第26話 容体 このタイミングで初登場の……

 もし、リュウの魂が身体から抜け出してふらふら徘徊し出したら、絶対に見つけて元に戻すんだから。

 そう決心して、ドアの窓の向こうの様子を睨みつけてた。

 頭が痛くなりそうな程、睨み続けた、けど。

 ダメだ、こんなトコで睨みつけてたってリュウを見つけられない。やっぱり手術室まで行かないと。何処あるんだろう。

 確かエレベーターホールに案内図があったはず。

 思い切って待合室を出たものの……


 迷った。


 どうしよう。病院の中って、全部が同じに見えてしまう。

 落ち着け、落ち着け私!!

 上を見上げると、エレベータはここを真っ直ぐって表示してる!

 これだ!

 エレベーターまで戻れれば、待合室はすぐそこの筈。。

 と、エレベーターまで来たんだけど、このエレベーターじゃない。

 万事休す。

 詰所でも見つかれば声をかけられるのに、このフロアーはそれも見つからない。

 リュウじゃなくて私がウロウロ病院を彷徨ってるじゃない!

 自分にがっかりしてしまって、エレベーターホールにあった椅子に座り込んでしまった。

 何やってんだろう私。

 泣きそう。

 チン

 凄く遠慮深い到着音と共に開いたエレベーターから降りてきたのは、香織ちゃんだった。


 ☆ ☆ ☆


「新人の頃勤めてた病院なの」

 香織ちゃんはそう言って、私のように迷う事無くあっさりと『家族待合室』と表示のある部屋まで連れてきてくれた。

「ごめんね」

 迷惑かけちゃったから、謝ったら香織ちゃんがびっくりした顔をして手を握ってくれた。

「なんでノリちゃんが謝るのよ。謝るのはこっちだよ。ほんとに、お兄ちゃんは!」

 そう言えば、何処でどんな事故だったのか聞いてなかった!

「リュウの事故って、どんな……?」

「あ、そっか。さっきは急いでて言ってなかった! お兄ちゃんったら」

 と香織ちゃんが説明を始めた途端

 ガラッ

 とドアが勢いよく開いて、ちょっとイケメン(ごめんリュウ)のお医者さんが入って来た。

「何だ居たのか。オニイサンの手術終わったぞ」

 なんだ、この馴れ馴れしい医者は

 と思ったら

「ありがとう、じゃ、ちょっと任せた。明日また来るから」

 香織ちゃん、そう言うと私の手を引いてずんずんエレベーターに向かい始めた。

「ちょ、ちょっと香織ちゃん!」

 大きな声を出すと凄く響きそうで、小声で言うもんだから香織ちゃんに声が届かないのか振り向きもしないの。

「香織ちゃん!」

 ちょっと頑張って声を張ってみたら、やっと足を止めてくれた。のではなく、エレベーターホールに到着しただけだった。

「香織ちゃん!」

 精一杯声をひそめて香織ちゃんに呼び掛けると、香織ちゃんはクルっとこちらを振り返ってくれたけど、顔は強張っていた。

「ごめんね、ノリちゃん。強引に連れ出しちゃって。あいつ、元旦那なの」

 は?

 あー、いや、それはビックリだけど、私はリュウの具合を知りたいんだけど……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る