おとんと真美

ロム猫

おとんと真美

「おはようさん」


「おはようさんやあらへんで、おとん。時計見てみいな、今何時やと思うてんねん」


「ホンマやなあ、もう昼か。随分寝過ごしてしもたわ。ま、たまの休みくらいええやろ。真美、茶入れてくれてんか?」


「はあ? なんでうちが茶入れなあかんねん。冗談は顔だけにしとき」


「うっさいわボケ。おまえも冗談の遺伝子を半分もろてんねんで。つべこべ言わんと早よ茶入れんかいな」


「なんや、えっらそうに。ほい、チャー。入れてやったで」


「寒いわアホ。今日び、誰がたむけんで笑うと思てんねや。下らんことしとらんと、早よ茶入れんかい」


「なんや、寒いって。腹立つわぁ。たむけんぐらい稼いできてから言いなや。ほれ、茶やで」


「おお、サンキュー。やっぱ寒い思いをしたあとは、あったかい紅茶が一番やで。あったかいんだからぁって、アホ! なんやこれ、紅茶やないか!」


「紅茶やで。あかんのか?」


「茶ゆうたらおまえ、普通緑茶やろ。なんで昼間から英国紳士を気取らなあかんねん」


「初潮やねん」


「はあ?」


「二度も言わすな。初潮やねん」


「なるほどな。赤飯の代わりに紅茶でお祝いって、アホか。おまえ高校生やんけ」


「ちゃうちゃう。緑茶にうちの血入れたらこないな色になってん」


「グロいわ!そんなボケいらんちゅうねん!早よ茶入れんかい!」


「やかましいわ!茶切らしとんねん! ごちゃごちゃぬかしよったら、茶しばく前におどれをしばいたんで!」


「そ、そんな真美はん……」


「いま、昼メシ作ったるで、ソファーにでも座って待っとき!」


「……なんや、忙しないやっちゃな。まあ、切らしてんならしゃあないか。よしゃ、テレビでも見たるか。ポチッとな」


「おとん、古いで」


「やかましいわ。なんや、ワイドショーばっかやないか。不倫とオリンピックの話題だけやなぁ。あっ、不倫と五輪ばっかやで」


「おとん、別にうまないで」


「なんや、愛想ない。しゃあない、新聞でも読んだるか……」


「……」


「うーえを向ーいてー フーフフーフフンフン」


「鼻歌か。えらいご機嫌さんやな」


「なーみーだーがー フーフフーフフンフンフンフンフフン」


「ちょい待てや。なんやそれ?」


「おとん、知らんのか。上を向いて歩こうやで」


「いやいや、そうやない。なんで中途半端なとこで歌詞わからんみたいにフンフンゆうてんねん。おまえいま上を向いて歩こう言えてたやんけ」


「あかんのか?」


「なんや、気持ち悪いやんけ」


「でも上手いやろ?」


「別に」


「何エリカ様気取ってんねん。うち、クラスでも歌上手いって評判なんやで」


「さよか」


「興めや!」


「きょうめ? なんやそれ」


「興味を持つの命令形や。今作ったで。興めや! おとん!」


「わ、わかった、わかった。興むる興むる」


「なんや、おとん。信用しとらんのか。よしゃ、うち本気出して歌ったるで聴いとき」


「いや、けっこう」


「興めや!」


「わかった、わかった。聴いたるわ。で、何歌うんや?」


「サザンや」


「サザンの何歌うんや」


「アホな。サザンゆうたらツナミに決まっとるやんけ。そないな事も知らんからおかんに逃げられんねんで」


「ちょ、ちょっと、真美はん……」


「いくで」


「見つめあーうとー 素直にー おしゃーべりー出来ーなーいー」


「おっ? なかなかのもんやないか」


「津波のよおーなわびーしさにー アイノウ 怯えてるー フー」


「フー、ちょっと裏返ったな」


「巡りあーえたー ときーからーまほーおがーとけーなーいー」


「ええで、ええで」


「鏡のよおーな夢のなかでー」


「おもーいではー いつの日もーーーー」


「ビブラート効いとんな。いや、なかなかやで」


「フフン」


「なんでそこだけやねん!」



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