第二章

第29話 報告

俺達が向かっているシグマへの帰路は、特にモンスターや盗賊等に襲われることもなく、無事夕方までに街に入ることが出来た。


「無事着いたな~。で、どうする?先にギルドに報告に行くか、それとも宿屋を取るか・・・」


「ねぇ、アルさん。明日からまた依頼受けるんでしょ?」


「うん、そうしようと思ってるけど、エメルダは嫌なの?」


「ううん、そうじゃなくて~明日からギルド行くなら、報告はその時で良くない?って思ったの」


「そうか・・・まあ、それでも良いか。それなら、先にいつもの宿に行って部屋取ってくるか~」


みんなもそれで良さそうなので、俺達は宿に向かって歩き出す。

街の中を歩いてると僅か二週間程度の遠征だったが、懐かしささえ感じてしまう。


俺達が向かってる宿屋は、思いの他早く着いてしまった。まあ、慣れ親しんだ場所だからね。

中を覗いてみると、一階の宿屋の食堂はまだ人は少なく閑散としている。


「このさびれた感が懐かしいな~・・・」


「ね~、ホントだね~」

 

「うるせーーよ!。久々に戻ってきたと思ったら、失礼な事言いやがって!!」


聞こえない程度に俺達は話していたのに、店主にはすっかり聞こえていたようだ。なんて地獄耳なんだ・・・俺は苦笑しながら、慌てて店主に謝った。


「あははは、すんません!。何だか懐かしくて、ちょっと嬉しかったもんで」


「ま、いいさ。ホントの事だしな」


そう言いながら、店主もニヤリと笑い返す。

いや~、いつもながらノリのいいおやっさんだな。なんか、ホント帰ってきたな~って感じがする。


「ところで、宿空いてますか?また、暫くお願いしたいんで・・・。部屋は二部屋で一人部屋と三人部屋がいいんですけど・・・」


「ん~?、ちょっと待ってろ―――――っと、二部屋が二つ空いてるだけだな」


「そっか~・・・、それじゃダメだ「それでお願いします!!」


エメルダが俺の言葉を遮って、勝手に二部屋で取ろうとしたんで、俺は慌てて断ろうとした。


「ダメだろ、それは!。あ、すみません、無いなら別のとこに・・・」


「良いじゃないですかー、二部屋で!。あたし達は全然気にしませんから!。ってか、寧ろこれ以上ないぐらいベストな選択ですよ!」


「私もそれで良いぞ。それにここなら、宿代が安いから節約にもなるしな」


「あ、私は・・・ちょっと恥ずかしいのです・・・」


「ほら、エリスだってそう言ってるだろ?。これが普通の反応なんだよ。だから、ここは敢えて別の宿に・・・」


「分かった!、じゃあ一部屋だけ大部屋があるんだがそこはどうだ?。二部屋借りるより安上がりだぞ?」


「え??大部屋か~、安上がりってのは魅力だが・・・う~ん、俺はいいんだがみんなは嫌なんじゃないのか?」


「あたしはさっきから言ってるように、一緒でも全然構わないし~!」


「私も構わないからな」


「皆さんが一緒なら・・・私もいいのです」


「じゃ、そこを一部屋取っておくぞ。それと・・・はなるべく避けてくれよ?。その部屋は防音仕様になってるが、あまり大きいと隣の部屋にも聞こえるかもしれないからな・・・」


「は、はい?、そんな事するわけないじゃないですかーー!。なぁみんな~!?」


「「「ソ、ソウデスネ・・・シマセンヨ(デスノ)・・・」」」


・・・・・し、心配だ、色んな意味で・・・





案内された部屋は、普通の部屋が少し大きくなっただけの様な部屋で、特に特別な感じはしない。

中には、ダブルサイズのベッドが二つ離れてある以外は、普通の調度品だ。ただ、嬉しいのはこの部屋、シャワーが付いているのだ!。これは助かる!。


そして、店主が言うにはここは防音仕様ということだ。ということは・・・、まぁつまりそういう目的の部屋だという事だろう。どういう目的かって・・・?。ほら、俗にいう女性が多いハーレムパーティ御用達の・・・という事だろうね、多分・・・。


店主もそれを感じたのかもしれないが、俺はまだ手を出してないからね!。

それはともかく、俺達は部屋に荷物を置いて夕食になるまでに、個々にくつろぎ始めた。


俺はベッドに腰かけて、みんなに重要な事を聞いた。

そう・・・、これはとても重要な案件だ。俺にとっても、彼女達にとっても。


「な、なあ・・・寝る時なんだが、どういう組み合わせにするんだ?」


「はいはーーーーい!、あたしとアルさんがこっちのベッドで~、こっちはリオとエリで~・・・」


「エメルダ、勝手に決めるな!。それに、リオって・・・いやそっちは構わんのだが・・・しかし、お前だけズルいぞ!。私も一緒に寝たい・・・のだが・・・・ゴニョゴニョ」


「あの~・・・私は一人で構いませんので、お三人で仲良く・・・どうぞなのです。私は耳を塞いでますの~」


「いや、だから何もしないよ?。ってか、俺がいると色々と不便でしょ?。着替えとかお風呂とか」


「あたしは全っ然平気よ?。不意打ちはビックリするけど、裸ぐらい平気~」


「私も平気だ。他の男なら嫌だけど、アルなら見られて嫌じゃない・・・」


エメルダはあっけらかんに、リオノーラは少し頬を赤くして言う。

ただエリスは俺達とは関わり合いが短い為、やっぱり恥ずかしいのだろう。


「お二人とも、さすがです~。わ、私もそうなれるよう、が、頑張るのです!」


「いや、そこは頑張らなくていいから!。今のエリスのままでいいから!」


ま、概ね問題無さそうであれば、俺は構わないわけで。

酔ってなければ、三人とも普通だからな。その辺は心配してないけど・・・


他の奴等から見れば、俺もハーレムパーティ作ってると思われてるんだろうな~・・・。いや、男としては嬉しいんだろうけど、実際にその状況になって見ると意外と大変なんだよね、色々な面で。


その後、一緒に一階に戻った後夕食を取りながら、今までの話や今後の方針などをダラダラと話し、それが終わると部屋に戻って就寝した。


まあ、ベッドに上がってから誰が俺の横に来るかで少し揉めたが、最終的にはベッドを強引に二つ並べて一つにし、エメルダ、俺、リオノーラ、エリスの順で決まりその日は無事終わったのだ。


       ☆


次の朝、寝相の悪いエメルダが俺の首に左腕、股間に左足を差し入れたうつぶせ状態になって寝ていた他は、特に問題は無かった。俺も慣れたのか、今日はよく眠れた。若干、蛇が俺の首から体、股間を締め付ける夢にうなされた以外・・・だが。


皆を起こして一階にて食事をした後、早速冒険者ギルドを訪れた。

そこには懐かしい顔が、笑顔で俺達を迎えてくれた。


「ア、アル様!!!。無事、帰還されたのですね!。おかえりなさいませ!」


「ただいまです、シーナさん!。ご無沙汰してました」


「やっほ~~♪」「久しいな、シーナ殿」「あ、は、初めましてなのです!」


それぞれが、シーナさんに挨拶をしていく。

エリスには、彼女シーナには色々と面倒見て貰った恩人だ、と伝えてある。


「シーナさんは既に知っていると思いますが、デボネアでのスタンピードの件です。私達も偵察、調査、討伐などを行い、無事終息宣言が出されました」


「ま、終息させたのは上位ランクのパーティだけどね~~(笑)」


「いえいえ、アル様やエメルダ様達だって活躍したのは聞いております。本当にお疲れさまでした。無事戻られて、私本当に・・・安心しました」


シーナさんは少し目を赤くして、俺を見てそう微笑んでくれた。

俺はこれだけで報われた気がする。誰かを助け、誰かに助けられ、そして誰かの心配を払拭することが出来たのだから。


「私が無理なお願いをして、危ない所に行かせてしまって・・・」


「いえ、シーナさんのせいじゃないですから!。これは俺達が決めて実行したものなので、シーナさんが気に病むことは無いですよ。それにちゃんと、こうして帰って来れたわけですしね」


「ありがとうございます、アル様。私達ギルド職員は、冒険者の方達を送り出すことしかできません。その冒険者達が帰って来ない事ほど、悲しい事は無いのです。だから、本当に帰ってきてくれて嬉しいんです!」


この人は、本当に優しい人なんだな・・・

俺はこの人が悲しまない様に、どんな依頼も必ず帰ってくると誓う!。


「俺は必ず帰ってきますよ。だから安心して依頼を出してくださいね」


「はい!、ありがとうございます!」


俺は努めて明るく言うのだった。彼女もそれに笑顔で返す。

そして感動の再会?を終えて受付の横にある依頼掲示板を見ようとした時、シーナさんが明るい声で聞いてきた。


「ところで、アル様。新しい女性がパーティに加わったのですね・・・。とても可愛らしい女性ですこと・・・」


その明るいのに感情が無い声にドキッ!と心臓を跳ね上がらせ、俺は油が切れたドアの様なギギギッと音を立てながら首を回し、シーナさんの方を向く。


彼女の顔は笑顔だった・・・が、目が笑ってない。さっきは、涙まで見せて喜んでくれたのに・・・。そしてエリス達の方を見ると、三人とも目が泳いで別々の方向を見ている。さすがの彼女達でも恐ろしいのだろう。


「え、えっと、そうですね・・・。ちょっと向こうで色々とありまして、今はパーティに入って貰ってます・・・」


「色々?、なるほど・・・これは私も専属の職員としてしっかりと現状を把握する為、今夜皆さんでお食事にでも行って、アル様からお話を伺わなければいけませんね。ええ、そうですとも、一刻も早く行かねばなりません!。」


「ええ?専属って――いつなったんですか?。っていうか今夜ですか?お、俺は構いませんが、みんなに聞いてみないと・・・」


「エメルダ様、リオノーラ様、エリス様、よろしいでしょうか?」


「え、ええ?、あたしは・・・」「な、何で私まで行かなければ・・・」「あ、あの・・・オロオロ・・・」


「大丈夫・・・ですよね?」


「「「は、はい!、大丈夫です(の)!!」」」



俺はこの世界で一番怖いのは、魔物やドラゴンでは無くシーナさんじゃなかろうか?と思うのだった。

結局、今夜の食事を約束させられた俺達は、早くギルドを早く出たかったので適当に採取依頼の紙を持って、ギルドを飛び出して行ったのだった

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