第33話 怪我の功名

「シッ!!」


気合と共に俺は一匹目のオークを横薙ぎにした後、次の隣のオークを目掛けて・・・と思ったが、敵は絶妙のタイミングで木の棍棒を振り下ろしてきたので、一旦バックステップで相手の一撃を躱す。


が、走りながらの急激なバックステップをしてしまった為、攻撃は避けられたが後ろにたたらを踏んでしまい、尻餅をついてしまった!


「ゲッ!、しまった!!」


「ア、アルさん!!。そこから逃げてなのです!、打ちます!!」


こ、このタイミングでか!?。俺は、とっさに四つん這いになりながら、とにかく横に飛ぶように逃げた!。そして、それは直後に起こった・・・


「・・・・より 大地に水の縛めを! 【大地の泥沼アースモラス】!」


背後からエリスの詠唱が聞こえたと思った途端、一瞬地面が振動したかと思ったら、オーク達の鳴き声が一斉に聞こえてきた。

何が起こったのか振り返って見ると、何と地面が沼の様になっており、殆どのオーク達がそこに嵌まり抜け出せなくなっていた。


ただ、俺を追ってきていた一匹だけは、片足だけが沼に入っていただけだったので、簡単に抜け出してこっちに迫ってきた。

俺は慌てたが、抜身の刀を正眼に構えて振り下ろされた棍棒を受け流す。さすがにまともに受けると、俺では力負けしてしまうからな。


受け流された棍棒が地面を大きく打ち付けた事により、相手に隙が出来たのを俺は見逃さず、振り上げた剣を思いきり打ち下ろす。

ただ、お互いに態勢が良くなかったのか、俺はオークの片腕を切り落とすだけになってしまった。


ギャオオオオオオオオグガアアアアアアーーーーー

腕を切断されたオークは痛みのせいか地面に蹲り、大きな鳴き声を上げている。


その内、切られた腕を体で抱え込んで逃げようと、森の中にのそりのそりと歩いて行こうとする。

俺は可哀そうになり見逃してやろうと思ったが、いつかは復讐の為にまた村に来ないとも限らないので、辛いがここはキッチリと止めを刺しておかなければならない。


俺は心臓への一撃で絶命させようと思ったが、もし一発で突けなかった場合に苦しみを長引かせるだけだと思い、ここは首を切り落とす事にした。

ザシュ!!

僅かな硬い感触の後、首は背中側に滑り落ちてきた。


そして、残りのオーク達を見ると五匹とも膝まで泥沼に沈み込んでおり、身動きが取れない。

しかし、仕留めるには俺も中に入らないといけないが、そうなると俺も泥沼に嵌まってしまう。


するとエリスが、魔術の解除をしたのだろう。

今まで泥沼だったところが、普通の地面に戻り始めた。すると、今度は固まった地面に膝まで固定されてバインド状態になってしまったので、楽に討伐が出来た。


こっちは全部で7体のオークを仕留めることが出来た。

さて、エメルダ達はどうだろうか・・・。俺達は急いで駆けつけると、まだ二体が残ってリオノーラと相対していたので加勢に入る。


「リオノーラ!、助太刀するぞ!」


「いや、ここは私で何とかなる!。それよりエメルダを見てやってくれ!。ケガをしてる!」


周りを見回してみると、エメルダが木の幹に寄りかかり左足を押さえているのが見えた。俺は慌てて彼女の元に駆け寄り、声を掛けた。


「エメルダ!、どうした?。どこをやられた!?」


「ミスっちゃいました、アルさん。左足を・・・バッサリと・・・」


見ると、左の太もも辺りからかなりの出血をしている。俺は、少し気が動転してしまったが、エリスが冷静に回復ポーションを傷口に振りかけて、直ぐに背負っていたリュックから包帯を出して止血を始める。


俺も自分の持っていたポーションをエメルダに飲ませたが、エリスの応急処置を見え終えるとリオノーラの元に向かった。


俺は今、自分でも体が震えるほどの怒りを抑えられていない事が分かった。

エメルダを切りつけたゴブリンにもそうだが、何より俺の指示が間違ってしまった為に、彼女にケガをさせてしまったという自分自身に・・・

そうこうしてる内に、あれからさらに一匹倒したようで、残り一匹も既に時間の問題だ。


「あれは、俺がやる!!」


そう宣言すると、リオノーラの前に出て刀を抜き、ゴブリン目掛けて振り下ろす。

しかし、オークはそれを錆びた青銅の盾で防ぎきり、尚且つ俺目掛けて剣を振り下ろしてくる。


「アル、冷静になれ!。奴は少し手強いぞ!。相手の動きをよく見るんだ!!」


リオノーラは俺に任せてくれたようだ。だが、頭に血が上っていた俺は力任せに剣を振っていただけだったので、彼女から助言を受けながら冷静になって剣戟を繰り返えす。


しかし、それも僅かな時間で終わりを告げた。

相手の盾を何とか破壊した後は、オークの体に次第に傷が増えていき、最後に会心の袈裟切りで息の根を止めた。


だが、俺は息も絶え絶えになりその場でへたり込む。

そんな中でも俺は、リオノーラに周りに敵はいないか聞いてみたが、間違いなくいないらしいので、ホッとしてその場で大の字になる。


「ハァハァ・・・やったぞ・・・ハァハァ」


「うむ、良くやったな。体力も技術もまだまだだが、気合と根性だけは一人前だ」


「そうだな・・・、俺ももっと強くならないとな。リオノーラ、これからも鍛えてくれるか?」


「任せておけ、お前を一人前のにするまで・・・わ、私はお前の元を去るつもりは無い・・・」


「リオノーラ・・・・・・」


「ちょっと!!何、二人で雰囲気作ってんのよ!。人がケガして凹んでんのに!!」


「お、おい、勘違いするなよ?。俺は、素直に嬉しかったからで・・・」


「私だって!!。ぬ、抜け駆けするつもりは無・・・きにしも非ずで・・・」


「あるんじゃない!!リオ、それはダメって前に約束したでしょ!忘れたの!?」


「す、すまない!。次から気を付けるから許してくれ・・・」


「フン!・・・あいたたた・・・私、動けないみたいだから、そのアル~・・・抱っこしてくれないかしら~?」


「その割には、さっきデカい声出してたような・・・」


「そんな事無いわよ!!。あたしは精神的ダメージを受けたんだから、これぐらいは良いわよね!リオ?」


「し、仕方ない・・・」


何か二人の間で葛藤があったみたいだが、確かにケガ人でもあるしエメルダをおんぶしようと背を向けてかがんだのだが・・・


「それは、おんぶ!。違うでしょ?、私が言ってるのは抱っこ!。女の子を抱っこするなら、その・・・一つしかありえないじゃない・・・?」


はぁ~、だよね・・・。まあ確かにケガ人だし、俺も心配したことだから構わないけど・・・。さすがにちょっと照れるぞ。

でも、このままでいても仕方ないので、左足をケガしてるので頭を左腕の方にして、お姫様抱っこしてあげた。


「うぉ!・・・重―「何か言った?アル」・・・何でもありません」


と、とにかく、エメルダも喜んでるみたいだし、俺もこれはこれで・・・

なかなかグラマラスな体わがままボディなのに柔らかいし、歩く度に当たる立派な双丘がもう~・・・堪りません!。役得役得・・・

なんて思ってたら、リオノーラがこちらをジト目で見つめてくる・・・


「アル・・・鼻の下を伸ばして何を考えている?」


「い、いや、まあ柔らかいな~とか思うけど、ただ、それだけだぞ!」


「エメルダだけ・・・羨ましい・・・私だってして貰いたいのだぞ・・・」


「フフフ、さっき抜け駆けしようとした罰よん。まさに怪我の功名だわ」


「それ、自分で言っちゃう!?。ってか、ホントに心配したんだからな!」


「ご、ごめんなさい・・・でも心配してくれて、嬉しい・・・♡」


「そ、そりゃ心配するだろ・・・大事なパーティメンバーだし・・・」


「え?、ただのパーティメンバーとして心配しただけなの・・・?」


「い、いや、まあそれ以外にも・・・まあほら、分かるだろ・・・?」


俺はしどろもどろになってしまった。

勿論、パーティメンバーとしてでなく一人の女性としても心配したのは間違いないが、それをここでいうのはちょっと憚れる・・・照れてしまうから


「あら?、分からないわ~。ちゃんと口に出してくれないと・・・フフ」


「エメルダ、それぐらいにしておいたらどうだ?。アルも困ってるだろ」


「リオ、嫉妬しちゃった?フフ。・・・冗談よ、アル。でも、嬉しいし感謝してるのはホントよ」


何とかこの場をしのげたので、俺は一先ずホッとした。

リオノーラは幾分不満げだったが、まあ問題無いだろう。後で、一緒に食事でもすれば機嫌を直してくれるだろう。


ところで、ずっと静かにしているエリスを見てみたら、何か一人でブツブツ言っては赤くなったり照れたり一人芝居しているようだ。さすがに少し離れているため、何を言っているか分からないな・・・。


・・・まぁうん、今はそっとしておこう、それがいい。




俺達はオークの討伐証明部位を剥ぎ取り、装備品も使えそうな物なども集めてそのまま村に戻った後、エメルダをベッドに寝かせてから村の医師に見て貰った。

幸い、骨には異常が無く回復ポーションも効いたみたいなので、一~二日安静にしていれば良いとのことなので、あと数日この村に居させてもらうことにした。


今回現れたオークは全て討伐したが、まだ出てこないとも限らないしね。

幸い、あれから二日間現れる事は無かったし、エメルダの足も完治したので街に帰ることを村長に話してみた。


村長は少し残念そうな顔をしたが、最後には感謝の言葉を頂けたので依頼書に討伐終了の印であるサインをして貰い、お世話になった村人達にお礼をして村を後にした。


「さあ!、俺達の街に戻るか!」


「おーーー!」「ああ、帰ろう」「しゅっぱーーーつですの!」

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