第2話 入学初日2

 ☆夕也視点☆


 ──入学式中──


 体育館での入学式はやはり退屈なものだ。

 既に周囲の生徒も何人かは脱落して、床の木目の数を数えはじめていた。

「新しい生活に不安と期待がー」だの「月ノ木学園高等部の一生徒としての自覚を持ってー」だの決まり文句を並べたてる学園長の長ーいお話を聞き終えると、ようやく解散となった。

 正直、こんなものは全校放送で良くないか? 多分誰も聞かないだろうが。




 ──1-B教室──


 教室に戻ってきた後はHRの時間だった。

 来週以降の説明と1年間の大体の行事スケジュール、各委員決め等がどんどん進められていく。

 希望ちゃんがくじ引きで保健委員になった以外は特に変わったことは無かった。

 担任からの連絡等、一通りの話が終わると同時にチャイムが鳴り放課後になる。


 放課後は、昼まで部活の見学および仮入部等の部活体験時間となっている。

 クラスの奴らも各々興味がる部活を見学する為に、教室を出て行く。



「夕ちゃん、体育館でしょ?」

「あぁ」


 隣に座る亜美が立ち上がり声を掛けてきた。

 幼馴染達が続々と亜美の周辺に集まってくる。


「皆、体育館だし一緒に行きましょ」


 奈々美が鞄を肩に掛けながら言うと「そだね」と亜美が頷く。

 俺達は既に入る部を決めている。

 というより中学の時と同じ部活に入るだけだ。

 亜美達女子組はバレーボール部、俺と宏太はバスケ部だ。


「遥ちゃんと紗希ちゃんも誘ってく?」

「別にいいでしょ」

「体育館で合流できますからよろしいのではないですか?」

「それもそっか」


 出てきた2人の名前も中学時代の亜美達の部活仲間だ。

 俺達は6人でぞろぞろと体育館へ向かうのであった。




 ──部活見学中──


 体育館の中では既に先輩達が後輩を迎える準備をしていた。

 体育館を横に2分割し舞台側が女子バレー部、入り口側がバスケ部となっている。

 他の室内競技の部活もあるがそれらは専用の体育館や建屋が用意されている。

 バスケ部とバレー部は大会成績もあまり良くないせいか専用の練習場所は用意されてないようだ。

 更衣室でジャージに着替えて準備をする。

 

 ふと、バレー部を見ると亜美達1年生に2、3年生が集まってきて物凄い勢いで手を握ってぶんぶんしている。

 まあ理由はなんとなくわかるが。

 

 亜美は何をやらせても完璧なのだ。

 家事、勉強そして……。




 ☆亜美視点☆


 バレー部のコートに入るや否や先輩達に囲まれてしまった。 うう、凄い勢いで手を握られてぶんぶんされてる。


「皆、久しぶり。 待ってたよ、あなた達が入部してくるこの日を!」


 中学時代のバレー部の先輩で私たちが1年生だった頃のキャプテンだ。


「お、お久しぶりですキャプテン」


 あまりのテンションに少したじろぎながら返事をする。

 相変わらず元気な人だ。


「いやー情けない話、私達2、3年生の力じゃ地区大会も突破できなかったわ……」

「あ、そうなんだ……」


 ボソっと奈々美ちゃんが口に出す。


「あれ? 蒼井さんと神崎さんは?」

「あ、遥と紗希なら更衣室にいたのでもう来ると思いますよ」


 奈々美ちゃんが応えてくれた。


「あーよかった……月ノ木中のレジェンド6人が揃わないかと思った」

「レジェンドなのは亜美ちゃんと奈々美だけですよキャップ」

「おいーす! 神崎紗希ただいま到着いたしましたー」


 後ろから軽い感じの声が聞こえてきたので振り返ると身長の高い女子2人が立っていた。


「遥ちゃん、紗希ちゃん、こんにちは」

「こんちゃー亜美ちゃん。 相変わらず可愛いなぁもう」

「うわわ……紗希ちゃん、ハグやめてー」

「こんちは、亜美ちゃん」

「遥ちゃん助けてー」


 紗希ちゃんのハグからなんとか抜け出す。

 しかし、紗希ちゃんおっぱい大きいなぁ……。


 蒼井遥あおいはるかちゃん

 中学校からの付き合いで同じバレーボール部だった女の子。

 身長が高くて運動神経抜群。

 凄く明るい赤髪のベリーショートでボーイッシュな見た目の女の子。

 とても綺麗な琥珀色の瞳をしていて、目鼻立ちはキリっとしている。

 本当にかっこいい女の子で男子より女子からの人気が高い。

 スレンダーな体系で「ザ・アスリート系女子」って感じ。

 結構軽い性格で先輩に対してもフランクに話してしまいよく注意されていた。

 バレーボールも凄く上手くて高い身長を活かしたミドルブロッカーとして活躍していた。


 もう1人の女の子は神崎紗希かんざきさきちゃん

 良く手入れの行き届いている、綺麗なサラサラの黒髪は体育館のライトの光を反射して、天使の輪が出来ている。

 シュッとした切れ長な目尻に、吸い込まれそうな黒い瞳で綺麗な白い肌、すらっと高い身長とモデル並みのナイスバディ―。

 これぞ日本美人って感じの女の子。

 普段は髪を下してロングヘアにしているけど運動する時はまとめてポニーテールにしている。

 ただ休みの日は、服装や、出かける場所の雰囲気に合わせてコロコロと髪型を変え、その長くて綺麗な髪を存分に生かしている。

 バレーボールでは主にウィングスパイカーとして活躍。

 やたらと私に対してスキンシップをしてくる。

 可愛いものが好きなようで希望ちゃんもよく被害に遭っている。

 胸揉んだりするのはやめてほしいなぁ……。

 現在のところ、私達の中で唯一の彼氏持ちでなんか色々と経験済みのらしく、ちょくちょくえっちな話を振ってくる。

 奈央ちゃん、遥ちゃん、紗希ちゃんの3人とは、中学校からの付き合いで奈々ちゃん、希望ちゃんに比べて付き合いは短いけどそれでも大の仲良しだ。


「1年生はこれだけ?」

「そうみたいですね……」


 周りを見回してみても他に新入生は見当たらない。

 私達6人だけかぁ……まあ中学でも私達の学年はこの6人だったしなぁ。


「まあ、あなた達レジェンド6人がいればいいわ」

「あのぅ……レジェンドって言うの恥ずかしいからやめてください」

「何言ってるの清水さん。 あなたはレジェンドオブレジェンドなのよ!」

「うぅー」

「諦めなさい亜美……あんた化け物なのよ?」

「奈々ちゃん、傷つくから化け物はやめてよぉ……」

「バレーボール界の超新星」

「うっ……」

「未来の日本のエース」

「ううっ……」

「東の月姫」

「うううっ……」


 奈央ちゃん、遥ちゃん、紗希ちゃんに呼ばれた名前は、実際に全部新聞やTVなんかで私に付けられたあだ名だ。

 恥ずかしい。


「中学生の時点で日本のエースを任せられるなんて言われてたのはあんたと、西の月姫の月島弥生ぐらいでしょ」


 月島弥生つきしまやよいちゃん……関西の強豪校に入学したらしい、全中で何度も対戦した私のライバル。

 実は連絡先も交換していて時々電話とかで話したりもする。 


「……ヴィーナス奈々」

「うっ……」 


 奈々ちゃんに仕返ししてやった。


「ごほん……さっきも言ったけど私達2、3年の力じゃ地区大すら突破できなかったわ。 でも今年からはあなた達がいる」


 キャプテンが私達1年生を見据えて真剣な面持ちで話す。


「中学の時……正直私達は全中とかそんな大舞台に縁なんかないと思ってたわ。 でもあなた達が入部してきて、あなた達のプレイを見た時に、全中も夢じゃないかもしれないと思った。 そしてそれは現実になって、あなた達は1年生でありながスタメンになり、そのまま全中を制覇した。 私達が引退してからの活躍も耳にしてるわ。 無名校だった月ノ木中バレー部が全中3連覇をやってのけたって」


 キャプテンが私たちに頭を下げる。


「私達3年生はこの夏のインターハイが最後の大会になるの。 春高の時期には受験があるから……お願い! 私達にもう1度、夢を見させて! 最高の舞台を見れるなら、私達2、3年生はベンチでも応援席でも構わないから!」


 3年生の……しかもキャプテンが、1年生の新入部員である私達に頭を下げてプライドも何もかも捨てて懇願している。

 インターハイに行けるならベンチでも応援席でも構わない。

 私ならこんな風に頭を下げてお願いできるだろうか?

 私は1年生全員の顔を見る。

 皆、凄く真剣な顔をしてキャプテンを見据えている。


「全国女子中学生バレーボールプレーヤーの頂点さん、どうする?」


 奈々ちゃんが私の顔を見て返答を促す。

 全国のなんちゃらもやめてほしいなぁ……。


「確約は出来ないですけど、私達に出来るだけのことはします。 インターハイ、獲りましょう!」


 キャプテンは顔を上げて「ありがとう清水さん!」と涙を流しながら何度も頭を下げていた。

 今日の部活は入学初日の体験ということで午前中で終わり。

 私達は簡単な自己紹介と練習に参加した。

 今は練習後に更衣室に併設されているシャワールームで汗を流している。


「シャワールームがあるのは女子としては助かるわねぇ」

「うん、そうだね」


 隣でシャワーを浴びている奈々ちゃんと会話。


「ねえ、この後どっかに昼食べに行かない?」

「いーねー。 いこいこ」

「どこいく?」

「いつものレストランでいいんじゃないですの?」


 奈々ちゃんの提案に私と希望ちゃん以外の全員が乗っている。


「亜美と希望はどうする?」

「んー、夕ちゃんのお昼が……」

「うん……」


 私達が夕ちゃんのお昼を作って上げるつもりなんだけど、皆と喫茶店へ行っちゃうとなると……。


「あいつだって簡単なお昼ぐらい作れるでしょ?」

「う、うん、そだよね。 じゃあ行こっかな。 ね? 希望ちゃん」

「うん」

「よし決まりねー」


 夕ちゃんごめん、夕飯はちゃんと作りに行くから。

 シャワーを浴び終えた私達は更衣室で制服に着替えて校門へ向かう。


「お、来た来た」

「お疲れさん!」


 校門では一緒に帰るつもりで待っている夕ちゃんと宏ちゃんがいた。


「あ、うちらこれからレストランにお昼食べに行くから」


 この時間はランチメニューの時間。

 私はオムランチセットが大好物だ。


「夕ちゃん、あの」

「ん? あぁ、気にせず行って来い。 俺はカップめんでも何でもいいから」


 ぽんぽんと頭を優しく叩かれる。


「カップめんなんだ……ごめんね? 夕飯は作りに行くから。 何かリクエストある?」

「そうだなぁ、久しぶりに亜美の肉じゃが食いたいな」

「うん、わかった。 夕方ぐらいに希望ちゃんと行くよ」

「おう、待ってる」


 夕ちゃんは私の頭をわしゃわしゃと撫でてから宏ちゃんと帰って行った。


「あれで付き合ってないってどういうことよ」

「本当にそれですわねー」

 

 紗希ちゃんと奈央ちゃんのそんな会話が聞こえてきた。

 そんなこと言われてもなぁ。

 

「じゃ、行きましょ」


 奈々美ちゃんに促され、私達は私達でお昼を食べに近くのレストランへ向かうのだった。




 ──レストランで昼食中──


 皆が思い思いの物を注文して食べている。

 昼間から重たそうなステーキを食べながら、奈央ちゃんが話しはじめた。

 この6人で居る時は基本的に「素顔モード」になる。


「ねーねー奈々美」

「ん、何よ?」

「結局貴女、中学生の間に佐々木君に告らなかったわね」

「あー……まあね」


 奈々ちゃんは箸を止めて、少しテンション低めにそう言った。

 私も奈々ちゃんがずっと宏ちゃんのことを好きなのは知ってるし、それを応援している。

 早く告白すればいいのに。


 「奈々美、半分くらい諦めてるでしょ?」

 「あれ? バレてたか」

 「え? どうして?」

 

  遥ちゃんが目を丸くし、不思議そうな顔をで訊く。


 「うーん……多分、今告白してもフられるからかしらね」

 「えー、そんなことないと思うけどなぁ……」

 「あはははは! 亜美ちゃんは本当にしょうがないなー」

 「佐々木くん可哀想に……」


 何故か希望ちゃんは宏ちゃんに同情している。

 いや、理由はちゃんとわかっている。


 「そういえば希望ちゃんも、中学生の頃今井君に告白しなかったわねー?」

 「あう……それは……」


 今度は紗希ちゃんから希望ちゃんへの話題振り。

 あーこれはわかる。

 希望ちゃんちょっと気弱だから勇気が出ないのと自信が持てないんだよね。

 小学生の頃からずっと夕ちゃんが好きでどこ行くのにも付いてきたりして可愛かったなぁ。

 あ、いや、今も可愛いけど。

 家に養子として引き取られて夕ちゃんとの距離が縮まってからは、好きな気持ちに磨きがかかったようだ。


 「私はちょっと自信無いから……」


 うん、やっぱり。


 「それに多分だけど、夕也くん好きな女子いると思う」

 「あー」

 

 紗希ちゃんが納得と言った感じで頷いている。

 

 「確信があるわけじゃないよ? 多分だから」

 「本人に訊くのも怖いもんねぇ?」

 「そだね」


 夕ちゃんの好きな女子に心当りが無いわけではない。

 多分、私だ。

 もちろん、私だって確信は無い。

 直接告白とかされた事は無いからだ。


 「亜美ちゃんはどうなの? 自分は恋愛興味無いーみたいな感じ出してるけど」

 「私? うーん、どうだろうね」


 紗希ちゃんの質問を、私は咄嗟にはぐらかす。

って言うのは的を射ている表現だと思う。

 私だって、別に本当に興味が無いわけじゃない。 

 自分だって将来的には、いい人を見つけてお付き合いしてみたいなとか思ったりするし、いいなって思ってる男の子だってちゃんといる。

 でもそんな気持ちは胸の奥に封印して、恋愛に興味のない女子を


 「やっぱり今は興味ないかなー」


 だって私は希望ちゃんの恋を応援する事に全力を注ぐって、そう決めてるから。

 だから、私の気持ちは二の次でいい。


 「……」


 何故か希望ちゃんの私を見る顔が悲しい表情をしているように見えた。

 

 この後は紗希ちゃんの彼氏の話になってなんかえっちな話に発展していた。

 希望ちゃん、凄く真剣な顔で聞いてたけどえっちな話好きだなぁこの子。




 帰りに肉じゃがの材料を買って、夕方に約束通り夕ちゃんの家に肉じゃがを作りに行くことにした。

 まあ家はお隣さんなんだけど……。

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