第37話 実力差

エリスの魔術で作り上げた土壁を一撃で破壊した奴等は、のんきに会話をしながら現れた。

見るとそいつ等は五人の男達で、先頭の如何にもリーダー的な男が、後ろの四人に愚痴るように声を掛けている。


「おいおい・・・、大したこたぁねぇ~奴等だって言ったなぁ~誰だよ!?。チッ、コイツら結構やるじゃね~か・・・」


「す、すみません、頭・・・。護衛の任を受けた冒険者達はEランクだって聞いてたんで、大した奴等じゃ無いかと・・・」


「あははは!。まあいいでねぇ~ですか、頭~。俺っちはこういう展開好きだなぁ~!。燃えるじゃん!イヒヒ~」


「我らの仲間が・・・全滅ですか・・・」


頭と呼ばれている奴は、プレートメイルを着込んでいるが動きやすくする為なのか、体の急所などを防御している場所以外は肌を出している。持っている剣は、シミターと呼ばれる大型の湾曲した両手剣だ。


他の奴等だが、三人は盗賊というより傭兵のような見た目の装備をしている。明らかに、先程殲滅した者達とは気配が違う。もう一人は、大きめの魔法杖ワンドを持っているので魔術師か・・・。エリスもワンドは持っているが、指揮棒ぐらいの小さなものだ。今度、杖の大きさの違いについて聞いてみるか・・・ってそんなのんきな事考えてる場合じゃないな・・・


しかし、相手に魔法使いがいるとなると厄介だな。なら、まずアイツから倒すか・・・

すると、騎士団達が俺達の前に出て盾を構え、相手に問いかける。


「何だ、貴様らは!?。我らは、領主エルベール家の守護騎士団である!。今は、領主のご令嬢の護衛の任を受けている最中だ!。ケガをしたくなければ、早々にここから立ち去れ!」


あ、いや、口上を述べるのは良いんだけどさ、今そんな状況じゃないよね?。

ほら、アイツらニヤニヤしてるじゃ・・・あっ!!!


ドガァーーーーーーン!!!!というもの凄い音と激しい振動がしたと思ったら、騎士団付近が火に包まれていた・・・


「ギャーー!」「アチチチチッ!」「グァ!、何だ?何が起こった!?」


敵の魔術師が、炎の魔法を打ったのだろう。ただ、騎士団達はフルプレートメールなのと火耐性の付与魔術エンチャントでもされた鎧の為か、直接炎が体に触れ火傷やケガをしているようには見えないが、いきなりの攻撃で隊の統制に乱れている。

すると、傭兵風の三人が素早い動きで騎士団に襲い掛かる。


「おらーーーー!、死ねやーーーーーー!」「邪魔もんはぶっ殺してやらぁーーーーー!」「仲間の・・・仇め・・・!」


俺はマズいと感じて、とっさ彼女達に小声で簡単な指示を出す。


「リオノーラは使える魔法で騎士団の援護を。エメルダは苦無クナイで魔法使いに攻撃してくれ。エリスは使えそうな攻撃用魔術の用意。俺はアイリ様の守護に徹する。ただ、ここからあまり離れないでくれ」


今は混乱している騎士団達に手を貸すよりも、まずアイリ様を守ることが一番だ。

ここから魔法によって騎士団を援護しつつ、敵の魔法使いを潰す。

三人は指示通り、自分の役割を果たすため行動を開始した。


ただ、考える事が多い中、俺は相手のリーダーから一瞬も目を逸らすことはしなかった。間違いなく、奴等の中で一番強い。

そのリーダー格は必ず何か仕掛けくるはず。その証拠に、向こうもこちらから目を離していない事からも分かる。


俺の手は刀の柄を軽く握っており、いつでも抜刀出来る状態だ。

ただ、嫌な汗が噴き出してくる・・・正直、怖い。しかしここで踏ん張らねば・・・


騎士団は最初こそ混乱し二人が戦線を離脱したが、今は三対三で向かい合って牽制状態になっている。

そして、俺の横ではリオノーラが精霊魔法を使っているようで、詠唱が聞こえる。


「・・・せし火の精霊サラマンダーよ 汝の力を我が前に顕現せしめよ 【炎の一撃ファイヤショット】」


すると、リオノーラの目の前に火の玉みたいなものが現れ、それが物凄い速さで騎士団と相対していた敵の一人に直撃した。そいつは、一言も発することなく倒れ伏したが、死んではいない様だ・・・多分。


「ほぉ・・・そこのエルフの姉ちゃんは魔法が使えるのかぃ。やっかいだな・・・チッ。こりゃ、報酬上げて貰わねえと、割に合わねえな・・・」


「報酬??・・・ということは、あんたら誰かに雇われているのか?」


俺はとっさに聞いてみた。

すると、頭と呼ばれている奴はすんなり答えた。


「あたりめえだろ?。頼まれなきゃ、こんな寂れたとこなんか来るわきゃねーだろうが・・・。ま、依頼人が誰かは言うつもりは無いがなぁ~ははは」


「分かっているわ!、依頼主は前領主のコリンズでしょ!」


すると、後ろから良く通る声でアイリ様が叫んだ。

だが、相手の男の表情には、何一つ変化を見つけることが出来なかった。口角を少し上げ、ニヤついている。だが、逆にそれが肯定の意を表しているのだろう。

この男、依頼主が俺達に知られようと自分は構わないとでも思っているのだろうか・・・。


「そうなのか・・・?。良く分からないが前の領主が今の領主を恨んで、今回の事を起こしたって事か?」


「さあな、俺はそんな事どうでもいいんだよ!。金さえ払ってくれりゃ、誘拐でも殺しでも何でもやってやるさ」


「あんた、それで本当にいいのか?。これが、自分がやりたかった事なのか?」


俺は、最近その事について良く考えたりしている。自分がこれから何がしたいのか、何を目標にして生きていくか、まだ答えが出ていない。いや、答えなんてないのかもしれないが・・・。

だから、つい口から出てしまって聞いてしまったのかもしれない。


「はぁ?、お前ぇ・・・こんな時に聞くことか?。チッ、まぁ多少時間はあるから答えてやるが、そんな訳ねぇだろ。だけどな、この世の物事を知らねーお坊っちゃんに教えとくがな、世の中にゃどうしようも出来ない事がたくさんあんだよ。お前もこれから身に染みて分かるだろうぜ。ま、こっから生きてかえれりゃ・・・の話だが――「ギャーーー!」ん!なんだ!?」


話が終わらない内に、前方から誰かの叫び声が聞こえた

声の方を見て見ると、頭の後ろにいた魔法使いの男が、杖を離した両手で脇腹を押さえて倒れこんでいた。


「いつの間に・・・?そうか、さっきまでそこに居た猫女の仕業か。ったくよ~、使えね~奴等だ・・・」


隠密で移動していたエメルダが、隙を見て投擲した苦無が刺さったんだな。ナイスだ!、エメルダ!。

騎士団の方も、一人がリオノーラによって倒されたので拮抗が崩れ、今は騎士団が攻勢に出ている。


「もう、止めて投降して欲しいんだが・・・?。もう、あんた達の負けだ」


「はん!、俺とお前の実力差が分からんのか・・・?。なら俺がこの世界の厳しさってもんを教えてやるよっ!!」


そう言うや否や、驚くべき速さで俺の目の前に迫ったと思った瞬間、俺は奴のパンチをモロに腹に受けて吹き飛ばされていた。


「なっ・・ぐあっ!・・・・・・げはっ・・・」


余りの速さに、俺は腹に力を籠める事も受け身を取ることさえも出来ずに、無様に地面に転がっている。


「まだまだだな、あの程度のパンチを避けられねぇとは・・・これが今の俺とお前の力の差だ!。・・・暫く動けねえはずだから、俺はこの女共の相手をしてやるさ。お前はそこで、この女共が犯されるところを見てるんだな・・・クヒヒ」


「や・・・・やめ・・ろ・・・、俺はまだ・・・やれるぞ・・」


男は、既に俺には興味を失ったみたいで、彼女達の元に向かった。

俺は一時は衝撃で呼吸さえできない程だったが、呼吸が戻るとゆっくりだが男の元に這って行く。


「さ~~てと・・・、お前らはこれから俺が相手をしてやる・・・ヒヒ。女の喜びを教えてやるんだから、感謝しろよ。その後は、奴隷にでもして貴族にでも売っぱらってやるからな・・・アハハハ」


「ヒィ・・・・」 「イ、イヤ!、怖い・・・アルさん!」


アイリ様もエリスも、今は恐怖に慄いている・・・。マズイ!、マズイマズイマズイ!!。

何とかしないと・・・、しかし俺の体はうまく動いてくれない・・・クソッ!!

その時、ヒュッ!と風切り音と共に、苦無が男の首元に飛んできたが、奴は自分の剣で難なく弾き飛ばした。


「そんなもの、無駄だぜ~・・・猫女!。お前はそこで、この女達が犯されるのを見てるがいい!ハハハハハ!」


「くっ・・・・・」


「この・・・・・下衆野郎が・・・」


「お前は何もできずに、この女達は俺の物になる。これが、この世界の理だ。強いものが勝つ、力が強い奴が一番偉いんだ!」




「おい、そこな男よ・・・お前如きが、私に勝てると思っているのか?」


子の場に凛とした声が響き渡る。そう宣言した声の主とは・・・そう、リオノーラだ。

彼女からは、少しの動揺も見れとれない。淡々と言葉を紡いでいる。


「あん?」


「ふぅ、耳まで遠いのか?。お前では、私には勝てないと言ったのだ。何度も言わすな」


「随分、強気な事いうじゃねぇか・・・。俺はよ~、そういう強気な女を屈服させてヒーヒー言わせるのが、何よりもたまんねぇんだよ~・・・」


そういうと、自信満々にニヤついている。ホント、こいつはクソ野郎だ!

しかし、リオノーラは蔑んだ目を男に向けて、一歩も引かない。


「リオノーラ!、二人を連れて逃げろ!。俺が時間を稼ぐから!」


俺は無理やり体を動かして、彼女達の前に立ちふさがる。

しかし、リオノーラはそれを制して自分が前に立つ。



「アル、お前は三人を守ってくれ。心配するな、こいつは私が・・・斬る!」

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