第15話-グラル、学院に入学する⑦

 試験の内容は主に三つの項目に分かれている。

 一つ目はグラルが一年間学んだ魔法の行使力。

 二つ目は身体能力を計測するもの。

 そして三つ目は〝言語能力〟を問うものである。

 ここで問われる〝言語能力〟とは決して魔法などに用いられるルーンではなく、日常的な会話において普段から使われる言葉を問うものである。

 その点を鑑みても、ロンバルド王立総合学院の名称にある〝総合〟とは自由に科目を専攻するのではなく、〝総合的な能力を伸ばす〟ことがコンセプトなのである。

 グラルは前世の記憶と重ねてしまい、この学院は科学に関連する学問は発展しておらずとも、たくさんの文系的な学問を専攻する者が多いのだろうと考えていたために「一年間も魔法を学んだのはそのためか」と納得がいったように無意識に呟いてしまった。

「どうするか……! 試験開始までまだ時間がたくさんあるんだよな」

 葛木一也として生きていた頃は試験などにおいては〝早く行って早すぎることはない〟という考えから通常8時30分ごろに集合するべきところを、7時丁度に登校して勉強していた。

──勿論、数学を重点的にである。

 そのせいか、「これ以上はやっても無意味」だとか「他の科目もやれよ」等々、数多くの否定的な言葉を賜ってもいるグラルであるのだが、起床時間も明朝であるためそれを完全に否定できる者は誰一人とて存在しなかった。

 唯一、由香里が中立の立場を築いていたくらいであり、一也の数学以外への興味の無さに関しては彼の味方はいなかったくらいである。

 そんなグラルでも、他の科目の基本的な内容は覚えている。

 だからなのだろうか、彼なりの自信というものが存在していた。



※※※



「それでは、筆記試験を開始します」

 試験官の合図で筆記試験が始まった。

 内容を簡潔に言うならば、この世界の慣用句や国の歴史などを答えるものが多く、一問一答形式の問題で出題されていた。

 問題も解き易いものから難易度の高いものまで幅広く、且つ読解が必要とされるものもあり、非常に答え辛い問題となっていた。

 また問いは全部で20問あり、試験時間は40分であった。

(なんだ、これ……? どういうことだ……!?)

 グラルは問題の問20、最後の問題において気になる記述を見つけけた。

 その内容は「この世界はかつて、絵が文字の代わりとして用いられていた。このとき、次の文字を意味するものとして正しいものを答えよ」

 書かれていた図形は──アルファベットの『U』の文字に似た左右対称の図形。グラルにはこの図形が放物線にしか見えなかったのだ。

 そしてグラルは解答欄に『放物線』と書き記して筆記試験を終えたのだった。



※※※



 次に魔法行使力と身体能力についての試験が行われる。

 魔法行使力と身体能力については同時に試験が行われることとなっており、試験官と実戦のような一対一の形で戦うことが試験の内容となっている。

「次は、グラル・フォン・インテグラ! 前へ!」

「はい!」

 グラルの番となり、グラルが試験官と向き合う。

 グラルのまだ伸びていない身長を見て周りの貴族、商人の子供たちは一斉に憐れみの情のこもった視線を向けた。

「一応聞いておくが……8歳であってるよな?」

「はい。でも8歳だと甘く見ないほうがいいぞ?」

 グラルの放った言葉にグラルを凝視する者や仲間同士で小声で話す者などたくさんの反応が見られたが、どれもグラルを嘲笑しているという点で一致していた。

「そうか。それくらいの口をきけるのなら、自信があるのだろうな……! いいだろう。これから試験を始めるぞ? いいな?」

「ああ! 問題ない……!」

 グラルへ確認を取った試験官は指を使って手招きをする。

──それが試験開始の合図だった。

「いくぜっ! 〝【部分積分】〟!!」

 グラルは積分魔法で空欄に『グラルの身体能力とその威力』と入力すると、瞬間的に能力を付与していた。

 部分積分とは、積の微分の逆──例えば、多項式と多項式が掛け合わせられた関数において、片方の多項式だけ積分したものを微分したものを積分したものは元の式を積分したものに等しいという理由から、先に積分計算を行ってからもう一方の計算を行うというものであるが、この【部分積分】は少しだけ異なっていた。

 先に片方の要素を積分してから時間をかけてもう一方の関数要素を積分するというものであり、使った後にはその能力は一定時間の間だけ使うことが出来なくなってしまうのだ。

 それに加えて、入力する内容は積の関数。つまり積分したい内容が積の事象すなわち、複数の事象の共通部分である必要がある。

 なので使いどころは難しいが、瞬間的に積分したい場合にはとても重宝するものであった。

「甘く見てると危ないぞ! 【浸透】!」

 まだ不定積分の域を超えてはいないので、ランダムではあるが、運良く【浸透】という言葉が付与された。

「何っ……!? ぐっ、ぐわああああああああああああ!!」

 【浸透】、つまり威力が相殺できないまま直撃を受ける。

 試験官はそのまま壁に激突し、意識を失った。

 そして、現在のグラルのステータスはあれから大きな変化を遂げていた。


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グラル・フォン・インテグラ─Lv22


HP:1009/1023

MP:4087/6587

SP:434/477


称号:【賢者】【エフダッシュ辺境伯次男】【転生者】【数学の探求者】【数学を極めし者】【シスコン】


固有魔法:【積分魔法】


使用可能魔法:【積分魔法(不定積分)】【積分魔法(部分積分)】


状態:【疾風迅雷付与】【浸透付与(一時的)】


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