第29話-グラルの受難⑧

 噂話から逃げるように二人はそそくさと特別教室へ移動した。


 グラルとアイズは特別教室の扉を開けると、既にかなりの人数が集まっていることに驚かされた。


(やっぱトップに君臨するだけあるな……!)


 グラルの思った通り、ロンバルド王立総合学院の学生は勉強への意欲がとても高い。

 それぐらいに勉強をしなければ入学後も授業についていくことが難しいということもあるのかもしれないが、二クラス合わせて30人の生徒の七割、21人ほどが既に集まっていた。


 グラルとアイズが到着してまもなくA組、B組の面子が揃った。


「それじゃあ魔法学基礎の授業を始めます」

「授業を始めるぞ~」


 B組の担当教師──シグレ・シン・シグマリアはファンクとともに特別教室へ足を踏み入れた。




「まず、皆さんに尋ねます。魔法……とは一体どうして魔法なのでしょうか?」


 シグレが教室全体に響く声で問いかけた。


「魔法とは、唯一神である女神ピタラスがはるか昔に生きる術をなくした人々に与えた奇跡であるとされています。その奇跡の内容としては──」


 女神ピタラスが与えた奇跡──それは人々に生きるための活力を与える奇跡。

 すなわち、生きる活力が魔力に転じたとされているのである。


「先生! 生きる活力と仰いましたが、では何故当時の人々は生きる活力が無かったのですか?」


 B組の生徒がシグレへ質問すると、シグレはとても残念そうに、言った。


「まだ歴史が解明されていないのではっきりと答えることはできませんが、持論でも良ければ教えますよ」

「大丈夫です! 問題ありません!」

「いいでしょう……。私は人々がそこまで追い詰められた理由、それは魔法などではなくもっと原始的な……戦争があったのだと考えています」


(おそらくそれは原始的ではないんじゃねぇか……?)


 グラルも頭の中ではそう思ってはいるが、概ね同じ意見だったので素直に驚いていた。


「さて、それではこれからこの授業はルーン文字について学びます。魔法の発動についてはルーン文字を学んだ後になるので予習をしっかりとしてくださいね」

「「「「「はい!」」」」」


 その生徒達の返事は教室内を反響させるくらいに大きなものだった。




※※※




「次は……いや、これからトラインと決闘か……!」


 グラルにはこの後、トラインとの決闘が待ち構えている。

 昼間のカフェテリアでの噂話からの騒動で決闘に発展したためにグラルは噂話にかなりうんざりしていた。


「絶対にぶっ潰してやる……!」


 勿論この発言は明確な殺意を込めたものではなく、鬱憤を晴らすためのものだ。


 ホームルームを終えて学院内に設置されている闘技場──コロシアムと呼ばれる場所にグラルと事の発端となったアイズは足を運んだ。


「やっぱり……ごめん、グラル。こんなことに巻き込んで……」

「いや、別にいいぞ。ってか、そこまでへりくだられると逆に困るんだが……」


 グラルとアイズは同じ【転生者】である。

 だから一方がへりくだってしまうと、へりくだられた側としてはどのように反応すればよいのか困ってしまうのである。


 そして、グラルはアイズにその態度を改めてもらいたかったが、アイズの表情を見てすぐに「これは無理そうだ」と悟った。


「それよりも急いでコロシアムに行こうぜ……!」

「う、うん」


 グラルは急ぎ足でコロシアムへ向かう。

 当然のようにそれにアイズもついていく。

 コロシアムから生徒と思われるに自分の耳をもう一度すませると、それが間違いではないことに気づく。


「えっ、え!?」

「な、なんじゃこりゃ!?」


 アイズは戸惑ったような声を、グラルは誰が呼んだのかと驚きの声をあげた。


 コロシアムの中に入り、アイズは観客席のほうへと向かう。そしてグラルはコロシアムの中心──決闘を行う場所まで歩く。


「ふん、よくも待たせてくれたな……! こっちにも予定があるんだ。手っ取り早く決闘を終わらせて早く帰らせてくれ」

「それは悪かったな。それじゃあ丁度、先生も来たことだし早速始めようじゃねぇか!」

「そんなことは分かってる。それよりも先生はどこだ?」


「俺はもうここにいるぞ~」


 グラルとトラインの間にファンクが割って入る。その口調は勿論、気怠そうであった。


「準備はできているようだなぁ~」

「ああ」「とっくに終わっている」


「それじゃあ、これより決闘を始める。両者、前へ!」


 先程の口調とは打って変わり、きっぱりとした口調のファンクがグラルとトラインを対峙させる。

 そして、ファンクは勢いよく手を振り上げた。


「決闘、始め!!」


──こうして戦いの火蓋が切って落とされた。

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