【期間限定公開】ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました

まるせい/ファンタジア文庫

【第1話】『ある日から使えるようになった転移魔法が万能で生きるのが楽しくなりました』

プロローグ



 かんで何となく目が覚める。

「…………なんだこれ?」

 ベッドから起き上がると、目の前には青白い光の輪が見えた。

「テレビ消し忘れたっけ?」

 光の輪の中にろうのような場所があり、その先にはドアがあるようだ。

「えっと……明かり明かり……」

 もう少しよく見ようと部屋の明かりを探して手を動かす。

 けいこうとうのスイッチはまくらもとに置いてあるので、すぐに見つかるはず。

「あった」

 かすかに届くその光をたよりに照明のボタンを探す。ぐに見つけてそうとしたところ──

「えっ?」

 スイッチに手がかったしゆんかん、青白くかがやく輪の光が失われていく。失われた青白い光を求めて顔を上げてみると──

 青白い光の輪は消えており、目に映るのはアパートに引っしてきた時に買った中古のテレビだった。

 半ば夢にかされたような、キツネにでも化かされたさつかくおちいると、

「夢……だったのか……?」

 首をかしげるのだった。




第一章 からやまさとるの転移ほう



「ふぁーあ」

 大きな欠伸あくびらすと俺は目にまったなみだぬぐった。

 きようだんではくたびれた白衣をまとった教授が授業をしている。

『~~であるからして』

 マイクから発せられる退たいくつきわまるその声は、聞く者の集中力をこれでもかというぐらいにけずり取る。事実、周囲にはまともに授業を聞いている人間は一人もいなかった。

「ね……ねむい」

 他の学生たちは思い思いに雑談をしたりゲームをしたり、はたまた雑誌を見ながらファッションの話をしている。

 大学は勉強をする場所というイメージはもはや残っていないのだろう、俺も彼らにならい、適当にやり過ごしたいところではあるのだがそうはいかずにノートを取る。

 なら、この講義は試験の際にノートの持ち込みが許可されているからだ。

 通常であれば、試験間近になれば友人なりサークルのせんぱいなりからノートや試験対策を教えてもらえるのが大学という場所らしい。

 だが、俺には親しくしている友人もいなければ、バイトに明け暮れていてサークルに入っていないため、試験の過去問をゆうずうしてくれる先輩もいない。

 よって。頼れるのは自分だけとなり、こうしてにノートを取るしかないのだった。


 ガヤガヤとけんそうが耳を打つ。ここは大学の食堂だ。俺はラーメンをのせたトレイを手に持ちながら空いている席を探していた。

「どこも満席か……」

 厳密にいえば空席はある。だが、しやべっている他の学生の荷物が置かれているのだ。

 こういう場合、席は一人一席とルールで決まっているのだが、相手は陽のふんまとってさわいでいる。

「……どうするかな?」

 こうしている間にもラーメンがびてしまう。こんな時に友人がいれば席を確保した上で昼食を買いに行くのだが、あいにく親しくしてる友人はいない。

 というのもガイダンスの際にとなりに声を掛けようかと思ったのだが、両隣がたまたま女子だったので、声を掛けることができなかったのだ。

 高校時代、女っ気の無い学生生活を送った俺には女に話し掛けるのはハードルが高かった。そうこうしている間に周囲はRINEのこうかんやら雑談を始めたので俺は完全に取り残されたのだ。

 おかげで俺は友人を作ることができず、入学から1ヶ月がつのにもかかわらず一人ぼっちだった。


「……ぬるくて不味まずい」

 しばらく食堂をウロウロしていたところ、ようやく空席を発見した。

 だが、15分は経ってしまったのでラーメンは伸びきっており、口の中でブツリと切れる。

「はぁ……つまらないよな」

 元々自分に自信があるタイプでもない。いちねんほつして東京の大学を受験してみたが、入ってみて人とのれ合い方に躊躇ためらいが出る。

「このままずっとつまらない人生なのかもなぁ……」

 俺はそうつぶやくと、伸びきったラーメンをすするのだった。


 その日の晩。

 バイトを終えて帰宅した俺は、だん通りにコンビニ飯をり、シャワーを浴びてベッドに横になった。

 ぼんやりとテレビをつけて見ている。よるおそくということもあり、ニュースが流れているのだが、つかれているのか頭に入ってこない。

 今日は一日だるさがけず、頭が働かずにバイトでミスをり返してしまった俺だった。

 どうしてこんなに疲れているのか。俺はなんとなく頭のにぶりに意識を集中してみると──


「えっ?」


 きっかけはわからない。

 今だと言えばそうだし、もっと前……夢の…………あの時に覚えた違和感が最初だろうか?

 先程までもやがかかっていたかのような感覚だったのだが、それが晴れたかのようにハッキリと理解する。

「なっ、なんだこれっ?」

 身体からだの一部が新たにつながったような。今まで意識していなかった器官が動いてるような感覚に陥る。

「使える……の……か?」

 どうすれば良いのかは何となくわかる。俺はその感覚に身を任せると──


 すずしい風がはだげきする。違和感を覚えて足元を見ると、あしで土の上に立っていた。

「えっ、なんだこれっ?」

 俺は混乱した。周囲をわたすと明らかに様子が変わっていたからだ。

 先程までボロアパートの部屋にいたはずなのだが、現在はベンチとどうはんばいが目の前に見える。

「…………もしかして……公園……なのか?」

 その場所に見覚えがあった。ここは近所の公園だった。現在住んでいるボロアパートから徒歩で数分。大学に通う際に毎日通りかかっている公園だ。

『きゃははは、うそー、ほんとにー?』

 声が聞こえたのでとつかくれる。現在の俺はジャージ姿(それも高校のころのダサい)だ。夜遅くに子どもが遊ぶような公園をジャージ姿でたたずむのはあやしくて通報されかねない。

 俺は電話で楽しそうに話しながら歩いていく女を自動販売機のかげから見送った。

「いっ、一体何が起きてるんだ?」

 感覚に従って行動した結果、とつぜん外にいた。それまでのおくけいぞくしてあることから夢遊病のたぐいではないだろう。

「と、とにかく一度アパートにもどらないとっ!」

 戻りたいというあせりがき起こった。

 次の瞬間、何かが身体を抜けていくと──


「えっ?」


 目の前に青白い光の輪が現れた。

「俺の……部屋……」

 その光の輪の先には俺が大学に入ってから暮らしている部屋が映っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る