よろしく

付き合ってから数十分、俺らはあの頃と何も変わらず対戦型のテレビゲームをしていた。

でも、三,四年前とは全く違う。

あんな告白で俺達は長く続くんだろうか。

想いを伝えようとしたら、告白という形になってしまった。

だから、美空がいつもの調子でグーサインを出してくれたことが嬉しかった。

幼馴染から、カップルにレベルアップした俺らはどこかぎこちなかった。

今まで通りに接するのは、少し難しかった。

名前が変わっただけって分かってるのに変に緊張しちゃって、フィールドを飛び降りたり、ポーズを間違えて押したり、お互いにいつも通りではないことを分かっていた。

美空に「夏樹、何笑ってるの?」と顔を覗き込まれるまで、頬が緩んでしまっていた事には気付けなかったくらい、

不自然なこの関係が堪らなく幸せだった。

もう二度と離れない。

お互いにそう約束を交わしたみたいな。

多分、家に帰っても、俺が寂しくなる事はないだろう。

だって俺らは、付き合っているから。

「美空。よろしく。」

コントローラーを持ち、テレビ画面を見ながら俺は、言った。

すると、画面に映る美空のキャラクターが動かなくなった。

俺が不思議に思って、右隣にいる美空の方を見ると、美空は口を開け、間抜けた顔をしていた。

「私。結構夏樹のこと好きだわ。」

思い出したとでも言うかのように、美空はそう言った。

「俺っ結構美空のこと好きだわっ」

俺は、突然の美空の発言に恥ずかしくなって、ふざけて美空を真似した。

「もー!前言撤回!ばか!」

どちらからともなく笑いが起きるのは、もはや当たり前で、そんなしょうもない会話をずっと繰り返していた。

付き合おうが付き合わまいが、大して何も変わらない。

そんな幸せに浸っている内に、段々と外は暗くなる。

小学校一年生の時の記憶にある曲がチャイム音で流れる。

懐かしい17時30分を告げる町内放送。

昔は、この曲が大嫌いだった。

この曲が流れたら、美空とバイバイしなくちゃだから。

「そろそろ…帰らなくていいの?」

美空が寂しそうに聞いてくる。

俺はまだ隣にいるというのに。

「あぁ。どうしようかな。」

親には、美空のお母さんに迷惑を掛けない程度で帰って来いと言われている。

「美空、この後なんか用事あるの?」

「特にない!」

用事があるか聞いただけでこんなに元気な返事が帰ってくる。

ずっとこの幸せな空間にいたいと思わせるその声に俺は釣られた。

「晩ご飯は何時に食べる予定なの?」

「うーん…18時くらい……かな……。」

「じゃあ…その時には帰るよ。」

あと30分しかいられないのか。

途端に切なくなる。

寂しくなる事はないだとか思った、少し前の俺を殴り殺してやりたい。

今の時間が幸せなんだから、帰ったら寂しくなるに決まってる。

どう頑張っても時間は進む。

そう自分に言い聞かせ、ゲームを楽しみ続けた。

「みくー!!」

名前を呼ぶおばちゃんの声に美空がコントローラーを置き、扉を開けると階段の下から、香ばしい香りと共におばちゃんの声が聞こえてきた。

「ご飯だよー!夏樹も一緒に来なー!」

「はーいっ!」

そう返事をすると美空は何故か扉を閉めた。

俺がまだここにいられることを喜びながらその事に疑問を持った瞬間。

「ぃやったー!!!」

美空の明るい声が部屋に響いた。

「どうしたの?」

急に叫ぶので驚いた俺はそう聞いた。

「どうしたのってなによっ!?

まだ一緒にいれるんだよ!

最高じゃんっ!!」

美空は俺の手を掴み、飛び跳ねながら言った。

「ほらいこっ!!」

俺の手を握り、階段を降りる美空の背中を見ながら俺は改めて─────。

────幸せ者だと実感する。

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