第5話 助かるために

 扉が開くと部屋に三人の男達が入ってきた。髭面の男がミアとアルバートに近づいて下卑た顔を向けてきた。


「これは、どっちも上玉じゃないか」

「そうでしょう、兄貴」


 若い男が得意気に答えた。そこに一番年嵩の男が話に加わる。


「だがなぁ、貴族や金持ちはヤバイだろう」

「そうだなぁ」


 髭面の男が頷くと若い男が言い募る。


「いや、さっさと街から出て売っちまえば」

「そうさなあ」


 髭面の男は顎に手をやり思案していたが、年嵩の男の言葉で話が纏まる。


「ここに、このまま置いとくわけにもいかんしな」

「そうだな‥‥‥‥今晩にでも、他のと一緒に運び出すか」

「了解っす、兄貴」


 髭面の男の言葉に若い男が元気よく答えた。


「おとなしくしとけよ」


 髭面の男がそういって、男達は部屋から出ていく。

 そして男達の会話から自分たちの状況を理解したミアとアルバートは真っ青な顔をして男達の出ていった扉をしばらく見つめていた。





「売られる、のね‥‥‥‥私たち」


 ミアの口から誰に聞かせるでもなく呟きが漏れた。


 予想通り今晩ここから連れ出されたら奴隷商人に売られるのだろう。

 奴隷を買う者の中には、子供を慰みもにする変態や暴力を好んで振るう残虐な者もいると聞いた事がある。それ以外の者に買われたとしても、奴隷として生きる惨めな人生が待っている。


 嫌よ、奴隷なんて‥‥‥‥絶対に、嫌!


 ミアが暗い未来を想像して顔を歪めているとアルバートの呟きが聞こえてきた。


「僕たちがここにいるのを、知らせることができたらな」


 !‥‥‥‥助かるかも‥‥‥‥でも、どうやって?


 ミアは視界の端にある木箱をぼんやりと眺めていたが、突然アルバートに顔を向ける。


「ねえ、窓から手紙を落としたらどうかしら?」

「!‥‥‥‥うん、確かに‥‥‥‥拾った人が届けてくれたら、助かるよ」


 見えてきた希望に二人の顔色が微かによくなる。

 ミアとアルバートは手紙になりそうなものを持っていないか探した。見つかったのは、ふたりのハンカチが一枚づつとミアが持っていた魔法ペンが一本だ。


「ペン、持ってたんだ!」

「魔力切れで書けないの‥‥‥‥補充してもらおうと思って持ってたのよ」

「そうなんだ‥‥‥‥僕にかして、補充するよ」


 アルバートがミアからペンを受けとると魔石に魔力を込めだす。徐々に魔石の色が透明から緑色に変わりだす。


 アルバートの属性は風なんだ! 綺麗な緑色


ミアが見とれている間に補充が終わり、透明だった魔石の色は深緑に変わっていた。そのペンでミアとアルバートは、ハンカチに『さらわれた、たすけて』と名前を書いて窓から外に落とす。


 ミアの落としたハンカチは路地を走ってきた男の子に拾われた。その直後に男の子は友達に呼ばれて、慌ててポケットにハンカチを押し込んで走って行ってしまう。

 そしてアルバートの落としたハンカチは、犬がくわえて路地の奥へと消えてしまった。

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