第29話 伝統

 生徒会役員になるのは回避したいが、そもそもどうして生徒会補佐に選ばれたのか。

 魔道具によってランダムに選ばれたのだろうか?

 ランダムでも、法則があるにしろ迷惑な話だ。


 そんなことを考えていると、マリアベル嬢が生徒会長に訊いていた。


「何故、私たちなのですか?」

「‥‥‥‥何で選ばれたのかってこと?」

「ええ、そうですわ」


 マリアベル嬢の口調には僅かに苛立ちが感じられ、生徒会長はちょっと困ったような顔をしていた。


「実はどうやって選んでいるのか分からないんだ」

「は?」

「ランダムなのか、法則があるのか? ‥‥‥‥代々受け継がれている伝統としか言えないな」


 困ったように眉根を下げる生徒会長。


「伝統、ですか?」

「うん‥‥‥‥初代生徒会からの伝統だね」

「‥‥‥‥」


 表情に出ていないアルバートはどう思っているか分からない。

 マリアベル嬢は伝統という言葉に僅かに眉を上げている。ミアも伝統と訊いて顔をしかめた。

 そんな三人に対して、申し訳なさそうにしながらも生徒会長は愉しそうだ。


「そういう訳だから‥‥‥‥補佐をしながら生徒会に慣れていってよ」

「‥‥‥‥わかりましたわ」


 マリアベル嬢は納得いかないようで不承不承という感じで返事をしていた。


 伝統の一言で話は終わりって‥‥‥‥ため息がでそうだ。


「ああ‥‥‥‥私は平民だろうが差別はしないけど‥‥‥‥今まで平民が生徒会に入ったことはないから、ミアさんは大変だろうけど頑張って!」

「‥‥‥‥はい」


 声が暗いのは仕方がないだろう。


 三人それぞれの思いはあるが、初顔合わせは仕事の説明と来年の生徒会入りという嬉しくない情報をもらい解散となった。



 生徒会室を出て補佐役の二人、アルバートとマリアベルが並んで歩いている後についていく。

 アルバートはミアより頭ひとつぶん背が高く、マリアベルもアルバートより少し低いくらいで背が高い。スタイルもいいし大人っぽい雰囲気で、父様や兄様に子供扱いされる自分と違って羨ましいとマリアベルの後ろ姿を見ていた。


「アルバート様、卒業まで生徒会でご一緒することになりますわね。よろしくお願いいたしますわ‥‥‥‥ミアさんもね」


 マリアベル嬢が立ち止まり振り返っていた。


「マリアベル嬢、こちらこそよろしく‥‥‥‥ミアさん、何かあったら力になるからね」

「はい、マリアベル様‥‥‥‥こちらこそよろしくお願いします。アルバート様、ありがとうございます」


 アルバートが変わらず優しいのが嬉しかった。





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