第四話 試練

「えぇ……なんで勝手にそんな話にしちゃうんですかー?」

「だってだって、こいつが喧嘩売ってきたんだもん!」


 幼児退行すんなキモいぞジジイ。

 とはいえこんなヤツがギルドマスターとか世も末だろ。

 俺は何のために魔獣戦線や王国からこの国を守ってきたんだろうか………。


「いいんですか? このお爺ちゃん、仮にも帝国宮廷魔導団の元第3位ですよ?」

「一度約束したんだし、取り消しなんかさせないもんねー!」

「ギルドマスター。キモい」

「あっはい……」


 何でもいいけど宮廷魔導団と戦ったことないから実力がわからない。

 王国レベルで考えていいなら、結構強いと思うんだが。


「構わない。さっさとやろう」

「ふん、いつまで尊大な態度を取ってられるかのぉ?」



–––––––––––––––––––



「おいガキ! まずは小手調べじゃ。何でも好きな技を撃ってくるといいわ!」


 訓練所みたいなところに連れてこられ、そこでジジイと対峙する。

 なんだか偉そうなことを言い出したが、実際のところ俺と戦えるなんてだいぶ光栄なことだと思うぞ?

 しかも死なない。俺と戦って死ななかったヤツとか10人いるかいないか。その中に入れるってわけだ。


「ほう、いいんだな?」

「ふん! 力の差というものを見せてやるわい!」


 それにしてもどれくらいの強さか分からないというのはやりにくいものだ。

 どの技を使っていいか分からない。

 

とりあえず、ヤザークを倒したアレでいくか?


「噛みちぎれ〈螺旋の大蛇クンダリニー〉」

「………っ!?」


 見慣れた大蛇がジジイに向かっていく。

 アレ? 反応しない? 

 動いていないだと………? 何か反撃があるのか!? それとも罠!?

 くそっ! 迂闊に攻撃できない!


「ちぃッ!」


 俺は結局、罠を警戒して技を解除する。

 

「おいジジイ、どうだった?」

「ハッ………!? な、なかなかであったな。うん。引いたのは正解じゃ」


 やはり、様子見だったか。

 〈螺旋の大蛇クンダリニー〉を前にして、普通に立ち尽くす人間がいるわけがない。

 するとジジイは訝しげに、俺に向かって質問してくる。


「お主、〈ムーラダーラ・シャクティ〉が使えるのか?」


 何を言ってるんだ。ムーラダーラのチャクラはものの基本だぞ? 普通の奴なら使えるだろう。


「当然だろう?」

「と、当然……! そ、そうか。まあワシも使えるからのぅ………」


 当たり前のことを言うんじゃない。

 もしかして、ガキだからムーラダーラのチャクラも使えないのだと思われていたのか?

 それは心外だな。


「誤解してもらっては困る。俺はまだ15歳だがな、アナーハタのチャクラまでなら苦もなく使えるぞ!」

「な、なんじゃと………!?」


 そもそも「ムーラダーラ」「スワーディシュターナ」「マニプーラ」「アナーハタ」のチャクラを使いこなせて初めて大人と認められる。

 って、クソ親父が言ってた。

 まあそれ以上も使えるのだが、奥の手は取っておくのが定石というものだ。


「まあ当然ジジイも使えるだろうが、15歳にしては出来ている方だと思うのだが?」

「そ、そうか………ま、まあワシも当然使えるけれど! 

 よ、よし! わかった! お主の冒険者登録を認めてやろう! アユーシ! この子の担当をしてやりなさい!」

「はい!? 担当ですか!?」


 なんだか知らないが、冒険者にはなれるようだ。しかも美人の巨乳受付嬢付きで。

 最高だな。


 アユーシ、と呼ばれたそのボイン嬢ははじめは驚いていたものの、さすがプロといったところか。

 すぐに現状を把握して対応し始めた。



––––––––––––––––––––



 おかしい。

 あの少年はおかしい。

 少年がアユーシと去ったあと、ギルドマスターであるヴィハーンは考えていた。


 生物にはエネルギーを取り出すための場所があり、そのエネルギーをチャクラという。


 第一のチャクラ、ムーラダーラ。

 これを使えるというものはざらにいる。

 ムーラダーラにはシャクティという力が宿ると言われている。

 彼の〈螺旋の大蛇クンダリニー〉もその〈ムーラダーラ・シャクティ〉の派生だ。


 それでも15の少年が使えるという話は聞いたことがない。あれは長年の修行で手に入れるものだ。


 第二のチャクラ、スワーディシュターナ。

 これを使えるというものはかなり少ない。

 それでも、まだいる。数人、超越者とも呼べるような者たちが使っているのを見たことがある。

 15の子供が使っているのをみたら、誰もが卒倒するだろう。


 第三のチャクラ、マニプーラ。

 そもそも存在自体あまりしられていない。

 かつてひとりだけ、見たことがある。超越者という言葉など小さすぎる。

 もはや神と言ってもいい男だった。

 15の少年が使えるなど、ありえない。


 第四のチャクラ、アナーハタ。

 見たことがない。聞いたことはある。

 伝承の何かだとずっと思っていた。

 だがあの少年が嘘をついているようにも見えなかった。


「おかしい………」


 あの少年の〈螺旋の大蛇クンダリニー〉がえぐったギルドの訓練所の壁に目をやった。

 この訓練所はかつてSランク冒険者のアディティアが大暴れしたせいで壊滅したため、彼が暴れることを考えて作られている。

 その壁を、〈ムーラダーラ・シャクティ〉だけでぶち壊したのだ。

 彼は言っていた。

 その上も、まだ使えると。


「これはヤバいのぉ………」


 老いたギルドマスターは後悔とともに安堵する。

 たまたま気紛れにアユーシの目を盗んでギルドの受付をしていたことを。

 まだ上があるという恐怖を知ったことに後悔し、これが他人に知られなくてよかったと安堵する。

 皮肉にも、ヴィハーンが受付をしていたことは世界にとっては大きな幸運だったかもしれない。


「これも因果………か」


 何にせよ、アユーシには彼をうまくコントロールしてもらわねば困る。

 そろそろ自分の遊び相手も卒業だと、そう思った。



–––––––––––––––––––––



「冒険者にはランクがあるんです。

 上からS、A、B、C、D、E、Fランクです。

 依頼を達成すればポイントがもらえて、ある程度貯まればランクが上がります。

 ラーマ君はなりたてなのでFランクですね」


 何事にも等級をつけたがるのが人間という者だ。まあ俺も好きだけどね? ランキング。

 思いっきり部下にランク付けていたしな。


 アユーシに冒険者についての説明をしてもらい、ある程度は理解できた。

 つまりは依頼を受けてこなせば、ランクが上がっていくということだ。


「分かった。では初依頼を受けてみたいのだが、何がいいと思う?」

「うーん、そうですねー………まずは基本の薬草採取とかでどうですか?」


 そう言ってアユーシは依頼の紙を取り出した。

『ガーシュマ草の採取』と書かれている。


 まあそんなところか。

 冒険者と、薬草採取は勝俣も切り離せないものがある。というわけで俺も結構憧れていたのだ、薬草採取。


「よし、それでいこう!」

「気をつけてくださいねー!」


 とまあこうして意気揚々と冒険者ギルドを出てきたのだが、ガーシュマ草ってどんな草なのだろうか?

 そもそもの自然治癒力が高すぎて薬など使ったこともないから思い浮かばない。

 

「図書館、いくか」


 困ったら本。これ大事。

 クソ親父が何も教えてくれなかったから、昔からよく魔王城の図書館に通ったものだ。

 なんなら愛読家ですらある。

 

 この街にも図書館があるっぽいし、平日の過ごし方決まったな。

 

 俺は早速図書館に向かって歩き始めた。



––––––––––––––––––––––



「ほう、なかなかの大きさではないか」


 ナハーティーの図書館は結構な大きさだった。さすが六大都市。

 天井まで本が埋め尽くされている。


「さって、薬草薬草っと………」


 俺が薬草の本を探し始めようとしたそのときである。

 同い年くらい少年と図書館の人間の言い争いが聞こえてきた。


「ですから、図書館の司書になるには若すぎると………」

「いえこう見えてもこの私、長い時を生きておりますので。人間如きの判断基準に照らし出さないでくださいませ」

「ですから、そう言った嘘をつかれても困ります………!」


 ふむ、そういえば。あんな喋り方をする奴が俺の部下にもいたなぁ。

 王城図書館の司書兼、1番の知恵者にして俺の参謀ウィジャス。

 確かあいつには俺を倒したあとの勇者の補佐を頼んでいたはずだ。

 うまくやっているかなぁ………?


 図書館の人間と少年の言い争いは続いていた。


「だいたい名乗りもしないで急に『この私を司書にしなさい』だなんてあり得ないでしょう!? 人にものを頼む態度を親に習わなかったの!?」

「生憎、人間にものを頼んだことがなかったもので。………ですが確かに名前を名乗らないというのは礼儀に反していたかも知れませんね。私の名は『ウィジャス』。改めてこの私を図書館の司書にしなさい」


 勢いよく、しかして傲慢に、少年はそう言い放った。


 はっはっは。




 …………マジ?

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