第二話 ぼくのこと

 ぼくは昔から霊感がある。

 しかも、かなり強い。

 それを知ったのは4歳のとき───


 それは夏。幼稚園の夏休み。


「あ、かずなりおじちゃん、こんにちは!」


 ぼくは祖父から習ったようにあいさつをした。

 なのに祖父の手が、ぼくの手を強くにぎる。


「お前、和成が、見えているのか……」


 必死に聞かれるから、ぼくはとなりにいるかずなりおじちゃんの服装や、どんな顔をしているか、どんなことをいっているのかを伝えてあげた。

 たしかそのときのかずなりおじちゃんは、『いつもありがとな。本当に助かってるよ』っていっていた記憶がある。


 祖父は小さくため息をついてから、すぐに家にもどろうという。

 家に帰るなり、ぼくを縁側にすわらせた祖父は、すぐに祖母を目配せで呼んだ。


「……お前は、ばあさんに似ちまったんだな」


 最初意味がわからなかったけど、幼いぼくでも理解できたことは、祖母は霊感がとても、ということ。

 しわくちゃの手でぼくの顔を祖母はやさしくなでる。


「子どもを産んでから、ぱったりと見なくなったんだけど、まさか凌がねぇ……」


 祖母から『霊感』について教えてもらった。

 その話で一番驚いたのは、


 【他の人はほとんど見えていないこと】


 これがとても衝撃だった。

 ぼくにとっては当たり前の世界だったから。

 そこから祖母から見分ける方法や、あぶない幽霊の見分け方を教えてもらった。


 だからか、ぼくは猫背だ。

 ぼくは人の足を見ると区別がつきやすいから。

 それにを見るのはよくない。


 だからぼくの霊感のことは、祖父・祖母・兄とぼくの4人での秘密になった。


『たくさんの人が知らないものって、世の中からみると、とても特別で、信じてもらえないものなの。秘密にしとくほうがいい』


 だから、両親にも秘密にすることにした。

 あのときの祖母の手は優しかったけど、すごく悲しそうな目だったことをぼくは覚えている。


 そんな祖父母は2年前に亡くなってしまった。

 だから、ぼくの秘密を知っているのは、兄だけ、だ。


 来週の日曜日は、2人の命日。


【兄ちゃんと絶対墓参りに行く! 今度はぼくが兄ちゃんを助ける!!】


 ぼくは日記に殴り書いた。


 今度はぼくがヒーローになるんだっ!

 ピンチを救うヒーローになるんだ……!


 小さい声でぼくは繰りかえす。



 ぼくは、ヒーローなんだ……っ!



 つぶやいていないと、つぶされそうだ。

 となりの兄の部屋から感じる黒い空気。

 それはじっとりと足元から這いあがってくる。


 空気が冷たい。

 背筋が震える。

 胃が痛い。


 ぼくはベッドにもぐり、まくらで耳をふさぐ。

 うっすらと女の唄声が聞こえてくる……。

 怨みが練りこまれた、冷たい唄だ。


 兄の呪いに気づいているのは、ぼくだけ、だ。


 絶対助けるんだ……!!

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