第9話 王様と小さな箱(2)

 天女の去った後、王様は広間に王族、大臣、家臣一同を集め、先ほどの話を伝えました。

 皆はざわめきました。誰もが俄かには信じられないという顔をしています。

「もし、そのお話が本当であるとすれば、良い考えがございます。」

 大臣の一人が進み出て言いました。

「国の名を変え、新しい王を立てるのです。それで、この国はいったん滅びたこととなります。」

「それは良い。さすれば、この国も安泰というものだ。」

 国を守る将軍も賛成しました。国の名前は改められ、新しい王には王様のすぐ下の弟が立つこととなりました。

「ご心配なさりますな、もし何事もなければ、すぐお戻りいただきますゆえ。それまで、どこかに身をお隠しください」

 大臣や弟に言いくるめられ、王様はお城を出ることになりました。

 あちらこちら、さ迷い歩いた末、王様は国境の山にたどり着き、そこで暮らすことにしました。食べ物は木の実と山草、そして沢でとれる魚です。時おり、残してきたお妃と息子たちのことを思い出しました。彼らだけは王宮で暮らせるように弟王と約束したのです。皆、元気であろうか、心細い思いはしていないであろうか、それだけが気がかりでした。

 その日も王様は拾ってきた薪で魚を焼きながら、物思いにふけっていました。すると後ろで、ガサガサという音がしました。獣がいるのかと振り返ると、黒衣の男が刀を振りかざして斬りつけようとしていました。あわててよけたものの、王様はそのまま腰を抜かしてしまいました。

「将軍のご命令だ。お命を頂戴する。」

 男は刀を振り上げました。

 もうだめだ、と思った王様は固く目を閉じました。目の前が赤くなり、白くなりして、やがて意識を失いました。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る