第4話 戦闘、そして猫

「ふぁ~~~~~~~・・・」


昨夜は少し遅くまでシーナさんと飲んで話して、親交を深めることができた。

酔ってほんのり赤くなった彼女は、とても女性として魅力的に見えてドギマギした覚えがある。それは決して酒に酔ったからだけではなかった。


とにかく粗末なベッドから降り早く目を覚まして、今日は村に戻ってフィオナにプレゼントを渡しに行かなきゃならない。いつ、村を離れるか分からないからだ。


アルが宿泊してる宿屋は、一階が食堂兼酒場になっているので、急いて顔を洗うなど身支度を済ませて一階に下りた。今日は依頼をこなさないにしても、一応いつも通り防具はハードレザーで出来た胸当て、篭手、脛当て。武器としては、一本しかない古めの鋼鉄製両刃のショートソード。盾は持っていない。


全て、村の元冒険者や町の仲の良い仲間から譲って貰ったものだ。

買うとなると、この程度の装備でもかなりするだろうから、本当に感謝している。


朝食は軽く済ませて、街を出る。生家のある村ベレットは、この街から歩きで3~4時間程度のところなので、少し急げば2時間半程度で着く。道中、特にモンスターが出るなとのトラブルもなく、無事村に着いた。


村に入ると何人かの知り合いに会ったので、軽く挨拶をした後にフィオナの事を聞いてみた。彼女はまだ村にいるらしいが、貴族の使いが何度か来たりしているようだ。


早速、彼女の家に行ってみた。

幸い、貴族の使いが来ている風もなく、落ち着いた雰囲気である。

俺は玄関のドアを叩いて、


「すみません!。アルですが、フィオナいますかー!?」


すると、中から人か近づいてくる気配があり、ドアが開いた。


「アル・・・・・・、どうしたの?急に」


「いや、ほらお前結婚するだろ?。だから、コレ・・・俺からの結婚祝いだよ」


「え!?、どうして・・・? ありがとう・・・開けていい?」


「勿論だよ。気に入ってくれたら嬉しいんだけど・・・」


「あ!、私がこの花好きなの覚えててくれたんだ・・・」


フィオナは少し俯いて、困ったような少し泣きそうな顔で、そう答えた。

彼女はそれを直ぐに自分の胸の上に付けてくれた。


「アル、本当にありがとう!。まさかプレゼントなんて貰えると思わなかったから・・・。凄く嬉しい!。・・・私、絶対に幸せになるよ!」


結婚相手のシェラード家の三男の評判だが、悪い噂を聞かない。父はこの辺りを治める辺境伯なので、かなりの影響力をもつ人物だ。

だから尚更、俺としては何も言えない。


「ああ、そうだよ、幸せになるんだぜ!。俺の分までな!!」


「うん・・・うん・・・・・・ううっ」

 

フィオナはとうとう涙を堪えきれず、泣きながらアルに抱き着いてきた。

アルは突然の事に体が全く動かず、彼女にされるがままになっている。


やっと我に返ったアルによって、フィオナは引き剥がされた。こんな所は貴族の使者達にでも見られたら、どんな事になるか・・・、あぶないあぶない・・・


「フィオナ・・・落ち着いたか?。こんなところ見られたら大変だぞ?」


「ご、ごめんなさい・・・でも、最後にアルの温かさを感じられて嬉しかった。絶対忘れないよ・・・」


「俺もお前のこと、絶対に忘れないよ」


そして、見つめ合った後「じゃあ、さ・・・またな!」と片手をあげて踵を返した。やっぱ、『さようなら』とはどうしても言えなかった。それに、二度と会えないという事はないだろう。


俺は一度も振り向かず、村の出口に向かって歩き出した。

不思議と心の中は、スッキリしていた。自分の気持ちに区切りをつけられたからだろうか・・・。


そのまま自宅にも寄らず、顔見知りにあったらこれで帰るとだけ告げ、村を後にした。これ以上この村にいたら、また気持ちが変わるかもしれなかったからだ。


村を後にして1時間ほどした頃、ふと、ただ帰るだけじゃ勿体ないということで、薬草でもあれば取って帰ろうと、わき道に逸れて何か無いか探し出した。




街道からちょっと奥に入ると、アサギリ草が見つかり摘んでいた時である。割と近くで人?の叫び声が聞こえた。状況から誰かが襲われているようだ。


アルは採取したアサギリ草を慌てて布袋に入れて、声のする方に走っていった。すると、どうも女性のような叫び声が聞こえてきた。

マズいな・・・と感じたアルは、剣を抜いて慎重に向かった。


「こ、こんな時に出会うなんて、ついてない・・・キャッ!」


「Guuuuuuaaaaaaa――――――」


声のする方を見ると、躓いたのか尻餅をついている女の子がいる。しかもズボンと下着が膝まで下がっている。その子をよく見ると、耳が頭の方に付いているので獣人の女の子のようだ。その子が向いている方を見ると、3匹のゴブリンが涎を垂らし棍棒を頭の上に掲げて、今にも女の子に打ち付けようとしているところだった。


「ヒッ・・・・た、たすけて・・・・お願い・・・・いや・・・」


ゴブリン達は無表情のまま、ゆっくり迫ってくる。

俺は考える間もなく、ショートソードを下手に持ちゴブリンに向かって林の中を駆け抜けた。


最初の一匹目は不意を突かれて、腹を裂かれて絶命した。残りの二匹は、即座に襲撃者に対して反撃を始めた。しかし、ゴブリンはランクF~Eの冒険者でも1対1でなら負けることはほぼ無いと言われてるが、2対1では俺は下手したら死ぬ。


ゴブリン達はアルに向かって、むやみやたらと棍棒を振りかざしながら襲ってきた。ゴブリンとはいえ、あの太い腕で棍棒を振られたら、骨折どころか頭にでも当たれば即死する可能性もある。


アルは、まず左側の方をターゲットにして、振り下ろす棍棒をいなして通り過ぎざまに腕を切り落とす。すかさず、後ろから背中を袈裟切りにする。それで、ほぼ絶命した。


つづけて、最後に一匹に向かって切りかかったが、僅かに早く森の奥に叫びながら逃げ去っていった。ゴブリンも知能があるので、負けると思えば逃げるのだ。


フゥ~~~~~っと大きく息を吐き、剣をゴブリンが着ていた粗末な服で血糊を拭いてから、鞘に収めた。足は少し震えていたが・・・

そして、未だ倒れている獣人の女の子に向かって、声を掛けた。


「大丈夫だった?、ケガしてない?」


「え?、あ、はい・・・大丈夫です。あ、ありがとうございました」


「まさか、こんなところにゴブリンがいるとは思わないよね。俺もビックリしたよ」


「はい、まさか・・・ここらはよく来るんですが、初めてで―――」


「多分もう大丈夫だと思うけど・・・と、取り敢えず下着とズボンあげてくれる?」


そういうと、俺は赤くなった顔を隠すように、後ろを向いた。

その子は、初めて自分がどんな姿をしているか思い出したように、キャーー!と叫びながら、慌てて服を直しているらしい音が聞こえる。


「もう大丈夫です・・・・・・・・・それで、あの、良ければ街まで一緒に行ってもらえますか・・・?。まだちょっと足が震えてしまってて・・・」


「え?、俺と・・・? う~ん、構わないけど」


「ありがとうございます!!」


獣人の子は、飛び上がり腕にしがみ付いて喜んだ。飛び上がると同時に、モフモフの尻尾もふわんふわんと揺れ動いている。

俺は少しドキドキしながらも、悪い気はしなかった。


ただ、また余計な不安要素が・・・、一難去ってまた一難か~と心の中で思うのであった。女の人と二人って、やっぱまだ慣れないわ・・・

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