37

minamiに寄っても始業時間まで余裕だと思っていたのに、いつもより遅い時間の電車とラッシュの人混みにまみれると思いの外時間を取られた。


小走りで事務所へ入ろうとすると、杏奈を追うようにして息を切らせながら時間ギリギリに滑り込んでくる同僚と鉢合わせになる。


「おはようございます、三浦さん。今日は遅いですね。寝坊でもしました?」


はあはあ言いながらも軽口を叩いてくる彼は、杏奈より二つ年上の配下社員だ。

年が近いとはいえ年上の部下で、喋り方にも気を遣う。

あまり丁寧でも上司としての威厳が薄いし、かといってフランクすぎるのもどうかと思うのだ。

要するに、杏奈にとってやりづらさこの上ないと感じていた。


「波多野さんこそ遅かったですね。」


「寝坊しました。超ダッシュしたし、腹減ったわー。」


波多野はどかりと自席に座ると、ネクタイを緩めてうちわで扇ぎ出す。

それを横目に、杏奈も自席へついた。


デスクの上に先程購入したminamiの紙袋を置く。

意外と大きくて、さてどこに片付けようかと思案してみたが、杏奈はふと思い立って波多野に声をかけた。


「波多野さん、朝食べてないの?パンでも食べます?」


杏奈は紙袋からパンをひとつ取り出すと、それを波多野へ手渡す。


「え?マジ?いいんすか?」


波多野は珍しいものでも見るかのように杏奈に視線を送ると、嬉しそうにパンを受け取った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る