第五話 月曜日 夕の刻 ~途絶えた期待

 ぼくは呪いの由来を初めて知った。

 お互いを憎む心が呪いになったんだ。

 そして、7日後に──


「兄ちゃんが死ぬ……」


 こういう勘は当たる。

 祖父母が事故にあったときもそうだ。

 助からないのを、すでに知っていたから。


 この呪いは『死ぬ呪い』だ──



 目頭が熱くなる。

 ぼくがヒーローになるのに、負けてなんかいられないっ!

 ぎゅっと目を閉じて、もう一度本をみると、続きがある。


「……これ、もしかして」


 最後の行だ。



『この呪いの生まれた場所、そして、呪いの解き方を記す。』



「これだ!」



 顔がゆるむのがわかる。

 これで、兄を助けられる!


 ぼくは興奮する手で、素早くめくった。

 だがそのページには『帝天川の変化』と書いてある。

 何度めくっても、どこを探しても、そのページがない!

 ない……!

 ないっ!


「うそだろ?」


 次のページにあたる場所をぐっと開くと、カッターできれいに切り取られたあとが。


「……切られ…てる……」


 胃が冷える。

 手が震えてくる。


「……落ち着いて……落ち着け……考えろ……考えるんだ……」


 喉がつまるのを感じながら、無理やりツバをのみ、息を吸う。

 思い出せ。


 このページに関する、何か……



「図書カード、貸し出し最後は去年だった……このページ、もしかしたら図書室にあるかも!」



 ぼくの足はすぐに図書室へ向いていた。

 階段を2段飛ばしであがっていく。勢いよく引き戸を開けると、カウンターで肘をつく銀水先生がいた。


「急いでどうしたの?」

「先生、これっ!」


 ぼくが本を開き見せると、先生は「ふーん」とうなる。


「ないのね、ページ」

「ここが一番大事なところなんですっ! どっかにありませんか?」


 再び「ふーん」と息をはきながら、カウンターの下の棚をのぞきこむ。

 確認はしてくれてるけど、ヤル気がみえない。


 ぼくは、そのページの半分でもいい。

 とにかく解決に役立つなにかが欲しいっ!


「……ないわねー」


 たいして探してもくれない……!


「……ありがとうございます。ぼくだけで棚、探してもいいですか?」


 郷土資料の棚に向かおうとしたとき、腕がつかまれた。

 さっきまでカウンターごしに座ってたのに。


「ねぇ、『月祈つきいのり』って知ってる?」


 思わず体が震える。

 あまりの笑顔でいわれるから、ぼくは銀水先生の話を聞いてしまう。


「その本の、ここのページ。この土地だけのおまじない。けっこうキクらしいよ?」


 銀水先生は手持ちの和紙をそのページにさしこんでくれた。


「あ、ありがとうございます。家で見てみますっ!」


 ぼくは図書室から思わず出ていた。

 教えてくれた顔が、なぜか恐ろしく見えてしまったのだ。



 ぼくは、オネエ系に怯えている……?



 小さな疑問がぼくのなかに芽生えたけど、藁にもすがる思いとはこのことなんだと思う。


「おまじないだって、なんだってやってやる。ヒーローだって手段は選ばないぞ!」


 心でつぶやいたつもりだったけど、声に出ていたみたい。

 玄関で、女子に振りかえられてしまった。

 たちばなだ。

 コイツには見られたくなかった……。


「……キモ…」


 あー、ほら、やっぱりにらんでるし……。

 顔はアイドル級だけど、口がすごく悪くて態度がデカい。

 おかげでクラスですごく浮いてて、孤高のアイドルって影で呼ばれてる。


 だけど今はそんな言葉に傷ついている場合じゃない。

 早く帰って、おまじないを調べないと!

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