圧倒的に面白い

 長年愛される名作には、それぞれお決まりのお話のパターンがあります。
 例えばホームズ。依頼人がホームズの元を訪ね、ホームズがその依頼人がどのような人物なのかをたちどころに見抜き、明晰な頭脳で依頼を解決するのを相棒のワトスンが書き伝える。基本的にはそのパターンでどのお話も展開されますが、そのパターンから繰り出されるストーリーのバリエーションは極めて豊富で、パロディも含めて私たち読者を百年以上も飽きさせません。
 本作、『放課後対話篇』にもストーリーの型があります。
 高校を舞台とした本作では、数々の依頼人が主人公・月ノ下くんを訪ね、お人好しの彼はそれを引き受けます。彼はそれを博識なヒロイン・星原さんと相談・推理し、あれこれと悩みながらも解決(あるいは妥当な着地点)にまで導いていきます。
 月ノ下くんたちを応援しながらも、たくさん雑学を知ることができたり、社会問題に対する新しい考え方を学べたり、知的刺激に溢れている本シリーズも第4作目。本作に収められている全ての短篇にレビューをしたいところですが、そうすると長くなってしまいますので、今回は2つの短編に絞って、簡単にレビューさせていただきます。

『イラストの盗用とミームの意味』
 月ノ下くんはこの日も相談を受ける。依頼人曰く、友人のイラストが他の生徒に盗用されたとのこと。イラストを盗んだ女子生徒は、「インスパイアされただけ」とシラを切り、一筋縄にはいかない。その件に絡めて、イラストを盗まれた美術部の女子生徒の不審な動きも捜査の目に止まる。彼女はひとり美術室に残って何をしていたのか? 月ノ下くんはどうやってこの件を一見落着させるのか?
 テンポのいい文章にグイグイと引き込まれました。テーマも理解しやすかったです。私は他人に見られながらだと集中して作業ができない体質なので、(作中の美術部の子も同じなのかな)なんてシンパシーを感じていましたら、全くの検討違いでした……笑

『創られた伝統と部室争い』
 雑草研究部が神社に毎月お供えしている山菜が、何者かによって回収されていることに気がついた。学校の職員がやったのでないのなら、犯人は一体誰なのか? そして何のために?
消えた山菜の謎は、雑草研究部と同じプレハブを部室として使う化学部の部室の使用権を巡るいざこざにも繋がっていき……。
 幾重にも張り巡らされた伏線が収束していくラストスパートはあっぱれでした。個人的には、本作の中で最高傑作だと思います。


 圧倒的に面白いです。上の2つの短編以外も、たいへんな佳作揃いです。プロの作家さんの中でも、これだけ書ける人は少ないでしょう。ぜひ皆様にご一読をお勧めします。

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