第35話 令嬢の護衛

今、街はのんびりとした昼下がり・・・

街中では昼食を食べ終えた人たちが、まったりと街をブラついている。


ギルドにて護衛の依頼を受けてから二日後、今、俺達四人全員で再びギルドに向かっていた。今回の依頼の日程や行程を含め、諸々の注意事項等の打ち合わせに来て欲しいと連絡が来たからだ。


「しっかしな~・・・、ホント俺達で良いんかな~~・・・・・」


「アル、ホントに領主の娘とは何の関係もないのか?」


「ああ、無い・・・・はずだ。俺はこの街の生まれじゃないから、実は幼少の頃に・・・なんて事もないし」


「じゃあ、なんでアルさんを指名してきたのかなぁ~・・・」そう言って、エメルダはジト目で俺わ見てくる。


「いやいや、俺を指名したんじゃなくて女性が多いパーティだったからだって言ってるじゃん。俺なんてオマケだから・・・自分で言ってて悲しくなるわ。」


「でも・・・、私心配なのです。ご令嬢がどんな方かも分からないですの・・・」


「そう、それそれ~。なんかさぁ~威張ったり自己中な人だったら、あたし怒っちゃうかも・・・」


「おいおい・・・穏便に頼むぞ?。とにかく今はそんな事より、護衛として無事任務をこなせる事を考えてくれよ」



そんな事を話しながら歩いていたら、いつの間にかギルドの前まで来ていた。

俺達が中に入ると、すぐにシーナさんが見つけてくれて、「おまちしておりました」と言って、奥の応接室に通してくれた。


「それでは、アル様とパーティの皆様。こちらで少々お待ちください。今、ご領主様の使いの方を呼んでまいります」


そういうと、シーナさんは部屋を出て行った。

そして間もなく、使いの方とやらが部屋に入ってきた。俺達は立ち上がり、頭を下げお辞儀をする。


「お初にお目に掛かります。私はこの街で冒険者をしております、アルと申します。こちらの女性達は、私のパーティメンバーにごさいます。よろしくお願い致します」


「これはご丁寧に。私は、この街の領主であるコルネリオ・エルベール様の執事をしております、ターナーと申します。この度は、エルベール様のご息女アイリ様の遺跡探索への護衛の任をお受け頂き、感謝致します」


「こちらこそ、私達のパーティにご令嬢の護衛の任を頂き、感謝しております。ご領主様、そしてご令嬢が安心して行動できるよう、私達も最善の努力を致します!」


「ありがとうございます。本来ならアイリ様も伺いたいと申しておりましたが、所用にてどうしても時間を空けられず・・・。申し訳ありません」


「いえいえ、とんでもありません!。お忙しいのに、私達の為にお手を煩わせては申し訳ないです。どうか、お気になさらずに」


「アル殿にお願いしたことは、間違いではなかった。この方達になら、アイリ様を安心して任せられそうです」


ターナーさんはこちらを見て、好々爺のような笑みを浮かべた。

すると、シーナさんもテーブルに手をついて前のめりになって、熱弁を始めた。


「そうなんです!。アル様のパーティは素晴らしいんです。皆さん強いですし、パーティの雰囲気もとてもいいんです。当ギルドが自信を持ってお薦め出来るパーティです!」


俺はそんな事言われて、慌てて訂正する。


「あ、いやいや、うちはそんなに強くないですよ!。私はまだEランクですし・・・」


「いえ、アル様。確かにランクはまだ下の方ですが、パーティの強さは個々の強さに比例するのではありません。いかにメンバーの長所を生かし切るか、が大事なのですよ。アル様のパーティはそれを体現出来ています」


さすがギルド職員、色々と見ているだな。

とにかく、俺達はその後も色々と詳細を打ち合わせ、ようやく終わったと思ったら外は日が沈みそうになっている。


打合せは、結構時間かかったな~と思う。

まあでも、これぐらいしないと俺達とあちら側の意志の齟齬のせいで、大きな失敗を冒すこともあるから綿密な打ち合わせは重要だよね。


「う~~~~~~~~~っっん・・・、疲れたなぁ~~~~~」


「ホント~~・・・ふみゅ~~疲れた~・・・」


「アル、お疲れさん・・・」


「ありがと、リオノーラ。しかし、打合せとはいえ緊張したわ~・・・」


「アルさんって、意外とやるのです!驚いたのです!!」


「エリスもありがとな。もうヒヤヒヤもんだったけどな~・・・何とかなって良かったよ」


応接室を出た後、俺達はシーナさんに御礼の挨拶をしてからギルドを後にする。

最終的に五日後に正式に決定し、相手側の護衛は私設騎士団から五名のみという。


あまり大げさに行くのは嫌ということで、護衛はに最小限にすることに決まった。ただ、私設騎士団五名とは言っても俺達よりも強いのだろうし、俺達は護衛というよりはご令嬢との話し相手的なものになるのだろう。


ま、俺達の実力じゃそんなもんだろうな~とは思ったが、少しだけ悔しさもある。

いつかは自分達の実力だけで、本当の指名依頼を勝ち取りたいと、この時強く思った。


           ◇


そして、期日の五日後・・・


あれから俺達はいくつかの小さな依頼をこなし、時間があればリオノーラに剣の稽古をつけてもらっていた。彼女の剣術はエルフ達が好んで使う流派らしいが、力強さは感じられない分、流れるような剣捌きが俺に合っているのか、大分動きがスムーズになってきた。

また、日頃から最低限の筋力アップと持久力を付けるため、暇があれば筋トレしたり走ったりした。


「じゃ、俺達も領主様の屋敷に向かうか!」


「はーい!」「そうだな、遅れるとマズイからな」「了解なのです!」


俺達は待ち合わせ場所である、領主の屋敷に向かうことにした。

宿からなら歩いても十五分ほどなので、ちょっと話しながらだと直ぐだ。待ち合わせ場所の邸宅前には、既にギルド職員が来ていた。シーナさんも姿もあった。


「あー、アル様ーー!。こっちですよ!」


「み、皆さん早いですね~。俺も三十分前にはと思ってたんですが・・・」


「いえいえ、私達もついさっき着いたばかりですよ。さすがに遅れるわけにはいかないので」


「そうですよね。・・・しかし、やっぱ緊張しますね」


「初めての指名依頼ですものね~。ですが、アイリ様はとても良い方なので、そんなに心配をしなくても良いと思いますよ」


「あ、そうなんですか。では、シーナさんはアイリ様をご存じなんですね」


「はい、何度かお会いした事がありますが、何と言うか~なかなか変わっ・・じゃなかった、面白い方ですよ」


・・・今、完全に変わった人っていうつもりだったよね?

それに、目が泳いでますよ・・・。俺、何だか急に自信が無くなってきたよ。


「そ、そうです・・・か」


エメルダ達を見てみるが、彼女達も良く知らないのだろう、キョトンとしてる。

ガチャ・・・と、玄関のドアが開くとメイドや従者と思われる人達が出てきて、その後から小柄な女性が出てきたのだが、その恰好が・・・なんというか・・・


『シーナさん、あの方がアイリ様ですか?。な、なんか、変わった方ですね・・・』


『アル様、確かに少し変わってますが本当に良い方なのですよ』


シーナさんと内緒話をしていたら、アイリ様がこちらに歩いてきた。

アイリ様は、どこで見つけてきたのか一昔前の探検者が着ているような、上はクリーム色のサファリハットと呼ばれる様な帽子に、同じくクリーム色の半そでに胸ポケットが二つついており、下も同系色の短パンで靴は登山ブーツの様なものを履いている。


ま、まあ確かにドレスで来られても困るが、これはこれで・・・扱いが難しいな。

まるでコントみたいだ・・・と思っていたら、彼女が口を開いた。


「皆様、お待たせしましてすみません。私が此度の依頼を出しました、アイリ・コルネリオと申します。ご存じの通り、父エルベールの娘ですがどうぞ、よろしくお願い致します」


あれ・・・?、普通だ・・・

いやいや、今の流れなら「妾がアイリなのじゃ、言う事を聞くのじゃ!」とか、はたまた「きゃるる~ん♡ あ・た・し・が~アイリなのれす!(ノ≧ڡ≦)てへぺろ 」とか出てもおかしくないのに・・・


変なのは服装だけか・・・ファッションセンスがちょっと痛いだけなんだな、きっと。そんなこと考えていると彼女はジト目で、


「あなたがアル様?。ところで今・・・失礼な事考えていた訳じゃないですわよね?」


「え?、ま、まさか・・・何のことでしょう?」


「・・・ふん、まあいいでしょう。今は少しの時間も勿体ないですわ。馬車も用意してありますので、それに乗って参りましょう」


うん、上手く誤魔化せたようだ。しかし、女ってのは何でこんなに勘が鋭いんだ?。

まあそんな事があったが、なんやかんやで俺達は二台の馬車に乗り、一路”ドワーフの遺跡”に向かうのだった

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る