第7話 初依頼

翌朝、慣れないソファーで寝た為か体のあちこちが痛かったりしたが、少し体を動かすとそれも治まってきた。

ベッドでは、あられもない格好で気持ち良さそうに寝ているエメルダがいた。

モフモフな尻尾も、今はペチョンとしな垂れている。


ったく~~、気持ち良さそうに寝てやがって~・・・

と思いつつも、今日から二人でギルド依頼をやれると思うと、自然と口元がほころぶ。

さて、着替えて顔でも洗って来ようとゴソゴソしていたら、エメルダが目を覚ました。


「ふぁ~~~~~・・・・・・、え?、何で私の部屋にアルさんがいるんですか―――!?」


「おい!、ここは俺の部屋だよ!!。ってか、お前自分の部屋取ってないだろーが!」


「あ、そ、そうでした・・・。そういえば乾杯した後から、覚えてないんですよね~」


首をコテンとかしげて、彼女は昨日の記憶を思い出そうとしている。

う~ん、これはあまり酒は飲まさない方がいいかもな・・・、気を付けよう。

エメルダは上目遣いにこちらを見て、聞いてきた。


「私、何か失礼なことしませんでしたか・・・?」


「あぁ、何も無かったよ。酔ってすぐ、俺の部屋で寝ちゃったから」


「そ、そうですか・・・・・・・・・・チッ、お礼のチャンスを逃したか」


ボソッと小声で言っていたが、敢えて聞えないフリをした。

それと一つ分かったのは、エメルダは酔うと言葉使いがタメ口に・・・いや、お姉さん口調になるんだな。


いや今はそれよりも、俺は早くギルドに行ってパーティ登録したかったから、彼女に身支度を急がせた。


揃って一階に下り、テーブルに向かい合わせで座った。

宿屋の女将さんにいつものモーニングを二人分頼む。


「昨日はお楽しみだったんだろ~・・アル?」


ニヤニヤしながら、ここの女将さんが注文を取りながら俺とエメルダを交互に見る。


「な、何もやましいことはしてませんよ~!。なぁ、エメルダ?」


「え?、あ、あの・・・・・・ぽっ!」


エメルダは、頬を赤くして俯きながら答えた。


「ぽっ!、じゃね~~よ!。そこは否定するところだろ~!?」


すると、厨房から聞いていたのか宿屋の店主が大きい声で話しかけてきた。


「アルもやっと男になったんだな―――!。よし、今日のモーニングは俺のの奢りだ!。アルの童貞卒業祝いってやつだな!」


「だ―――――!。大きな声でそんなこと言わないでよー!。ホントに何もしてないんだって!。それに、モーニングは宿代に含まれてるじゃないですか――!」


「細かい事言うんじゃないよ!、男のくせに。って事は何だ?、まだ童貞なのか?。はぁ~~~、なっさけねぇ~な~。俺が若ぇ~ころはよ~・・・」


はぁ~・・・、何で朝からこんな会話しなきゃいけないんだよ。

二人は周りの客や冒険者に生温かい目を向けられながら、宿屋を後にした。



            ◇


ギルドに着いた二人は、早速中に入って行く。

中は相変わらず、喧騒としている。朝から飲む者、早くに来て割の良い依頼を見つけようとしている盗賊シーフ風の小男、女の冒険者を口説いている剣士風の男など。


でも、この雰囲気が何よりも好きなのだ。これは冒険者ならば分かってくれる人も多いだろう。

中に進みながら受付を見ると、ギルドで1、2の美女シーナさんが男の冒険者と話していた。


俺は、話が終わるまで依頼掲示板をさらっと見て回っていたが話が終わったようなので、すかさずシーナさんの前に歩み寄った。


「ふぅ~~、ホントしつこいんだからぁ。何度目よ、もう・・・」


「しつこく口説かれてましたねぇ~」


「あ、アル様!。見てたんですか!?、ならどうして助けてくれなかったんですか、もう~!」


シーナさんはほっぺを膨らまして、プンスカしている。

こんな顔しても、可愛いなぁ~。


「だって、俺が口出すことじゃないじゃないですか~。俺、彼氏じゃないですし・・・」


「え?、あ、その、そういう意味で言ったのでは・・・・・・・・・・あ、でも、いずれはそうなるのでは・・・ゴニョゴニョ」


シーナさんは、慌てて弁解してきたが、最後の方はゴニョゴニョとしか聞こえなかった。


「あ、ところで今日は依頼は受けられないのですか?」


「そだ、忘れてた!。あの今日は、パーティ申請をお願いしたいのですが・・・」


「あら、どなたかとパーティを組まれるのですか?。ようやくですね、おめでとうございます」


「ありがとうございます!。パーティを組むのは、こっちの人です」


そういうと、自分の後ろに隠れていたエメルダをそっと前に押し出した。


「私の名は、エメルダです。猫人族です。今度、アルさんとパーティを組ませて頂くことになりました。よろしくお願いします」


エメルダは、堂々と自己紹介をした。

シーナさんは、さっきの笑顔はどうした?って思うほど、ジト目でエメルダを見ていた。


「アル様は小さい子がお好みなのでしょうか?。しかも、よく見ると胸も大きい・・・。これが、ロリ巨乳というのですね・・・」


「シ、シーナさん?。ロリ巨乳ってのが何か知りませんが、それよりも申請書下さい・・・」


「あ、すみません。私としたことが、つい口走ってしまい・・・。えっと、これが申請書になります」


冷静さを取り戻したシーナさんは、申請書を出してきた。

俺は、それに俺とエメルダの必要事項を書いて、シーナさんに渡した。


「ふむふむ・・・、むむ、アルさんより年上だったのですね・・・。アルさんは年上が好みと・・・」


「あの・・・、何を勘違いしてるか知りませんが、彼女とはあくまでパーティ仲間ってだけですから」


「え?、そうなんですの!?。お二人は恋人・・・ではないのですね?」


「も、勿論です。だって、昨日会ったばかりですし・・・」


「『なら、まだ私にも勝機が!』」


「シ、シーナさん、心の声が口から出てますよ・・・・・・」


「し、失礼しました!。はい、パーティ申請は問題ありません。今日からお二人はパーティとして活動することが出来ます」


このパーティを組むということは、ソロより効率がいいのはもちろんだが、パーティ討伐というパーティを組んでないと受けられない依頼も、受けることが出来るようになる。


だから、パーティを組むのはこういうメリットがあるのだ。

デメリットとしては、個人の報酬が少なくなるなど・・・。


「では、俺達は依頼掲示板を見てきます。ありがとうございました」


アルは軽くお礼を言って、エメルダを連れて掲示板に向かった。

掲示板には色んな採取や討伐依頼、中にはゴミ掃除やドブさらい等の雑務もあった。


「何にしますか~?。パーティとして最初の依頼だから、討伐物にしちゃいます?」


「いや、最初だから安全なものにしたいな。うちらはまだランクFだからさ。それにエメルダの装備だけど、どうやっても討伐に行けそうにないよ」


そうなのだ、エメルダの装備はほぼ布の服で、辛うじて胸などの大事なところにハードレザーを張り付けてるようなもの。武器は、短刀ダガーのみだ。

これでは、どうやっても討伐に行けるものではない。殺られて死ぬのが目に見えてる。


「アルさん、強いのに~~。でも、リーダーがそういうなら、採取にしますか!」


「え?、リーダー?」


「そうですよ?、アルさんがリーダーに決まってるじゃないですかー。私には出来ませんよ」


「リーダーってガラじゃないが・・・仕方ない、頑張るか!」


「はい!、お願いします!」


「じゃ、今日はこのマヒ茸、カエン茸の採取に行こうか!」


「はーーーい!、ではキノコ狩りに行きましょーーーー!」


俺達は、依頼書を掲示板から剥ぎ取ってからウエストバッグに仕舞い、意気揚々とギルドを出て行った。

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そんな二人を、ギルドの酒場から見送るローブ姿の人物がいたのだが、二人がそれに気付くはずもなかった・・・

そして、そのローブ姿の人物はテーブルに代金を置き、立ち上がり同じくギルドを出て行くのだった。

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