許せない意味

喫茶「水藻」

いつも、客でにぎわっているところだが1回も入ったことなかったので、ここを選ぶ。緑の方が先に来ていた。

写メでみるより、年齢よりとても若く見える。色黒だと、聞いていたが若いせいか、化粧のりがよく白くみえる。ほんわかしたムードだ。

「あっ、はじめまして。私、今回の件なんていったらよいか。」椅子から、立ち上がり身体を深く曲げてあやまる。

「会うのは、初めてね。いいのよ。って、軽々しくは言えないけど。あなたに、刺される意味が最初わからなかった。留美なんか、もっとわからなかったといってたけど。あの顔は女と見られてもしかたがないわね。」

「ごめんなさい。私、仁のことが好きになっていたの。また、捨てられると思ったら周りが、見えなくて…」メールや、電話で何回も聞いた文面。

いちいち、女ができて殺人してたらこの世は、殺人鬼だらけよ。わかってるのかしら。いらつくわ。わたしの顔だって、身体だって何針ぬったか。でも、親からもらったこの顔でいたかったから。睨みそうになるのを、なんとか堪えて「思いは、わかったから」と、意に反して返事をする。


トイレにと言って、緑は立った。

そのすきに鞄の中に、手をつっこんで時間をかけて選んだ出刃包丁を確認する。


すると、やあ、おそくなったね。と人懐っこい笑顔で留美が現れた。

「えっ、呼んでないわよ。」内心、びっくりしながら顔をあげる。(カバンの中、見られた?)

「心が通じてるからね。愛する人の。彼女は、トイレ?」

こいつは、子供っぽい顔してるけどハッカーだけあって、頭がいいので侮れない。

「だって、僕のデート断っておしゃれして出かけるんだもん。気になっちゃって」

トイレから、戻った緑は僕に気がついて、申し訳そうにしている。

「僕は、愛しの彼女を追ってきただけだから。事件のことは、チャラにはできないけど。その分、仁を信じて大事にしてあげてね。さあ、ぼくらこれで失礼するね。」

えっ、来たばかりでしょ。すこしゆっくりしていけばと、言う緑の言葉も丁重にことわって、マネージャーと、外に出る。


「さあ、これからどうする?僕も誤っておくね。静香のパソコン見ちゃった。」

しまった。そうか、暗証番号なんてこいつには簡単に破れるんだ。

話したいこともあるからと、引っ張って連れて来られた安モーテルの1室。


「君の姉さん昔、通り魔に殺されたんだね。おれ達が憎いのは分かるよでも、

おれ達とおりこして、何で緑さんなの?おれ達の方が、正確にいえば、仁やヤミの方が、姉さんの犯罪者に近いだろ?」興奮してしまい、矢継ぎ早に言葉がでてくる。

彼女は、ずっとだまったままだ。思いつめた糸が切れたのか、顔中蒼白。

「とにかく、その包丁使うことなくてよかった」

やっぱり、見られてた。

「な、なにが良かったよ。あんたに何がわかるの。」

ある日突然姉が、いなくなって、やっと会えたと思ったら遺体安置所。あんな人の形がわからないほどメチャクチャに刺されて。何が更生よ。

加害者が、第二の人生を歩んで前を向いているとき、被害者家族は生き地獄よ。姉にもっとこうしてあげてたらとか、前どころか同じところから、ずっと過去に囚われて出口がないわ。ずっと、もがきっぱなしよ。言葉を絞り出していた。


どうせなら、私も殺してほしかった。泣き崩れて、床に座る。その姿をしばらく見守った。今までどれだけの涙を流してきたのだろう。

その姿が、切なくて抱きよせる。

「何、するのよ」全身で、振りほどこうとしても日頃から、身体を鍛えてるからびくともしない。


もっと、人生を楽しんでもいいんじゃない?今まで、充分苦しんだんだろう?僕が、出口がないなら壊して助け出す。確かに、ぼくは加害者側だけど更生すればするほど自分の罪に、腕の爆弾に怯えて暮らしているんだ。いっそのこと、死刑の方がよかった。


君は僕のことを利用していたかも知れないけど、ぼくは君に惹かれていった。

君は僕らに立場上一線ひいていて、無表情、無感動でいようとしていたね。

でも、そんな君のときおりの笑顔(口がゆがんだようにしかみえないが)や、とまどいとか素の君の新しい発見があって、そんなことの積み重なりがうれしかった。

僕は、そんな君をずっとみてきた。


「何、言ってるのよ。姉は、彼氏もいて幸せ絶頂期に突然、顔も知らないやつに殺されたのよ。緑みたいな、感情一つで人の命を奪えるやつは許せない。」


だから、殺すの?殺人犯と、変わらないじゃない。被害者だったら、人を殺してもゆるされるのか?そして、君も指輪をはめて加害者になるの?

「やめて、やめて、あなたになにがわかるの。」かなり、興奮気味になり抗い、僕の腕から、離れた。


「ぼくには、分かるよ。誰にもいってないけど、僕の家族も快楽犯に殺されたから」

「えっ」

なんちゃってな。と、舌をだす。

ちゃかしたけど、留美はそういう冗談は言わない。私と、同じ?

「そういう、ループって本人が断ち切らないと、一生続くと思わないか?」時おり、説得力のある言葉がでるのは、今まで人に言えない苦労をしてきたせいかしら。私ったら、なんでこいつのペースにはまってるの。


留美の顔が再度近づき、唇が重なり合う。今まで、カップルを装いながら初めてだ。「なっ、何するの」

「僕たちもやり直そうよ。顔、最初怖かったけど大分傷なおったね。」そして、またキスをする。傷口をいたわるように顔中から、首筋に柔らかい唇がおりてくる

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る