平らな均衡は崩れていく

四隅四角

第1話 どのような変化を求めるか

 平和的、平凡的、不変化的。

 

 今の俺たちの住む世界とはそんな風に築きあげられている。青空から爆撃機が来る心配もないし、突如経済が破綻する心配もない。いや、このことに関しては絶対とは言い切れないが、少なくとも常にこのようなことを考えていて眠れないないという人間はこの国においてはそれほどいないはずだ。ましてや、学生身分などには。


 そんな諸行無常な時間が流れる中で、誰もが一度はこんなテーマの妄想を抱いたと事があるかもしれない。非現実、と。


 学校に突如、テロリストが攻め込んできて、籠城し、それを自分が打倒していくとか。ある日、爆弾が落ちてきて、自分は悲しみを背負い英雄になっていくだとか。まぁ、そんな妄想を抱いた人間も多いだろう。だが、俺の場合はそう言った妄想が現実化されるのは一向にもうれしいとは感じない。いや、戦闘狂ではない限り、誰もがそうだとは思うが。

 では、なぜ実際にこのような妄想が現実化されるのはうれしくないかというとだ。それはあまりにもリアルで身近で、起こらないというわけではないからだ。現実ではどこかの国で青空の下に爆弾が落とされ、死んでいっているし、また違う国では恐怖を宗教や思想にすり替えて、テロを起こし、命を奪っている。それが身に起きないとは言い切れない。


 実際にそんな命に係わるリアルに関わって誰が平然として立ち向かう精神を持っている? 俺たちがそんな現実に打ちのめされてできることは、せいぜい震えながら部屋の片隅で固まるか、しょんべんを漏らすことぐらいだ。

 

 では、他にどのような妄想を抱いたりするか。


 こんなのはどうだろうか。突如、自分はクラスの人気者になり、ラブコメの主人公になる。

 まぁ、これもいい。毎日が、ハートフルでエキセントリックな日常で、友情も恋情も満たしながら、日々を徒労することができるだろう。


 だが、だが…だ。こんな日常はいつしか俺は飽きてしまうのではないかと心配してしまう。なにせ、対象が友情と恋愛だ。こんなもの量を満たしてしまえば、飽きるに違いない。ましてや、ラブコメには男の場合は美女、女の場合にはイケメンだ。こんな顔面偏差値の高い環境で生きてしまえば、突如夢から覚めてしまう際、周りの世界が薔薇から雑草に感じるレベルだ。それに現実ではそんな洗脳したみたいに、媚薬を与えたみたいに、尻尾を振って人は寄ってこない。現実世界で人がそんな病的によってくるパターンと言えば、大層な金持ちか、有名人、もしくは一時の興奮のみだろう。現実と典型的ラブコメは常には関わり合わないのだ。

 

 では、俺はどのような妄想を抱き、その現実化を望むか。

 

 当然、理屈もつかない変化である。ひと昔なら、空から少女が降ってくるとか、目が覚めたら超能力が使えるようになっていたとか。今なら、異世界なんかがそうではないのだろうか。とにかく、現実的なことは当然のごとく、飽き飽きしている。特に、この情報社会ではほしい情報がたいていの限り手に入る。あの不思議な現象の正体は、あの誰も辿り着けない秘境は…。これらの疑問のほとんどが具体的な科学的論証によって、証明されしまい、ネットに公開されている。ましてや、秘境に至っては心優しく、そこにたどり着くまでの交通ルートとそこに行くまでの値段まで記載してくれているレベルだ。

 

 とにかく、俺は極端な変化を望んでるわけではないが、どこかスパイスのように舌に来るぐらいには屁理屈な現象もあってはいいのではないかと思う。すべてを見知って、すべてを理解して、そんな神の悟りのようなものはいらない。望むのはただ変化。俺の世界観をあっと変えてしまう、現象的な変化だ。

 

 しかし、不思議なものだ。何十億人いるこの世界で俺の願望は映画の一コマにも満たない短さで出会った桜川との出会いで、叶ったのだから。


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