『笑顔な人』───とても優しくて、とても暖かくて……とても寂しい言葉

 読み終えた後、寂寥感に包まれました。

 でも、寂しさだけじゃない。ほんのり温かな思いも、心の中で確かに灯っていました。

 終末の世界……一体、どれほど寂しいものなのでしょうか?周りに映るものは全て『静』。いや、『止』と言った方が正しいかもしれません。自分だけが動く世界に取り残された気持ちなど、私には想像することもできません。

 そんな世界に佇む人形。感情という素晴らしくもあり、厄介ともいえる機能を備えて。

 凍った世界でただ一人、人形は何を思うのか。何を感じるのか。何を感じてしまうのか。

 ひとこと紹介に乗せた言葉はこの作品で使われているものです。この言葉を見て私は鳥肌が立ちました。
 『笑顔が素敵な人』とか『笑顔が可愛い人』なら月並みの言葉ですが、ここでの表現は『笑顔な人』。簡素な言葉に見えて、ここに詰まっている思いは計り知れません。

 文章の構成も見事です。
 この物語は三話に分かれているのですが、メインの人形である'ソフィア'の容姿に関して、一話目と二話目では一切描写がありません。そして、三話目でやっと私達の頭の中にソフィアが現れてくれるのです。それまで、色々と想像しながら読んでいた読者の枝分かれした道が一本にまとまる……思わず唸ってしまいましたね。

 短編ですが、読みごたえはしっかりある作品です。皆さんも是非一度足を運んでみてください。

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