03

鬱々と過ごしながらも勝手に日は進み、杏奈は母の言いつけ通り祖母の家へ赴いた。


祖母は杏奈の着付けをしながら目を細める。


「やっぱり似合うわぁ。とても素敵ねぇ。」


「おばあちゃん、ありがとう。」


鏡に映る自分の姿にほうっとため息が出る。

着物なんて成人式以来だ。

姿勢がシャンとして髪もアップにしているのでとても上品に見える。


「でもおばあちゃん、申し訳ないけど私そんなに乗り気じゃないから。」


祖母の顔を立てるためとはいえ、お見合いの話を母から聞いて以来今日まで、少しもテンションが上がることはなかった。

そのことを正直に申し出ると、祖母はカラカラと笑う。


「杏奈、一期一会よ。どこにチャンスが転がってるかわからないんだから、会ったもん勝ちねぇ。さあ、行った行った。」


確かに、一期一会は大切にするべきだと杏奈も思う。

だけどそれはビジネスにおいてのことであり、お見合いに当てはまるのかと考えるといまいちしっくりこない。

というより、今の杏奈の気持ちが“お見合い”というものに付いていけないのだ。


しかも着物でお見合いだなんて、気合いが入りまくってるようにしか捉えられないのではないかと、少し心配になる。

見た目と気持ちは正反対なのだ。

できるのならばこの場から逃げだしたい。

できるのならば。


祖母にバレないように、はぁぁぁ、と大きくため息をついてから、杏奈はお見合いの場である料亭に入っていった。

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