束縛彼女との同居生活 ～ヤンデレな彼女からは逃げられない～

第37話

「俺に信用が無い事は、十分に分かってはいる。けれども、今度ばかりは信じて欲しいんだ。本当に、嘘は言ってはいないって」

「まーくん……」

「頼むよ。頼むからさ……ここで香花に信じて貰えないと、俺は……えっと、困るからさ」

　たどたどしくも、何とか彼女に信じて貰いたくて、俺はそう口にした。

　元々、俺は口が達者では無いからこそ、こんな言葉しか出てこない。もっと上手い事を口にして、彼女を宥めてやれれば良かった。

　しかし、持ってはいないものを高望みをしても仕方がない。持てるもので彼女と相対するしかない。

「今までは駄目だったかもしれないけれど、昨日から頑張るって決めたんだ。だから、さ……」

　だからこそ、これが今の俺に出来る精一杯の事なのであった。

　こんな言葉でも、疑い深い彼女が信じて欲しい……そう願いつつ、俺は彼女の反応を見守った。

　そして……

「……信じても、いいの？」

　俺の腕の中に抱きしめられた彼女は、俺と目を合わせずに俯いたまま、そう言った。

「『今回は』騙されてはいないって、私は信じてもいいの？」

　そう彼女が聞いてくるという事は、不安を感じてしまうのと同時に、俺の事を信じたいという気持ちがあるからだろう。

　そうで無ければ、こんな事は言ってはこない。それなら俺の手を押しのけて、彼女から拒絶されてしまうだけなのだから。

　でも、彼女は信じたいのだ。彼女が大好きであると言って憚らない、俺の言葉を。もう嘘は言わないのだという事を。

　なら、俺も彼女の期待に応えないと。あともう少しで信じて貰えそうなのだから、俺も頑張らなければ。

「あぁ。今回ばかりは、今までとは違うよ」

　彼女が口にした言葉を踏まえた上で、俺はそう言った。

　十分に、いや十二分に決意を籠めたのだ。きっと、彼女もそれに応えてくれるだろう。

　俺は成功を疑わず、そう信じた上で香花がどう思っているかを確かめるべく、彼女の顔を覗こうと……。

「……やっぱり」

「……へ？」

「やっぱり、そうなんだ……」

　彼女の口から唐突に漏れ出た言葉に、俺は思わず間抜けな声を出してしまう。

　しかし、彼女はそれに気を止める事は無く、俺に目線を合わせ様と顔をゆっくりと上げていった。

　そして香花と目がばっちりと合った時、俺は気付きたくは無いものに気付く事となった。

　その瞳には最初に迫ってきた時と同じ様に、怒りの色で真っ赤に染め上がっていたのだ。

　どうしてそんな反応をされる事になったのか、俺には皆目見当がつかない。

　俺は何を、一体どんな地雷を、虎の尾を踏んでしまったというのか。

「え、えっと……？」

「まーくん、言ったよね。今回ばかりは違うって」

　その真意を確かめようと尋ねる前に、香花は先回りしてそう言ってきた。

「い、言ったけど……それが、何か……」

「今回ばかりは、違う。へぇ、そうなんだ。今回ばかりは、ねぇ……」

　何度も繰り返す様に、彼女はそう口にしている。まるでそれは、呪言の如くの様であった。

　怖い。心底、怖かった。彼女を抱き締めていて、至近距離にいるからこそ、余計にはっきりとそれを感じ取ってしまうのだ。

　さっきまで雪解け的なムードになりつつあったのに、それが徐々に変わりつつある。どうして、こうなったのか。

　イメージとしては、噴火とかもしくは雪崩だとか……とにかく、ヤバい雰囲気なのであると、それだけは言っておきたい。

「じゃあさ、まーくん。今回は、という事はさ……」

　そして、これだけははっきりとしているのだろう。鈍い俺にでも、分かる事でもある。

「これとは何か別に隠し事してる……それか明日以降のいつかは私をまた騙そうとしてるって事なのかな？」

　彼女はきっと……俺を信用はせずに、許してくれそうにはないのだ、という事を。