裏切り者のララバイ

夜、アレンも合流して、レイモンドとエミリアと父王ジェイクと四人で

夕食を取った。


エミリアは直ぐ俺の異変に気付いて

食欲が無いと言えば消化のいい

食事を用意させた。


「もうスッカリ奥様ですね。」

アレンに、からかわれながらも謙虚にエミリアは、世話をやいてくれる。


エミリアは確かに良い娘だ

しかし俺の嫁にしたいのはやはり

美桜だ、そこは揺るがない。

エミリアに心で詫びながら食事を

とる。

俺はあの夢のせいで食事が取れなく

なっていた。

栄養剤、サプリメント、点滴

それで動ける様なものだ。


「明日、刑が執行されるのは

女の人よ!」

スープを飲みながらエミリアが言った


「女?何したんだ?」


「強盗よ」


「強盗?女で?」


「そう、人のモノを盗むなんて

最低よ、当然だわ!」


「何を盗んだの?

強盗で死刑はきびしく無いか?」


「何を盗んだって?

言えないくらい、とっても大事な

物よ。


国を良くするためよ。

私は必要だと思うわ‼

《《そうだ‼》

レイモンドハンカチ持ってる?」


「ん!ああ、持ってるよ。」

レイモンドは青いハンカチを

エミリアに手渡した。


「ねえコレ貰える?

彼女にあげたいの、彼女婚約者に

逃げられてね、可哀想なのよ。

これが世に名を響かせた

レイモンド殿下の物と分かれば

喜ぶとおもうわよ。」


レイモンドは、クロードとアルベルトを見て

ほらな‼ 優しいなエミリアは、

と言う態度を取った。


「ヤッパリ、エミリアだな‼

考える事が違うな‼」


呑気坊主のレイモンドを、護衛の

2人は顔を見合わせ呆れていた。




その夜、刑務官の男が美桜に謝った。

「本当にすまない。」

美桜はフラフラの体を横たえて

ギョロリと顔をあげた。


「明日、俺が君を抱え外に出る

妻が車で待機しているから

俺が注意を引きつける

だから、はってでも逃げるんだ


俺もこれ以上、罪の無い人が

死ぬのは耐えきれない!


妻と話して決めた‼

頑張るんだ、明日がチャンスだ‼

君は子供がいるんだろう

妻がそれなりに栄養を考えて

スープを作っていたんだ。


大丈夫、走れる

いや、走るんだ‼ できるな‼」


美桜は首を振った。

「今・・迄・•・あり━━━━とう。

もう・•・う疲れ た。

ゆっ・・く やすみ い」


もう歩けない程弱っているのに

処刑の意味があるのか‼(怒)

それに彼女は無罪だ

何もしていない。


この国の法はデタラメだ、


月の乙女降り立ちたる時、悪は滅び

夜は開ける。

太陽が登り地は開け鳥は歌い

人々は踊る。


子供の頃から復唱して来た。

「本当に月の乙女はいるのか?」


次の日、その朝はやって来た。

季節は秋へと進み始めた。


美桜は横たわりながら思った

窓から見えた栗の木のまだ緑の

トゲで覆われた栗の実


栗ご飯、やきぐり、マロンケーキ

美味しかったな。

今迄沢山食べてきた、

私を生かしてくれてありがとう。


そして・•・

お腹の赤ちゃん、ごめんね。

何にもしてあげれない。


涙に濡れながら刑務官は美桜を

見ていた。

それに気づいた美桜は


「け い むかんさ・ ・ ・ん

お・•なま」


「名前、私の?

私はエリック・リシャール」


彼女はただ頷いた。

彼女の痩せた胸が見えないように

エミリアから預かった

ハンカチで胸元をふんわりと結んで

あげた。


「美桜さん。

このハンカチはね、ザブラルグルブ

国のレイモンド殿下の

贈り物だそうですよ。」


そう言うと彼女は、一瞬ビックリ

したようだったが又直ぐ力が

抜けた。


私は不本意ながらも、彼女を見送る

事にした。

寝無しの拷問


彼女はとても疲れていて

死を望んでいた。


自分の無能さに涙が止まらない!

歩けないのに、あの鬼は歩かせろ

と言う。


こんなのは間違っている。

しかし身重の嫁の事を考えると

逆らう事が出来ない。

妻と彼女を逃がすと決心したのに

彼女の体力は、もう無い。


刑場の入口迄彼女を抱いて行った。

彼女は私に頭を下げたのだろう

頭が少し揺れた。

そして、ドアが大きく開かれた。


美桜は刑務官エリックの体を離れ

最後の力を振り絞り

少し、又少しと前に歩き出した。


世の中まだまだ捨てたものじゃない

死にかけた私にも優しくしてくれる

人がいる。


美桜はフラッとしながらエリック

を見た。

『エリックさん、奥様、

ありがとう。』

ハンカチもレイモンドの柑橘系の

爽やかな香り・•・


馬鹿な夫の香り•・•


エミリアと並ぶレイモンドを見て

レイモンド、あなたの子だけでも

助けて、そう言いたいが口も

開かない。


あなたはお父さんになる筈

なのに、子供の存在も知らず

刑を見届けに来たの?

美桜はハンカチを解いて

お腹に当てた。


「あ・・か ちゃ ん馬鹿な

パ・・パの 香りだ よ。」


最後に父親の匂いをかげて

良かったね。

あの人がパパだよ!



レイモンドは少しづつ歩く彼女を

見て


「エミリア、彼女随分やつれて

いないか?

頬はコケて、足は引きづるように

歩いてるし」


「食べさせて無いものアハハ

悪い事すれば当然よ!

でも、コレでいいのよ‼」

エミリアの言葉に絶句した。


「いいか、一度きりのチャンスだ

虱潰しに探せ‼」

クロードが配置に着いた仲間に

指示を出す。


「分かった。」

一同から隠しマイクに返事が

来る。


「チャールズは二階」


「了解‼」


「ヴアルタンは地下」


「OK」


「ロベルトは3階」


「おう。」



「ねえ、レイモンド

彼女ハンカチ喜んでるみたい(笑)

ありがとう。」


「そうだな・・

・・エミリア」


アルベルトとクロードがなにか

袖で話し込んでいる

何故俺に教えてくれない。


ふと刑場に目をやると

彼女は痩せこけた体を引きづるよう

に死刑台に一段、一段時間をかけ

登ったいた。

よろめきながら見るも無惨な

姿で、見るに堪えない。


最後の一段を登ると

彼女はゆっくりと顔をあげ俺を

見た。


黒い瞳は力なく窪んでいた、

頬はやつれて首の骨は飛び出し

そして


「馬鹿な人

あ な たは王・•・な・•の?

し・・っかり し・•・て


力なく動く唇は

さ  ・ょうな ・ら」


やがて又ゆっくりと前を向き

やっと立つ姿は

花瓶に刺したまま萎れた

1輪刺しのバラのようだった。


レイモンドはかなりの違和感を

覚え、無性に彼女が愛おしく

思えた。


バ━━━━━━━━━━━ン

俺は椅子を蹴り立ち上がった!

あれは?

あれは、彼女は・•・

美桜━━━━━━‼

美桜━━━‼

俺は見届け人の場所から

飛び降りて死刑台に向かって

飛び出して叫んだ!

「美桜━━━━━━━‼」

カキ━━━━━━━━━━ン‼

美桜の首に向い振り落とされた剣と

レイモンドの剣がぶつかった。


《《なんの真似だ

エミリア━━━━━━‼》》

美桜はバッタリと倒れ動かなく

なった。


レイモンドは直ぐ美桜を抱え台を

降りた。

執行人は何故かホッとしたような

安堵した顔をしていた。


「な━━━━━━んだァ!

バレちゃったか━━━━━━━アハハ

ア━━━━━ッハハハ

アハハアハハアハハアハハ」

今頃気づいたか━━━━━アハハ


ケイン、嫌レイモンド、

何も知らなければ王として私と

永遠の命を得たものを

アハハヒ━━━ッヒヒヒ

何度殺しても収まらないワ‼


お前もそこで死んでるシャロンの

元へ逝くか?‼💢💢

まあ、命乞いしたいならこの剣で

シャロンを刺せ╬◣д◢!

そしたら信じてやる‼


本性をむき出しにしたエミリアの

顔は赤く血走り何本ものクッキリと

した皺が顔にくい込むように

はしっている。

歌舞伎役者が化粧をした時の

様に。

ウギャャャ━━━━━‼と

奇声をあげた化け物から投げられた

剣は、細く長くしなりながら

レイモンドの頬を掠めピッと

引いた赤い線のように切って

ブョョョ━━━━━ンとブレながら

床に突き刺さった。


薄くポタポタと赤い血がレイモンド

の服を染めた。

その時美桜のミサンガがブチッと

軽い音を立て切れた。


美桜の腕から虹の光の柱が立ち

上がりレイモンドの体からも

金の柱が立ち上がった。


二本の柱は絡み合いながらグルグル

と渦を巻いていった。

窓を割って侵入して来た烏一族

を叩きつけ燃やしていった。


ガァ━━━━━ガァ━━━━ガァ

ギャ━━━━━━━━━━━

もの凄い絶叫が聞こえたかと

思うと黒い物体がドサッ、ドサッ

と落ちていった。


外からも髑髏一族の呻きのたまる

叫び声がひっきりなしに

聞こえていた。

不思議な事に炎は熱くなく

建物を燃やす事もない、


町中の人々は、乙女が降りた━━━

この地に降り立ったと叫びながら

町中を駆け回った。


町中の人々は武器を取り皆

立ち上がった。

ガラシアンに、虹の柱が立った

と聞いた時からこの日を

待ちわびていた。


エミリアでは無くリザに戻った

化け物は意味不明な呪文を

呟くとエ━━━━イッ‼

と叫ぶと土をめくるように

大きな真っ黒く巨大な西洋剣が

黒く鋭い光を放って立ち上がった。


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