21

「…広人さん。」


「え?杏奈さん?」


広人は驚きつつも、杏奈に優しい笑みを向けた。


「こんばんは。こんなところでどうしたんですか?あ。またそんな格好をして。」


広人の目線が杏奈の肩の辺りを指す。

その目線を辿って、杏奈は自分の肩を見た。

もう夏も終わりだというのにノースリーブのワンピースだ。

ストールを羽織ってたはずなのに、そういえばいつの間にかなくなっている。

忘れてきたのか落としたのか、酔っぱらっているので全く覚えがない。

指摘されたことで急に寒さを感じてしまって、杏奈は身震いひとつ呟いた。


「…寒い。」


お酒で火照っていた体は、夜風を浴びてだいぶおさまっていた。

広人は自分の着ていた上着を脱いで、杏奈の肩に掛けてやる。


「とりあえずこれでも着てください。風邪をひきますよ。」


上着を掛けられてもぼんやりと広人を見るだけの杏奈に、広人は甲斐甲斐しく袖を通してやる。

杏奈は黙ってそれに従った。


「もしかして酔ってます?家まで送りましょうか?」


杏奈から香るほのかな酒の臭いに気付いて広人が言う。

もう二人は何でもない関係だ。

“お見合い”はもう終わったのだ。

それなのに広人は前と変わらず優しく杏奈に接してくる。

そんな態度に杏奈はまたふつふつと怒りが込み上げて、キッと広人を睨んだ。

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