルク、このマナの気配って」


「ああ。かなり大きい。普通の魔物に比べてだけど。赤竜かな?」


「赤竜か…そういえば「竜」と「龍」ってやっぱり強さ変わったりとかするのか?」


「それ、僕以外の龍の前で絶対言わないでね?」


「え?なんで?」


「龍は、結構プライド高いから」


「あ、はい」


危ない危ない。ベルセルク以外の龍に質問していたら、命が危なかったのかもしれない。


「それで、龍と竜の大きな違いは、、、っ。駄目だ。気配が近づいてる。あのままじゃ村が不味いな」


「なんだって?行くしかねぇだろ、そんなの!」


「君ならそういうと思っていたよ。じゃあ、行くとするか」


俺たちは、村へ向かうことにした。大抵の森の魔物は、俺たちのマナの気配に怯え、近づいてさえ来なかった。



森を抜けるまであと少しのところだった。俺はある異変に気がついた。


「お、おい。大丈夫か?ふらついてるぞ?」


ベルセルクの顔色が悪い。足取りも覚束ない。今にも倒れそうだ。


「あはは、しまったなぁ、僕としたことが。マナぎれみたぃ……」


バタッ。遂に、ベルセルクは倒れてしまう。


(……なんで、ベルセルクがマナ切れを…………!そうか、あの時か!)


俺は、修業3日目のことを思い出していた。


(なんであんなに負荷をかけられていたのに、俺は平然としていられたのか。考えればすぐ分かったじゃないか。に決まってる!クソッ。あの日から、負荷もかけつつ、供給までやってたのかよ!)


馬鹿だ。馬鹿だ馬鹿だ馬鹿だ。こんなになるまで力を使ったベルセルクも、それに気づかなかった俺も。


確かに、マナ総量を増やすには消費が1番で、彼女の取った方法が最も効率が良かったのかもしれない。


「だからって、それは自分自身のことをなんにも考えてないじゃないか!」


彼女は、無能なNEETである俺のために、全てを与えてくれたのだ。


負けられない。負けるわけにはいけないんだ。彼女に合わせる顔がなくなってしまう。


「マナ切れだから、きっと休んどけば治るだろ。安心しろ、お前から教えてもらった技で、赤竜なんて直ぐにぶっ潰してやるよ」


俺は、彼女のあまりに軽い体を持ち上げ担ぐと、そのまま歩みを進めた。




_______________________




やがて村に着いた。


「またここに戻ってくるとはな……いっちょやってみっか!」


俺は、某野菜人みたいなことを言うと、村の中へと入っていった。



_______さあ、決戦の時間だ。覚悟を決めろ、俺。

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