第24話 魔導研究所にて 3

 暫くローズの研究室で休んでいると、ふわふわとした感じがなくなってきたので椅子からゆっくり立ち上がってみる。

 ふらつくこともないから大丈夫そうだ。

 家に帰ろうと思い、部屋を見回すとランバルトはいなくなっていていて、ローズはミアに背を向けて作業をしていた。


「ローズさん、もう帰ってもいいですか?」


 ローズに声を掛けると作業に熱中しているようで、振り向きもしないで返事だけが返ってきた。


「ええ、いいわよ~‥‥‥‥次は学園へ入学してからね」

「‥‥‥‥はい」


 誘拐事件や婚約式などがあり、毎日が慌ただしくて入学式が近いことをすっかり忘れていた。思いだすと胃が重くなってきた。


 帰ったらリリーに紅茶をいれてもらってゆっくりしよう。確かパウンドケーキもあったはずだわ、と幾分重くなった気持ちを切り替えて部屋をでる。




 ローズの研究室を出て廊下を歩いていると後ろの方から声をかけられた。振り向くとジュリアスの父であるマシュー男爵(おじ様)が廊下の奥にある階段を降りてきたところだった。


「ミアちゃん、ちょっといいかな?」

「はい?」

「私の部屋で話そうか」


 そう言うと、おじ様はサッと踵を返して階段を登っていく。疲れもありぼ~とおじ様の後ろ姿を見ていたが、遅れて言われたことを理解すると慌てて追いかけた。



 初めて入ったおじ様の研究室は二階の廊下の一番奥だった。木製の扉から中に入ると左側にも扉が一つあり、腰壁と木床はダークブラウンで壁紙は白、奥には書斎机と本棚があり、手前にはソファーが置かれている少し狭めの部屋だった。


 ミアはおじ様に勧められたソファーに座り、おじ様が左側の扉に入っていくのを見ていた。

 ソファーは硬すぎず柔らかすぎず適度なクッションで座り心地が良く、落ち着いた部屋の雰囲気はおじ様らしく感じられて好感が持てる。

 暫くするとおじ様が紅茶とクッキーを持って戻ってきた。


「どうぞ」

「ありがとうございます」


 おじ様に紅茶を入れてもらい恐縮してしまう。それに何故部屋に連れてこられたのか? おじ様のことは好きだけど相対すると緊張する。ミアは緊張を解そうと紅茶に口をつけた。


「順調なようだね」

「‥‥‥‥はい」

「何かあったら私を頼りなさい」

「えっと、ありがとうございます?」


 何に対して言っているのか分からず疑問形になったが、ミアのことを心配してくれているのだろうと思うとありがたかった。


「‥‥‥‥本当はジュリアスが傍で守るのが一番なんだがね」

「‥‥‥‥」

「学園へ入学してからも何かあったら言ってきなさい」

「ありがとうございます」


 この後はミアはおじ様からローズの研究室でのことや、家での魔石を使った練習のことなどを訊かれ素直に全て話した。




 暫くしておじ様の部屋をでて家路につきながら、ミアはおじ様と話したことを思い出していた。

 おじ様はミアが学園へ入学してからのことを特に心配しているようだった。心配されると不安は大きくなるもので、


「やっはり私たち平民が貴族に混じって学園へ通うのは大変なんだろうな」


  口にすると益々気が重くなり、数日後には入学式があると思うと大きなため息をついていた。


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